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『それから』と『そのあと』

▽人誅編までのネタバレ有り
▽星霜編完全捏造

「お久しぶりです、緋村さん」
聞き覚えのある声がして、振り返る。余りの驚きに、干していた洗濯物が物干し竿にかからずに落ちる。
「……宗次郎、どうしてここへ……?」
突然の来訪に戸惑いつつも尋ねると、
「そんな怯えた目をしないでくださいよ。今さら緋村さんに復讐なんてしません」
そう言うと、宗次郎は落ちた洗濯物を拾う。以前戦ったときのように相変わらず笑顔ではあるが、人間味があるというか、そんな笑顔だった。
「じゃあどうしたでござるか」
「近くに来たから、ということにしておいてください」
宗次郎から洗濯物を受け取り、土を払って物干し竿に掛け直す。
「洗濯物もこれで終わりでござるし、お茶でも、」
「いえ、結構です。僕と緋村さんが一緒にいるところを薫さんたちに見られたら、騒ぎになるでしょうから。……今は違うとしても敵だったんです。相容れることなど容易にできるものじゃありません」
「薫殿は宗次郎が思ってるほど、過去に縛られたりしないでござるよ。……左之はどうか分からないでござるが」
「緋村さんは変わりませんね。どこまでもあの人たちを信頼している」
「宗次郎は変わったでござるな。あんなにも弱肉強食という考えに取り憑かれていたのに、今ではそんなに自然な笑顔ができる」
ふと思うことがある。宗次郎というこの人は本当は人を殺したくなんてなかったんじゃないかと。幼少期に酷い目に遭わされ、人を信じられなくなっていた彼が出会ったのが志々雄だったというだけで。他の人だったなら、彼の人生は変わっていたのかもしれない。心がなくなってしまうこともなかったのかもしれない。
「自然な、笑顔ですか。……きっとそれは緋村さんに負けたからです。あなたに負けて初めて教えて貰いましたから。弱肉強食以外の生き方を」
自分が今まで信じて疑わなかった生き方を根本から否定されて、尚もこうして言ってくれるのは、それだけ心を動かされたということだろうか。それは本人にしか分からないが、きっとそうなのだろう。
「志々雄さんから離れて思いました。のどかな村で静かに暮らしている人たち、決して裕福ではありませんでしたが、幸せそうでした。……それを今までどうしてあんなに壊そうとしていたのか」
「志々雄は志々雄で思うところがあったんでござろう。間違いは間違いでも気づけたのならそれは良い間違いでござる」
「良い間違い、ですか……。そう言ってくれると救われますね」
「おとーしゃんっ誰とお話しちてるのー?」
てててて、と道場の方から駆けてくるのは、最近やっと歩くことができるようになった剣路である。勢いよく抱き締めてくる剣路をそっと抱き抱える。
「お父さんの昔の知り合いでござるよ」
「……緋村さんももうお父さん、か」
微笑ましいですね、と笑う宗次郎はこうして見ると、もう刀を交えたことのある宗次郎とは別人に見える。すると、宗次郎はにっこりと微笑んで、
「では、そろそろ僕はおいとましますね」
「そうでござるか。元気でな、宗次郎」
「緋村さんこそ。……またご縁があったら、会いましょう」

「剣路ー?どこにいるのー?」
「ん、薫殿。剣路ならここにいるでござるよ」
「おかーしゃん!」
薫殿を見つけて、嬉しくなったのか飛びつく。やっぱり父よりも母の方が好きなんだろうなあ、と少し寂しさを感じる。
「誰か来てたみたいだけど、誰だったの?」
剣路を抱き上げて、背中をぽんぽんと撫でる薫殿。あんなにやんちゃしてた薫殿からはかけ離れて、と言うと怒られそうだが、落ち着いた良い母親になった。相変わらず、弥彦にはいつも怒鳴り声をあげているけれど。
「昔の、知人にござるよ」
空を見上げて微笑むと、薫殿に
「なに微笑んでるの?……変な剣心」
と首をかしげられた。

あとがき
宗次郎が好きです。剣心も好きです。つまりこの二人が大好きです。

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