Kagero project | ナノ


unlucky day?

「ついてねぇ……最悪だ……」
1日にここまでのことが起きるのかってくらい。いやまあ、話は数時間前に戻るんだが。

それは細かく言うと、3時間前。ふっつーに家を出て、ふっつーに学校に行こうとしていた。していた、とわざわざ言うのは俺が今普通に学校に行けなかったからである。
まず、家に出た瞬間、カラスの糞がスクバにかかる。昨日が雨だったからか、水溜まりが酷く、通りかかった車の水飛沫を全身に浴びた。これだけでも十分災難なのに、そのうえ電車を目の前で逃した。教室に着いて速攻でジャージに着替えようとしたものの、ジャージを家に置き忘れていたことを思い出す。慌てて遥先輩に借りに行ったから良かったものの。予鈴ギリギリに席についたことなんて初めてなんじゃないだろうか。
何が原因だなんて考えても心当たりなんて1つもなく。ただひたすらに運が悪かったとしか言いようがない。くっそ、俺が何をしたってんだよ……。
授業中も変に注目を集めてしまうし、本当になんなんだ。これで今日の星座占いが1位とかだったらマジ占い師張り倒すわ。

午前中の授業が終わり、時は昼休み。天気が良いからとアヤノに強引に屋上に連れていかれる。何かあるのか、と尋ねてもアヤノは「天気が良いからね!」の一点張り。別に屋上に行きたくないとかいうわけでもないし、大人しくついていくことにする。
「あ、しんたろー!大丈夫だった?色々大変だったみたいだけど」
「一体何があったのよ?」
屋上の扉を開くとそこには遥先輩と貴音。腕組みしながら偉そうに尋ねてくる貴音だが、心配してくれているのか言葉にトゲはなかった。
「遥先輩ジャージありがとうございます。何があったって言われてもたくさんありすぎてな……。ざっくり言うと、とにかく不運なんだよ」
「ほ、本当にざっくりだねぇ」
もっと詳しく、という顔だが、本当に不運なだけなんだよ。これが自分のせいだとか、故意に仕掛けられていたものなら別の話だが。いや後者の場合はかなり危険だな、俺。
「アンタのことだから罰当たりなことでもしたんじゃないの?」
「はあ?何もしてませんけど?」
早速喧嘩腰で言い返す俺にアヤノが慌てて仲介に回る。
「まあまあ。それにしても何なんだろね」
「ちょっと怖いよね」
お弁当をもぐもぐと頬張りながら言うから説得力の欠片もない。そもそも遥先輩に怖いものなんてあるのか。ないだろ。多分。
「こればっかりは気をつけろとしか言えないし……」
「僕たちにできる範囲なら……ほら、ジャージみたいにさ。やってあげられるから、そのときはちゃんと頼ってね?」
これで口元にご飯粒がなければちょっとグッとくる場面だと思うんだけどな。そんなところが遥先輩らしいけど。
「じゃあ、その時はよろしく頼むな」

お昼を無事食べ終え、教室に戻ろうとアヤノと肩を並べて歩いていたとき。嫌な予感を本能的に感じたが、そんなものは意味を成さない。やんちゃな誰かが投げたボールが俺の頭を直撃。その衝撃で倒れた矢先には、はたまた誰かが落とした牛乳パック。べちゃあ、という嫌な音と共に背中に冷たい感触が……。慌てて起き上がり、ジャージの上を脱いで広げてみると、それはまた見事に牛乳の染みが広がっていた。
遥先輩ごめんなさい、と心の中で復唱してると、突然のことに頭が追い付かないのかテンパるアヤノが。
「し、しししし伸太郎大丈夫っ?!頭直撃したよね?!それに牛乳まで!じゃ、ジャージ大丈夫?!」
タイミング良すぎだろ。イマドキ牛乳パック廊下に捨ててあるとかなんなの。てか、校内でポイ捨てとかやめろよ。ゴミ箱にきちんと入れなさいってば。
「ごめん当たったよねー?!一年生ちゃんホントごめーん!大丈夫?」
牛乳パック相手にキレてると、間延びしたかなりムカつく声。振り返って確認すると、うわあなんだこの美形野郎。反省の色が全く見えないが、ここでキレてはまた面倒なことになりかねない。そんなことになったら二次災害どころじゃないので、取り合えず大丈夫です、と一言。
「そっかー!じゃ、俺戻んなきゃだから。ホントごめんねー!」
最後までムカつく野郎だな。まぁそいつのことはどうでもいいとして、さてはて問題はジャージだ。
遥先輩のことだ、きっと汚してしまったことは許してくれると思う。しかしどうするよ、如月伸太郎。現時点でもう俺に着るものなんて少なくとも思い当たらない。ジャージの上を脱いでしまえば、下はただの半袖Tシャツ。真冬にそんな状態でいたら、もやし体型の俺は数分で絶命してしまうだろう。俺が汚れたジャージを片手に悩み始めたのに気づいたのか、
「うーん……、どうしよっか……それ」
首を傾げてもおそらくお前の頭じゃ良い案なんて出てこねぇよ。かなり馬鹿にした目で見つめる。
「んー、あ、良いこと思いついた」
「は?」

