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泡になった君を一生愛し続ける


美しい美しい私の姫。好奇心旺盛にキラキラと輝く瞳。神秘的にも閉じられた赤い唇。日に焼けていない真っ白な透明感ある肌。ふわふわと軽やかになびくウエーブのかかった黄緑の髪。何も知らない純粋無垢な心。全てが愛おしい。その全てを独占したい。奪ってしまいたい。

きっとこれは俗に言う、一目惚れというやつだろう。小さい頃から王宮で育った私には初めての経験だった。
王宮にいれば、それだけで女が寄ってくる。向こうから全部声を掛けてくる。隣国の姫だとか、どこぞの伯爵の愛娘だとか。釣り合う位の地位に文句のない美貌、財産。
欲しいと言えばすぐに与えてくれたし、こうしたいと言えばなんでも許してくれた。
だからなのかなんなのか。素直に手に入らないことなんて初めてで。なんとしても、自らの手で手に入れたいと思った。

夜空が綺麗な夜。空を見上げながらボートをゆっくりと漕ぐ。時がここだけのんびりと流れているような、それぐらい心地良い空間だった。
「今夜はいつもより星が出ているな。星は好きか?」
「………」
微かに微笑んで頷いた。口は開かない。
「そうか。私も好きだ。……そういえば、君はどこに住んでいるんだい?君のその綺麗な黄緑色の髪、この辺では見ないのでな」
「………」
返答に迷っているのか、それとも言いたくないのか、俯いてしまった。
「なぁ、君はどうして頑なに口を開かないんだ?」
問いかけても君は黙ったまま。
「僕が嫌いかい?」
とんでもない、と言いたげに首をぶんぶんと振る。じゃあ、どうして、と続けると、君は口をパクパクとさせ、身ぶり手振りで伝えようとしているのか、喉を指したり手を振って見せた。
「声が、出ないのかい?」
"イエス"。そう言いたげに頷いた。
「それなら私が医者を紹介しよう。なかなか信頼できる良き医者を知っているんだ」
今度は反対に、嫌々と首を振る。どうしてだ、と言うとまた首を振る。
「もしや、生涯持ってしたものなのか?」
少し迷った素振りを見せたが彼女は1度だけ頷いた。
「そうか、それは可哀想に。話が出来ないとは、さぞ辛いだろう」
しんみりとした空気の中、ボートは湖を一周して岸に着こうとしていた。もう終わってしまうのかと思うと、ずっとこのままボートを漕ぎ続けていたいとさえ思った。だが無情にもボートは岸に辿り着き、彼女との逢瀬の時間も終わろうとしていた。
「ではまた、縁があったら会おう」
「………」
嬉しそうに頷く。次なんて分からない。だから約束はできない。
でもきっと君とはまた会える。そう思う。理由は分からない。でも直感的にそう思った。
じゃあ、また、と別れ際、最後まで手を振り続けた。彼女は何度も後ろを振り返って手を振り返してくれた。
いつまでもずっとこの甘い時間が続けばいい。
彼女に悲劇なんて起こらなければいい。

いつになく浮かれていたから。
だからこのあと、彼女が悲惨な運命を辿るなんて全く考えてもみなかった。

だから、このとき浮かれていた私が君と過ごせるのはこれが初めてで最後だったなんて思っていなかった。

ああ、君と初めて出会ったあの浜辺で、私を助けてくれたのが君だと早く気づけていたら、

君は消えずにいたのだろうか?



人魚姫って童話の中で一番好きです。こんな王子様らしく王子様も想ってくれてたらいいなって話。

題名はこちらのサイト様から
ラガーフリークは独りきり


更新(27/11/14)



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