Kagero project | ナノ


あなたの真っ直ぐな笑顔が好き

気づけばお前はそこにいて、気づけばお前は明るく笑っていた。それがどれだけ俺の心を支えていたか。時間が経って分かることとはまさにこのことだと思う。

「伸太郎、また赤点だったー!」
うわああん、と大袈裟に泣きついてくるアヤノ。小テスト、定期テスト後のお決まりの光景。
「……またか」
折り畳んでおいた筈の俺の答案用紙を目敏く奪い取って掲げるアヤノ。5教科分の俺の答案用紙がクラスメイト全員に晒される。
「わ、やっぱり100点か!いいなぁ、ずるいぞ伸太郎」
アヤノが感嘆の声をあげた瞬間クラスメイトがざわざわと騒ぎ始めた。うわ、めんどい。
口々に言いたい放題。
「またかよ、気持ち悪い」
「天才さんは違うね〜」
「どうせ俺らなんて見下されてんだぜ、低脳だってな」
だから嫌なんだって。クラスの連中と関わり合うのは。
なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。テスト前に自分の頭に見合っただけの勉強をしなかったお前らが悪いんだろ。さして難しくもない問題に苦労しすぎじゃないのか。
黙って目を伏せながらそんなことを考えていると、アヤノがわざと声を張って言った。
「ホント羨ましいなぁ、勉強教えてよー。私全然できないからさ!」
そう言って小さく謝ってくれた彼女は優しかった。初めて触れたその優しさは俺にとっては勿体なさすぎた。
「……今度な」
それだけ言うのが精一杯で、顔を上げて目を合わせるなんて芸当はできずに答案用紙を素早く仕舞う。
「わぁ、ホント?ありがとー、私もちゃんと勉強しなきゃなー!」
えへへ、と明るく笑う。だから、彼女はみんなから好かれるんだろう。その明るさは羨ましくさえ思う。俺はそんな風には笑えないから。

テストが返されたの次の日から、アヤノに勉強を教えることになった。お互い家はそれなりに学校から離れているため、近くの図書館でやることになった。
これだけ積極的に勉強する姿勢が身に付いていながら何で勉強が出来ないのか全然分からない。もしかするともしかしなくても彼女は努力と学力が伴っていかない一番難しいタイプの人間なのでは……。
「えっと……、じゃあまず何からやるんだ?」
パステルカラーのいかにも女子らしいデザインのファイルを取り出す。すると、中からおびただしい数のチェックが入った答案用紙が出てきた。
「どれからやったら良いと思う?」
綺麗に答案用紙を並べて見せてくる。
えっと……、英語表現19、コミュ英32、現代文56、古文47、数学26、物理33、世界史41………。
予想を遥かに下回る点数で言葉が出てこねぇ……。なんだこりゃ……。
「どれからって……。29点以下が追試だろ。だからその教科から固めた方が良いんじゃねぇのか?追試って確か再来週ぐらいだよな?」
「お〜よく知ってるね〜!そうなの、再来週の月曜に全科目追試。だから、英語と数学をお願いします……!」
丁寧にお辞儀までされる。うむ。かなりめんどくさいが仕方がない。お前には度々救われてるし、これで多少アヤノの点数が上がるなら教える甲斐もあるってことだ。

「今回の範囲は、中学の基礎が大事だからそこの復習からやるぞ?いいな。……はい、ここのQ1だけやってみ?」
「おっけー!」
張り切って返事をしたまでは良かったんだが、どうやら雲行きが怪しい。アヤノの手が完全に止まっている。
「……アヤノ?二次方程式って覚えてるか?」
「おぼえ……て、いたかった……っ!!」
バァンッと机に頭を打ち付ける。見事に静かな図書館に響き渡る。やめろ、俺まで恥ずかしいだろ。
「……いや知らねぇよ!それぐらい覚えてろよ!!!」
「違うのぉ…!覚えてるよ、覚えてるんだけどね、あの、代入ってなんだっけ!」
「それ覚えてねぇじゃん!なんで代入が分かんなくなるんだ!お前高校入試それでよく通ったな!」
「それは私が一番よく分かんないよーっ!!」
ぎゃーす、と言い合いをしていたら遠目にカウンターのお姉さんに睨まれた。はい、すみませんでした。黙ります。
「もういい、1から教えるから」
「うわあん、伸太郎先生優しい…!」
「うっせぇ」
「あ、可愛い照れてる!「ほらノート出せ」
下手な照れ隠しをすると、アヤノはニコニコと笑いながらノートを出した。うるせぇよ、お前の方が断然可愛いだろ。
「まずは二次方程式の基礎からな。取り合えずやり方さえ分かればこの単元はそんなに難しくないから」
「いえっさー!」
うん、可愛い。
内心ニヤニヤデレデレしながらも、実際表に出すと最大限に気持ち悪くなるから頑張って抑える。いやぁ……、これはもう俺も頑張って教えるしかないな。

──数時間後。
疲れた、とぐでぇと伸びるアヤノ。何故だ、と意気消沈した俺。
一通り中学の範囲を教え、たはずなのにアヤノの学力は一向に進歩を見せなかった。
「お前それまじで?」
「ごめんなさいまじです」
となると、俺の教えかたが最高に悪いか、こいつの学習能力が皆無なのかどちらかなんだが。
「いや、でも伸太郎の教えかた上手だよ!」
「説得力ねぇわ」
試しにやってもらった復習プリントは半分以上チェックが入っている。
「だって、私今楽しいもん。勉強って面白くないからこうやって話聞いてても飽きてきちゃうの。でも、シンタローの話聞いててもつまらないって思わなかった。シンタローは上手だよ。私の頭が人一倍バカなだけだから!」
必死にフォローしてくれる厚意はありがたいんだけど、なにしろ身になってないんじゃどうしようもない。
「あ、ほら、代入わかったし!基礎はできるようになったから!」
まぁ確かに、言われてプリントを見ると、基礎は全部合っていた。多分、アヤノは複合型だったり、応用が格段に苦手なんだと思う。
「はいはい。ありがとな。……じゃあできなかったところの解説すっから、色ペン出せよ」
「……!!伸太郎先生ありがと!」
とても嬉しそうに肩を揺らして頷く。そんな風に笑われたら断りたくても断れないだろ。
僅かに頬が熱くなるのを肘をついて誤魔化す。
「ね、また明日も頼んでいい?」
プリントで顔半分を隠してお願いしてくるのはずるいと思う。こんなの断れないだろ。
「別に、俺で良いんだったら。……どうせ暇だし」
「ほんと?!ありがとー!」
眩しいくらいの笑顔で喜ぶアヤノを見てると、なんだか俺も嬉しくなる。どうせこんな笑顔、俺以外にだって見せてるのに、単純な俺は勘違いしそうになる。
「ほら、次。問3の(2)の方程式。解き直すぞ」
切り替えるようにして、赤ペンを握り直す。
「了解です!先生!」
生き生きと筆箱からペンを取り出す。

少なくとも追試が終わるまではアヤノのこの笑顔を独り占めできると思うと、なんだかいつもよりも毎日が楽しくなりそうだと、そう思った。


10000打リクエスト、日和様から糖分多めのシンアヤ、でした(*´-`)なかなかシンタローを甘くするのって難しいですね…。日和様のみお持ち帰り可能です。

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