木戸つぼみ
俺には分からない。幸せかどうかだなんて。
孤児院にいた頃より楽しいし、みんなでわいわいやるのが嫌なわけじゃない。ただ、それが俺以外のみんなの幸せに繋がるのか、とか俺だけの自己満足なんじゃないか、と思うとどうしても今自分が幸せだと思えない。胸を張って言えないんだ。
お姉ちゃんに言ったらどんな返事が返ってくるだろうか。
『つぼみは幸せだよ』と励ましのように言ってくれるのだろうか。見てるこっちまでが笑顔になるような幸せそうな表情で。
セトだったらきっと『幸せに決まってるじゃないすか』と明るく言ってくれるだろう。不幸?そんなことあるわけがない、とでも言うかのように。
カノは、カノはなんと言うのだろう。いつもからかわれてばかりだからか思いつかない。
カノは人一倍気を使い、その人にとってどれがためになるのか、どうしたらその場が良くなるかを考えて行動するからなのか。誰よりも喰えない奴だ。
でもこうだろうな。『キドが幸せじゃないなんて言わせないからね』って。お姉ちゃんがいなくなってしまったことで誰よりも幸せの価値、命の価値をわかっているカノだからこそ。俺が不幸せだ、なんて言ったら怒るだろう。
ああでもよく考えてみれば俺は不幸なのかもしれない。
火事で俺だけ生き残り家族を亡くし。
孤児院では赤い目のせいで差別され。
引き取ってもらった家の家族は全員亡くなっている。
もしかしたら俺がいるせいで、俺の周りの人は不幸な目にあってるのではないか。
それならば、それならば、いっそ消えてしまいたい。
この能力にピッタリではないか。影を極端に薄くし、人からは気づかれない。
『まるで幽霊のようだ』
孤児院の大人たちはひそひそと俺のことをそう騒ぎ立てていた。
いっそ幽霊だったら、誰にも迷惑を掛けずに済むのか。
───でも、それで俺は幸せか?
いや幸せだな。俺がどうであろうと周りが迷惑だと感じずにやっていけるのだから。
少なくとも俺のせいで不幸だなんて思わなくてすむのだから。

俺が幸せかどうかじゃないんだ。
俺の周りが幸せなら俺も幸せなんだ。
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