Kagero project | ナノ


置き去りの恋心

▽エネちゃんがコノハと遥が同一人物だと知ってます
▽エネちゃんがしおらしいです


「ニセモノさんと話をさせてくださいご主人」
「は?」
突然の申し出なのは分かってるが、それはしょうがないのだ。私も望んであんなやつと話をしたいなんて思ってはいない。話をしなきゃ気が済まないから、こうやって頼んでいるのだ。
「どうしたお前」
……あぁ、そうだった。ご主人てば察しが悪い上に、鈍感じゃないですか。……ってどちらも同じ意味か。
わざとらしく大きな溜め息を吐くとご主人は不機嫌そうに、何だよと言う。
「めんどくさい人ですね。さっさとニセモノさんのとこに連れてってくださいって!」
「な、酷い言われようだな……。別に連れてくのは構わねぇが、何話すんだ本当に」
「何話したって良いじゃないですか」
ニセモノさんの手にスマホが渡ると、ご主人が私に向かって思い切り舌を出す。子供ですかっての。
「……ねぇ、君、シンタローに急に渡されたんだけど、何か用があるの?」
ぽけーっとスマホの画面を見つめるニセモノさん。なんだか声や顔は以前とさして変わらないのに、記憶がないと言うのだから違和感が絶えない。
「あんた、ホントに記憶ないんですか?私のこと、覚えてませんか」
「え、……あの、その、僕何も分かんなくて……。君は僕のこと知ってるの?」
やっぱり覚えてないんだ。分かってはいたもののやっぱり本人の口からハッキリ言われると辛い。
「あのね、でもね、僕、君を知っている気がするんだ」
よく分からないんだけどね、と苦笑いで言うニセモノさん。
へーえ。あんなに一緒にいても、「知っている気がする」ぐらいにしか残ってないんだ。自分が一番分かってあげられていた、仲良かったなんて思い込んで馬鹿みたい。ほとんどの記憶を失っているのに、都合よく私のことを覚えているなんてあるわけがない。
「あー、まー、いいですよ。気使わなくても。覚えてないなら覚えてないでいいです」
目の前でぱたぱたと手を振る。それでもニセモノさんは何故か諦めずに「知ってる」と言い張る。
「なんなんですか?忘れてるなら忘れてるで良いって言ってるのに!何も覚えてないくせして、そんな曖昧な優しさなんて要りません!」
ニセモノさんの気遣いに苛々する。なに。茶化してるわけ?柄にもなく手をバタバタさせて抗議すると、ニセモノさんはまた困ったように笑う。
「ごめんね。優しさとか……そんなんじゃなくて、本当に君と初めて会った気がしなくて……。だから、その上手く言えないけど」
あー、何やってんだ。困らせたかった訳じゃないのに。
本当は記憶が残っていて、私のことぐらいは覚えてくれているかと思っていた。淡い期待すぎることぐらい分かってたつもりだ。でも、実際こうやって本当に記憶がないと分かってしまうと、とてつもなく喪失感。今になっては確かめなければ良かったぐらいに思える。
「……いえ、私こそすみません。記憶がなくて辛いのは、あんたの方なのにわざわざ掘り返すようなことして」
「え、あ、いや、違うんだよ。辛くはないんだ。……ただ、自分が誰なのか、何なのかさえ分からないのが怖いだけなんだよ」
そう言って目を伏せるニセモノさんは、どこか遥を連想させた。あの出会って間もない頃の、いつ発作が起きて周りに迷惑をかけてしまうか不安でおどおどしていた遥にそっくりだ。
見るもの、触るもの、聞こえてくるもの、匂い、味、何も分からないのに怖くないはずなんてない。自分の正体さえも分からないまま、ここにいる。あの頃よりも遥かに物事に怯えているようだった。
「だーいじょうぶですよ!あんたは一人じゃないんですから」
私も、メカクシ団のみんなもいる。心細くなんかない。
「そっか……そうだね。……ありがとう」
ニセモノさんがふっと柔らかく笑う。あぁ、あんたにはやっぱり笑顔の方が似合う。
積み重ねてきた思い出がなくなるのはどうしても寂しい。でも、それならまた一緒に思い出を作ればいい。前よりもっと素敵な思い出を。

「1から始めましょう、……コノハ」


…あとがき…
一応キリリク消化です( 'ω')遅くなって申し訳ありませんでした!
題名はこちらのサイト様から
秋桜

更新(27/03/20)


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