ONE PIECE | ナノ


繰り返し一粒

「……あなたも捨てるのね……」
薄暗い部屋のなかで私は吐き捨てるようにつぶやいた。
「ん?何か言ったか?ニコ・ロビン」
「いえ、何でもないわ。ただ……」
今になって分かったわ。この人もどうせ私を“便利な道具“としか思っていない。
そしてまた私はいつもと同じようにー
「さっきの素敵な叔父様はどなたかしら?気になっちゃって」
目を見開く彼に私は続けた。
「海軍の制服まで来てたわね。あの歳でそういう趣味は少し頂けないかしら。
ふふふ……、もしかしたら本職かもしれないけれど」
先程までただ驚いていただけの彼は急に何かを決意したかのようにキッとこちらを睨みつけてきた。
「分かってるならしょうがねェな、、、。お前には随分と世話になったがこれとそれとでは話が別だ。」
そうね。散々あなたたちのお手伝いをしてきたわ。もう半年になるかしら?
この組織なら今度こそ……本当に仲間になれたと思っていたのに。残念だわ、本当に。
「話が別……ねぇ?……そう。分かったわ。ならば、躊躇うこともなく殺せるわね」
だってそうでしょ?あなたと私は組織の中のリーダーと補佐役だったけれど、それも結局は関係ないと言うのだから。
私たちがどこまで仲が良かろうと、どんなに楽しく長い時を過ごせていたとしても……今は“関係ない“と言うのだから。
私が胸の前で手を交差させると、彼は横の小さなテーブルの上に乗っていた小型の銃を構えた。
そんなもので私を殺せるだなんて思っているの?少し無謀すぎないかしら……ふふふ……。
「躊躇いもなく人を殺せるからこそ、お前が怖い」
「無茶苦茶なことを言うわね。あなた、最初に言わなかった?
“人を躊躇うこともなく殺せないやつなどおれの組織には要らねェ“って」
「確かに言ったさ。でもな、お前だけは信用できねェんだ。」

「お前にはー……」

「……信じていた相手にそんなこと言われるなんて……馬鹿みたいね……」
そう呟いた瞬間になんともいえない不快な音が部屋に響いた。


「ねぇ船長さん。私、人間らしくないかしら?」
船医さんたちと釣りをしている船長さんにそっと歩み寄りずっと考えていたことを訊く。
「んあ?どうしたんだ?ロビン」
「おいおい、悩み事ならこのキャプテ〜ン・ウソップ様が聞いてやってもいいんだぜ〜?」
「急にどうしたんだ?ロビン。病気か?病気ならおれが診るぞ!!」
本当に楽しい人達。
釣りに集中してるかと思いきやちゃんと人の目を見て話を聞いてくれる船長さん。ふざけながらも本当はしっかり悩みを聞こうとしてくれている長鼻君。心配しすぎていつも何かあると病気と解釈してしまいがちな船医さん。
ここはとっても居心地がいい場所。けれど私にここは勿体なすぎる。私のような何回も捨てられて汚れた女が来る場所ではない。
そして私はまた嘘をつく。
「ふふふ……ちょっとそういう本を読んだだけなの。悩み事とかではないのよ?心配させてしまった?」
「いや、何もねェならいいんだが……。まずどんな本だよ、それ」
「はぁ〜心配したァ〜」
「なんだァ〜心配させんなよなァ〜。」
ホッと息を吐いたかと思うと彼は小さく呟いた。
「大体人間らしくねェ人間ってどんなやつだよ。いんのか、そんなやつ。」
そうか。私はその答えを探していたのか。
“人間らしくない人間なんていない“と肯定してほしかっただけなのかもしれない。ただ私を心から信じて、一緒にいてくれる……そんな仲間、友達が欲しかった。
あの日、自分の故郷が火の海となり地図から消えてしまったあの瞬間から私はずっと寂しかった。
誰かと一緒にご飯を食べる、どうでもいいことで喧嘩して、仲直りして、信頼できる仲間と一緒にいて。
全て、私が今までやりたかったこと。やりたかったのに許されなかったこと。それを全て私にくれた。あなたたちとはもう離れたくない。
このぬくもりに触れて、そのことに慣れてしまったなら。もう離れてあの冷たい日々に戻ることなんて堪えられないから。
どうか。私を捨てないで。

一番信頼してたはずの組織のリーダーに売られそうになったあの日。彼はこう言った。

『お前には人間らしさがこれっぽちも見当たらねェ。そんな薄気味悪ィ奴なんか組織に置いておけねェな。例えどんなに仕事が出来ていたとしても、だ。』

その言葉を聞いた瞬間に全てがどうでもよくなった。
“あなたのために今までやってきたことはなんだったの?“
“仕事が済めばお払い箱?まるで消耗品扱いね“
“どんなにひどい仕事もこなしてきたのに。その時についた傷跡もまだ残ってるわよ?消したくても消えないもの“
“これじゃあ私が夢を見ていただけみたいじゃない。あなたの言葉は全て嘘だったというの?“
“『愛してる』だなんて口先だけなのね。私を釣り上げるためだけなのでしょ?その甘い言葉は“
いいたいことなんて山程あるのに。口先からついて出たのは自虐的な一言。
最後まで私はあなたに悪口なんていうものを言えなかった。どこまで私は彼に甘いのかしらね。つくづく呆れちゃうわ。

目の前には今の仲間が立っている。私を助けるだけのために自分の命まで賭けて助けに来てくれた。
いいのよ。こんな足を引っ張るだけの仲間。ここに置いていった方があなた達のためになる。
こんな、生きてることすら許されない、生きているだけでも罪となる私など、どうせあなた達もすぐに重荷に感じてしまうから。
そんな女を一人助けることであなたたちが得をすることなんてこれから一つもない。
オハラの生き残り?悪魔の子?そんな称号なんていらない。私は普通に過ごしたかった。指名手配されたおかげで周りのことなんか何も信じられなくなった。
なにが『お前には人間らしさがこれっぽちも見当たらねェ』 よ。私をこんな風にしたのは全てあなたたちじゃない。
誰かに裏切られるのが怖くてしかたがないから。だから私からいつも裏切るの。
でもどうしてだろう。私は彼らを心から信じてしまった。信頼してしまった。
何より彼らを“仲間“と思ってしまった。自分の命に変えても守りたいと思ってしまった。その心には嘘もなにもない。それならば誓おう。

ー私を信じてくれる仲間を命を賭けても守るとー


そして、長鼻君は旗を打ち破った。


…あとがき…
ロビンがルフィたちに出会う前のお話でした。タイトルはあの有名なボカロ曲から。なんとなく失恋の曲以外にも解釈はあるんじゃないかなーと思い、当てはめてストーリーを考えてました。

更新(26/02/23)

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