ONE PIECE | ナノ


想い出

「ルフィさん...元気かな?」
窓から見える青い空。ただただ、ぼーっと眺めていただけ。それなのに何故だか急に思い出した。
今世間を騒がせている彼らは何をしているんだろうか。時々、新聞で見るけれど、やっぱりそれだけで。少しも彼らのことなど分かりゃしない。
今は私が知っていた頃より仲間も増えて、事情は少し変わっているだろうけど。それでもあの仲間達といたいと思ってしまう。
やっぱり、楽しいかな。
私もあの輪の中に入れたら良かったのに。きっと、みんな笑顔で迎えてくれた。
でも、あの時私がみんなのもとへ行かなかったのはこの国の"王女"としてのけじめのつもり
。あの場で私が国から逃げていたら。そしたら国は、国民はまた不安定なまま進んでいくことになる。雨が降ったという歩み直せるチャンスまで掴めたのに、私が逃げたらそこでまたこの国は止まってしまう。
一国の王女として、それから逃げるなんてこと許されるはずがなかった。いや、拒めなかった。
それを生まれのせいだとか、ぐちぐち言いたい訳では無いけれど、やっぱり空や海を見ると思い出してしまう。
あの明るくてとても頼りになる船長のこと。居眠りばっかりしている方向音痴な剣士のこと。お金が大好きで面倒見がいい航海士のこと。女の人にはとことん弱い料理人のこと。発明が得意で鼻が長い狙撃手のこと。照れ屋さんで真面目な医者のこと。
みんなみんな好い人だった。あの船の空気が、居心地がよくて。それが堪らなく好きで。
私が今まで見てきた海賊とは少し、いや全然違う。
みんなの過去の話なんてしたことないから、よくは知らないけれど、きっと昔辛い思いをしてきたんだと思う。
大事な人を守ろうとするときの顔を見ていてそう思った。自分を犠牲にしてでも、相手を助けたいという強い気持ち。何があっても崩れない信頼。必ず守るという揺るぎない信念。
それを見て、いつだか少し寂しく思ったんだっけ。
この人たちと私は違う。そう、なにか決定的に教えられた気がして。
別れるときも僅かながら思っていた。
この人達と自分は釣り合わない。あの船で足手まといになってしまう、と。

「姫様ぁーっ!!」
「どこにおられるのですか!!」
突然、バタバタと廊下を走ってくる音がした。いつも静かなだけに足音が響く。普段、そんなに騒がない侍女達がこんなに騒ぐのは珍しい。何か町のほうであったのか。
私は部屋から顔を出すと、一番近くにいた侍女に呼び掛ける。
「マリア、どうかしたの?」
「あっ姫様!ちょうど探しておりました。海岸の方に海賊船と思われる船が──」
「……海賊船……?」
「え、ええ、そうなんです。見つけた者が言うには、…姫様の仲間、だとかなんとか。そんなお戯れ通じるわけがないというのに」
ルフィさんかもしれない。直感的にそう思った。あれからもう何年経ったかさえ定かではいけれど、それでも彼らが来たかもしれないと思った。
「……お戯れなんかじゃ、ないかもしれない……」
「……姫様?」
「あ、ああえっと……それでその海賊をどうしたの?」
「どうしても姫様に会いたいようでしたので、姫様に確認をとってから国への入国許可等する、と」
「……そう……あれ、お父様は?」
「今日は地方で会議があった筈ですが……それが何か?」
怪訝そうに侍女は首を傾げる。それもそうだ。まだここに勤めて一年といったところか。この国がルフィさん達に助けられたことを知らない筈だ。
「いえ、お父様に確認を取れば早かったんじゃないかって思っただけなの。それに入国許可とかは、お父様にほとんどの決定権があるし。私が許可しちゃってもいいのかなって。」
「ああ、いいんですよ。」
いとも簡単にこくん、と首を縦に振った。
「コブラ様は姫様のことならなんでも……まあハッキリ言ってしまうのなら"親バカ"ですからね」
くすくす笑いながら言う侍女。はたから見たらそう感じるものなのね。まあ私も薄々感じてはいたけれど……それ、お父様が聞いたらこの侍女即クビね。そんなことを考えていると、不意に背後から怒鳴り声が。この声は──
「マリア何おしゃべりしてんのよ!許可貰ったら早く下にいる兵達に伝えてって言ったじゃない!!」
侍女長のベルだった。……しかも結構…… いや、かなり不機嫌な様子。
「わわわわわわ侍女長様ぁっ!!!!ごごごごごめんなさいいいいいいいいっ!! 今すぐ行きます!!!」
マリアは焦ったのか、バグったみたいになっている。これじゃあまりにも可哀想である。
「いえ、私が引き留めてしまったの。マリアだけが悪いわけではないのよ。マリアのこと、そんなに怒らないであげて」
「姫様が言うなら別にそんな……怒ったりしませんけど、っていうか怒ってませんし。……本当ね?マリア」
ベルが横目でマリアに確認を促す。すると、マリアは首がもげそうな勢いで首を縦に振る。
「はいっだいじょうぶです何も問題ありませんマリアは駄弁ったりなんかしませんからご心配なくむしろ真面目すぎるくらいだと思うんですけどねまあこれは冗談として何も気にすることなどございませんわほほほほほほほほほほ」
えー……マリアご苦労様。そして自分で自分のキャラを壊すとかやめたらどうだろうか。自爆にも程があると思う。
「あ、じゃあ私兵に伝えてきますねッ!」
「では姫様出掛けの用意致しますね。ここからだと大体……」
『おーいっ!!』
『ちょ、あんた待ちなさいって!』
『俺はちゃんと待とうって言ったからな!』
「下が騒がしいわね……ってあれ?!あの海賊!」
聞いたことのある声。これはきっと私が大好きな人たちの声。
私はベルに確認のために訊いた。
「ベル……この人たちが?」
「ええ、そうです。そうなんですけど姫様……!」
私はベルの答えを待たないうちに、窓から体を乗りだし彼らに向かって叫んだ。

『ルフィさん、みんな!いらっしゃい!!』


更新(26/02/23)

[+bookmark | << |>>| back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -