ONE PIECE | ナノ


溺れる

「どうしたもんかな」
隣でぼーっと一点を見つめ続けている彼女を尻目に呟く。まあどうしたもこうしたもなく、彼女を女部屋に帰してやるのが普通なのだが。今夜はそうもいかない。なぜなら今夜は女部屋でとある2人の逢引が行われているからである。クソ迷惑な上にこいつらに配慮しなきゃいけないことにまず腹立つ。……が、愚痴を言っても仕方がない。まずはこの今の状況をどうするかである。
午後11時。いつも通り船長の気分で始まった宴は今日は早めにお開きとなった。いつもなら夜通し騒ぎ続けるのだが、そのルフィ本人が誤ってやたら度数の強い酒を一気飲みし酔い潰れてしまったためである。まぁここまでは稀にあることなのだ。
しかし想定外だったのがロビン。「お酒は嗜む程度」と言っていた彼女だがどうやら今日は「飲み過ぎた」らしい。確かに普段よりも酒が進むのが早かった気がする。
で、その当の本人は今俺の肩に身を預けてすやすやと寝てしまっている。別に特別な間柄ではないのだが、自身の彼女に対する気持ちは周囲に既にバレているからか、あのぐる眉にもやっかまれずに置いて置かれている。ラッキーといえばラッキーなのだが、どうもこの状況はキツい。頬をほんのりと赤らめ、普段からは考えられないほど無防備に寝顔を晒している。それだけ心を許してくれているのか、はたまたそれほどに意識されていないのか。そんな複雑な心境と、単純に好いた女がこんなにも無防備な状態で隣にいるという完全に理性崩壊な条件が揃えられているのがなんとも。脳筋の自覚はあるので考えるのをやめ、もういっそここで俺も寝てしまおうかと腕を組んで座り直した時だった。
「……ゾロ」
ぽそりと。隣にいなければ聞こえないぐらいの微かな声で。名前を呼ばれた。
「なんだ」
それがどうせ独り言なんだろうと、たまたま緑が見えたから呼んだぐらいなんだろうと分かっていながらも返事をしてしまう。
「……ありがとう……」
それはいつもの少し澄ましたような大人びた笑顔ではなかった。ふにゃあという言葉が一番似合うんじゃないかと言うぐらいの幼さを感じさせるような笑顔。柄にもなくかわいいなどと思ってしまう。口元が自然と緩んでしまったのが我ながら気持ち悪くて、悟られないよう顔を背けながら尋ねる。
「……なにがだ」
「ふふ、こうやって付き合ってくれてってこと。ごめんなさいね、ちょっと今日は飲みすぎちゃったみたい」
ああ、いや。と、我ながらぶっきらなぼうな返事になってしまった。こちらの返事などさして気に留めていないのかロビンは普段よりも饒舌に話を続ける。
「介抱してもらってありがたいのだけれど、部屋には帰してもらえないのかしら」
少し困ったように笑う。察しのいいロビンのことだ、おおよそは分かっているだろうが。
「女部屋は……まぁなんだ、察してくれ」
少し考えるような素振りをしてみせる。言うまでもなくわかっているくせに、こういうところが年甲斐もなくお茶目だ。
「そうね、逢引の邪魔なんて野暮な真似したくないもの。わかったわ」
「すまんな。俺は不寝番も兼ねているから別にこのままで構わないんだが……、お前はどうする」
今日の不寝番は俺とブルックである。ブルックには異変が起きたらすぐに駆けつけるという条件の元、甲板に立ってもらっている。ナミ曰く、この辺りの海は落ち着いているし気を張り詰める必要はないと言われているし、ロビンまで不寝番に巻き込むことはない。それにロビンはまだ酔いが覚めていないように見える。
「どうしようかしら……。戻る部屋もないし、ゾロが良ければ今夜は隣にいていいかしら」
さっきからうるさい鼓動がますます加速してうるさい。やめろ、なんだその顔は。小首を傾げてそんな、普段からはかけ離れた幼い笑顔。そのくせどこか寂しげな妖しさまで漂わせて。仲間なのにそんな言葉ひとつで俺は平常心を保てないぐらいお前に溺れているというのに。普段の察しの良さがあればわかるだろう。
「構わねぇが……、寝てなくて大丈夫なのか。なんならソファでも寝たほうが楽なんじゃ……」
「……あなたって本当不器用ね。優しさも大切だけれど、今はその優しさが邪魔しているように見えるわよ」
擦り寄ってくるロビンをまるで幻ではないかというような目で見ていると、ロビンは少し笑って俺の目を見つめ直す。
「今夜ぐらい夜更かししたっていいじゃない。私はゾロと少し話がしていたいわ」
「睡眠よりも……?」
「あなたって本当に頑固。……でもそうね、あなたの肩を借りてもいいのならそれも悪くないわ」
「なっ……!!」
顔を真っ赤にしてあたふたする俺を真っ直ぐに見つめて可笑しそうに笑う。なんたってそんな余裕が生まれるんだ。悔しく思いながらもやっぱりこの人が愛しい。
ロビンの言う通り今夜ぐらい、だ。きっとこんな奇跡的な状況もう巡り会えない。ならば甘んじてこの女と夜を楽しもうじゃないか。仕方ねぇなぁ、とわざとらしく仕切り直す。平常心、と心を落ち着けようとしたが口元がにやけてしまったかもしれない。

「『今夜は』お前に付き合ってやるよ」


10000打リクエストでたむたむ様から、ロビンが酔っちゃってそれを介抱するゾロ(ゾロロビ)といただいていたので。非常に消化遅くなってしまってすみません…!ロビンの一枚上手な感じがゾロロビは好きなのでそんな感じが出せてたらなーという感じです…。たむたむ様のみお持ち帰り自由です!

更新(28/08/26)


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