連れてこられたのは教員用のロッカーがある廊下。何すんだ?さすがにパクるにしても教員のはまずいだろうよ。
「えーっと、楯山楯山っと……あった」
アヤノはロッカーを勢いよくガチャッと開けると、その中から上着とおぼしきものを手にした。え?それ、俺に着ろって?は?
「お父さんのだから大丈夫。着れるはず!」
あ、って、そうだ。楯山先生ってコイツの父親じゃねぇか。いやいや、尚更なんか気後れするというかなんというか。いいの?それ俺が着ちゃまずくない?サイズとかの心配はしてないけど、なんか色々アウトじゃね?
「さ、これだけ羽織っちゃって!」
俺のことなんかお構い無しに上着を上からバサアッと被せられる。なかなかお前も無茶すんじゃねぇかよ。

やっとこさ帰り道。午前中の授業よりも遥かに視線がささる授業だったが、半袖Tシャツで凍死するよりは全然マシ。溜め息を吐きながらアヤノと歩幅を合わせて歩く。
「それにしても何で今日はこんなにツイてないんだろうねぇ。貴音さんじゃないけど、ホントに何かしたんじゃないの?」
何故だか楽しげに言うアヤノ。人の不幸をなんだと思ってんだよ。
「むしろ何もしてねぇよ」
「あはは。確かに伸太郎はそうだよね。いっつも気だるげだし。なんでそうやる気ないかなー」
「お前とは違って器用だからな」
うおおお俺はなんでそう憎まれ口しか叩けねぇかな!手先は器用かもしんねぇけど、人間的にはかなり不器用だぞ。
「もー、伸太郎ってばまたそういうこと言う!」
怒ったアヤノはマフラーを巻き付けて首を絞めてこようとする。俺が苦しそうな声を出すと、アヤノは笑いながらマフラーをそのまま巻いてくれた。
「伸太郎、首寒そうだから貸してあげる」
「は?別に、」
「いいのいいの!今日は伸太郎散々だったんだから。ご褒美?までにはならないけど」
先程までアヤノが巻いていたせいか、マフラーはほんのり暖かい。ありがとうと小さく呟くと、アヤノにはちゃんと聞こえていたのか、微笑まれた。
「でも、ご褒美ってのはな……こういうこと言うんだぞ」
え?と立ち止まるアヤノの頭にそっと顔を近づけて口づけをする。ほんのりと香る髪の毛のシャンプーの匂いが堪らない。あまりその体勢のままでいるのは端から見るとかなりヤバイのですぐに頭を戻す。
「しししししし伸太郎?!」
顔を林檎よりも真っ赤にして、目を泳がせ、手をバタバタさせるアヤノ。なんて純情なんだ。いや俺も大分顔は赤いだろうけど。
そんなアヤノにひとこと。
「……髪の毛のキスは“思慕”って意味があんだってな」
最大級に照れて言った俺だが、1つ失念していたことがある。
「“しぼ”って、なあに?」
そうだ、こいつ超ド級のバカだったじゃねぇかよ。
あとで辞書引け、とそっぽを向いた俺はなかなかに無様だったろう。


…あとがき…
eins様のみお持ち帰り可能です。シンタローへの苛め具合が足りなかったような気もしますけれど(愛情表現)
更新(27/03/06)



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