Kagero project | ナノ


雨上がりは君と

梅雨なんか大嫌いだ。毎日じめじめ、むしむしして。空を見上げても、どんよりした灰色の雨雲が見えるだけ。綺麗な青空なんて一ミリも見えやしない。
元々、雨が嫌いな俺にとっては、梅雨なんてひたすらに辛いだけだった。
それをあんたはなんでそうニコニコと。変わらない笑顔……いやむしろ、いつもよりも笑顔が眩しいような。
「シンタローは雨、嫌い?」
「ああ。嫌いだな」
「そっかー。……だよねぇ……」
少し残念そうに息を吐く。珍しい。
「アヤノは好きなのか?」
「うん、好き」
こっちを見てニッコリと笑う。理由は、と尋ねてみると、アヤノは差していた赤い傘をくるくると回しながら考える。うーん、なんだろ、と呟く姿はなんだか見ていて微笑ましい。
「なんか……上手く言えないけど、空気が綺麗になる感じがして。うーんと、澄んだ感じって言えばいいのかな。あと、ほら雨上がりの空とか……虹も見れるし」
言われてみれば、分からなくもない。まぁ半分以上アヤノがそう言ったから、そう思ったってのはあるけど。
ていうか、まあ、なんだ。ぶっちゃけ、理由を述べるアヤノの笑顔がクソ可愛かっただけなんだが。なんだか気恥ずかしい。
「でも服とか鞄とか濡れちまうだろ。それはいいのか?」
うわぁ、意地悪だ。自分でも今自分の顔が嫌な感じの表情だってことは分かる。何故素直に頷くことができないんだろうか。ほんと、我ながらひねくれてると思う。
まぁでもよく女の人なんかは、足元や服が濡れたり汚れたりするからとこの時期は俺と同じように顔をしかめるって聞くし。モモがよく言っている。
「えー?それはまぁ嫌だけど、……でも言うほど嫌なわけじゃないかな」
「そっ、か」
心の底から好き。そんな雰囲気だった。
「あ、でも雨の音でシンタローの声が聞きづらいこととか、傘でほとんど顔見えないこととか…はちょっと嫌かも」
少し顔を赤くしながら笑うアヤノの言葉に思わず吹き出す。
何言ってんだ、この子は!俺らって付き合ってたっけ?いや、付き合ってませんよ!!
いっそ言ってしまいたいぐらいには俺の心は動揺していた。いやでもアヤノは割りとその気がなくても言う子。落ち着け、俺から告白なんてしてみろ。勘違いだったとしたら、一生の恥だ。モモがよく言ってるじゃないか。「勘違い男が一番キモいし迷惑」って!!
「シンタロー?」
「あ、お、おう。そうだな」
怪訝そうに傘の中を覗き込もうとしたアヤノに、更に動揺し、変な汗が吹き出す。距離を取って咳払い。ホントに落ち着けよ、俺。
「あ、」
小さく声をあげてアヤノが立ち止まる。どうしたどうした。アヤノの見ている方向を辿る。……あぁ、なるほど。
「綺麗、だな」
黙って頷いたアヤノは、ゆっくりと指していた傘を閉じる。俺もそれに習って黒い傘を閉じた。
「ほんとだね……、とっても、綺麗」
首が折れそうなぐらい上を見上げる。つられて俺も真似てみたものの開始数秒でもう首痛い。折れる。
「いつのまにこんな青空、」
灰色な雲に覆われていた青空が綺麗に顔を出している。それと二人揃って綺麗だと呟いたのは――それはもう鮮やかな7色で更に今まで見たことないぐらいに大きな虹。
素直に綺麗だと思った。単純に。
心なしか空気も澄んでいるような気がしなくもない。
さっき、アヤノが言っていた通りだ。空気が綺麗になる、澄んだ感じに。雨上がりの空には綺麗な青、それに鮮やかな虹。
案の定アヤノは目をキラキラさせて空を見上げている。俺もそんなアヤノのことを馬鹿にしたりせずに黙って空を見上げる。うん、綺麗だ。
いっそのこと、ずっとこのまま時が流れていけばいい。そんなことを思ったのはきっと空を見上げるアヤノの笑顔が眩しかったからだ。

…あとがき…
アヤノちゃんは何しても可愛いですね。晴れ女っぽいのに雨好きとかだったら素敵だなーって思って書いた話。
更新(27/06/25)


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