如月桃
昔は、今の自分とは真逆で。自分で言うのもなんだけど控えめというか、大人しいというか。静かで目立たない子だったと思う。家族でいてもそんなに喋らないし、多分口数が少なかったんだよね。
でも、あの海で溺れたときから変に目立つようになって、必然的に周りの子と話す機会が多くなった。機会が多くなるってことはそれだけ明るく振る舞ったり、元気に見えるようにしなきゃなわけで。正直辛かった。お父さんが自分のせいで死んじゃったこともあるけど、それでもお父さんの分まで頑張ろうって思ってたから。だから頑張れたし、多少のことは気にしないようにしてた。
けどさ、私みたいに『目立ちたくないのに目立つ人』は、『目立ちたいのに目立たない人』に妬まれるものなんだよね。それは分かってたけど、それで私に当たるのはおかしいと思う。だって私としては目立ちたくないんだし、目立とうと思ってるわけじゃない。自分でも理由が分からないまま、変に注目を集めてるだけ。こんなのって不公平だよね。
絵が好きで入った美術部でもそう。コンクールで先輩の作品が入賞しなくて、私のが入賞しちゃったことがあった。私、素直に嬉しかった。お母さんやお兄ちゃんに褒めて貰えるって。自分の実力を確実に認めてもらえたんだって思って凄く嬉しかった。けど、喜んでる私を見て先輩が吐き捨てるように呟いたのを聞いちゃった。
『いつも目立ってるんだから譲ってくれたっていいじゃない。私はこれが最後なのに。なんであなたなのよ』
その言葉を聞いて私はただただ怖かった。その言葉が、その先輩という1人の人間をを信じられなかった。先輩が今まで冷たかったわけじゃない。急に冷たくなった。このコンクールの結果が出る前までは、お互い頑張ろうねって言ってくれて、凄く良くしてくれて。良い先輩だって尊敬してたし、そんな先輩が好きだった。
なのに。急に先輩は私に対する態度を変えた。
思えば──いつもそうだった。私が何かをするたびに人は私を嫌う。
それはただの嫉妬だったかもしれない。けど、私にとってその言葉は『嫉妬』なんて言葉で片付けられるようなものじゃなくて。それは私の心を深く抉り、抉られた心は癒えることがなかった。
けどね。私やっぱりこんなことになっても嬉しかったんだよ。お母さんやお兄ちゃんに言ってみたら、お母さんは『あら本当!?モモ、部活頑張っていたものね!明日お祝いのケーキを買ってきましょうね!』ってとても喜んでくれた。お兄ちゃんはぶっきらぼうに『おめでとう』って。ぶっきらぼうでも今まで私に対して褒め言葉なんて言ったことがなかった。そんなお兄ちゃんがそう言ってくれただけでも私は嬉しくて、部活でのことを忘れられた。
それからかな。人の笑顔を見ると堪らなく嬉しくなる。アイドルにスカウトされたときも決め手はそうだった。芸能界なんて下手に入るものじゃないし、周りの人から今まで以上に特別な扱いをされる。それが嫌で悩んでたけど、ちょうどその頃お母さんが倒れてお金があまりない時期だった。それもあって私はそのスカウトの話を請け、今現在活動している。

街で声を掛けられたとき私は思った。光輝くステージで歌って踊って人を楽しませる。素敵な仕事だ。私の変に注目される体質が良い方に役立てるなら是非私はやりたい。やらせて欲しい、と。ステージに立つ度に、一人、また一人と笑顔が増えてく。こんなに幸せだと感じたことはないかもしれない。

この能力もプライベートでは厄介だけど、人を楽しませることが出来るなら。この能力も案外悪いものでもないのかもしれない。
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