Kagero project | ナノ


今日は何の日?

「ごッ主人♪」
「んー?なんだよエネ?」
「今日はアジト、絶ッッッッッッ対に行ってくださいねッ♪」
「はあ?!」
現在午前3:00。外はまだ全然暗い。人通りも当然少ない。
この時間にこの俺が起きてエネと会話をしている。
と、いうことはつまり俺はオールしたということで、それまたつまり素晴らしく眠い。
オールした理由なんてものはくだらなすぎて口に出せない。そっとしといてくれ。
「なんですかその態度!ご主人寝てないからって不機嫌になるのやめてもらえます?」
やあねぇ、もう。とそこらのおばちゃんのように呟くとエネはパソコンの中でくるりと回ってみせた。
「ていうかご主人今日なんの日か忘れてるようですねぇ ?」
なぜかスカートの中からずるり、とカレンダーを取り出した。
なんでカレンダーがそんなとこから出てくるんだよ。意味わかんねぇよ。
「じゃっじゃーんっ」
効果音を自分で言ったあとになぜか誇らしげにカレンダーをめくる。
1、2、3月と次々にめくり、4月になったところで手を止めた。
「あっそれと!ご主人、ご自分が生まれた日、分かってます?そうじゃないとたぶんピンときませんよこれ」
「あぁ...なるほどな......大体言いたいことは分かった......。だからそのカレンダーしまっていいぞ」
そうですか、と軽く頷くとエネはカレンダーを投げ捨てた。いいのか、そんな扱いで。
まあ俺には電脳空間の事情なんて知ったこっちゃない。
つまり───今日は4月30日。我が如月家ではこの自宅警備員・シンタローの誕生日となっている。
4月の終わりの日ということで昔から忘れられやすいが俺は大して気にしていない。
元々友達なんて少ない、というかいなかった俺にプレゼントをくれる奴なんていないからだ。
祝いの言葉もそんなに聞いたことはない。数えるほどか。
あ、でもそうだな。あいつはしっかり覚えててくれたっけか。
いつも通り返された三桁満点の再生紙に。ていねいな字で"誕生日おめでとう"と書いてくれたあの子。
いつだか呟いた言葉をわざわざ覚えてくれて、嬉しかった。
家にいても空気同然に扱われていた俺にとってあんな思いは初めてだった。
まあそんなこと、今はどうでもいい。
エネがアジトに行けと言ったのはおそらくそのことでだろう。
先月はセトが誕生日だといって随分派手に、いや豪華に部屋を飾り付けしていた。
ということは今度はこの俺の誕生日。どう祝ってくれるのか楽しみだ。
「で?」
「あ?」
わくわくうきうきしだした俺をまるで汚いものを見るかのような目で見つめるエネだが。
俺のわくわくうきうきよりも ちゃんと理解したかを気にしているようだった。
「いやぁそんなもったいぶらなくてもいいのに?誕生日おめでとうくらい恥ずかしがらなくてもいいのに?」
なあ?っとニヤニヤしながらエネに向かって言う。
やべえ。ニヤニヤ止まんねえ。
「ご主人いつも以上にウルトラスーパーミラクルハイパーレベルで気持ちが悪いです。やめてくださいそのニヤケ面」
「おまっちょ、誕生日人になんてこと言うんだよ!ていうかなにそのレベル?!」
俺の硝子のはあとがパリッパリに砕けるだろうが。やめろよ。事実でもやめろよ。
「あっそうそう。ご主人のどうしようもない顔はほっといてー」
ほっとかれるのか。まあ突っ込まれるよりはましか。俺の硝子のはあとが砕けずに済むようだし。
「お昼過ぎにたぶん誰か迎えに来ると思うのでそれまでに服装とか整えてくださいね」
ああ。それもそうだな。この赤ジャージは気に入ってはいるが誕生日にまでこだわって着ようとは思わない。
誕生日だし服もそれなりのものに───ってあれ。俺そんな特別な服とか、新しい服とか無い。
クローゼットを見てみるものの予想通り。Tシャツとジーパン類があるだけだった。
エネに助けを求めようとパソコンを振り替えるがそこにエネの姿はなかった。
「あれ、エネ......?」
「え──────?!なんか言いましたかーっ?!」
返事は返ってきたもののエネの姿はまだなかった。
こいつは一体なにをしているのか。
「あーご主人着てく服無いんですよね?」
「いや、まあ、このジャージだとなんか、なぁ......?」
「絶っっっっっ対にそう言うと思ったのでこの優秀なスーパー電脳プリティガール・エネちゃんが用意しときましたよ!!」
感謝しなさい、と誇らしげに言うのは聞こえるんだが、やはり姿を見せない。
それに"用意"って言ったって居る次元が違うんだしどうやってやるんだよ。
「もうすぐ分かりますから♪」
「そう、なのか?」
不意に。
────ピンポーン
静かな如月家に聞き慣れた電子音が響く。
母は留守だしモモはこんなことじゃ起きない。
怪しい物が届けられても大丈夫だ。うん。
「なに突っ立ってるんですか。早く出てくださいご主人っ」
待たせるのは失礼ですよっと俺は部屋を追い出される。
一応言っておくが精神的な意味で追い出された。
早足で家の中を駆けていくと配達のお兄さんらしき影がドアに映っているのが見えた。
影だけ見てるとイケメンそう......って俺はなんだ。女子か。
自分に突っ込みながら俺は無言でドアを開けた。あ。ホントにイケメンだ。爽やか系の。
「───あ、如月さんの御宅ですか?」
表札にそう書いてあんだろうが。如月じゃなかった方が不思議だっつーの。
そんな突っ込みを脳内ではしているものの実際口から出ていくのは威勢も何もない小さな言葉。
「は、はははい。そ、そうれしゅけどぉ」
わー俺喋れてねぇーお兄さん苦笑いしてるし。営業スマイルどこやったんだよ。
うわぁとかドン引きするのは勝手だがそれを思い切り顔に出されるのはキツい。
精神的にキツいものを感じる。
「じゃ、じゃあここにサイン、ください。」
とん、と手に持っている箱を叩く。早くしてくれというのがありありと分かる仕草だった。
こんな早朝に仕事なんて誰もが嫌がるのに......まあアルバイトだろうし押し付けられたんだろう。
残念だな。爽やか系のお兄さん。早く正社員にでもなりなさい。
ふと目の前のお兄さんを見ると早くサインしろよと目で訴えかけられた。
以外と怖いなお兄さん。
俺は慌ててささっと如月、と書くとお兄さんから荷物を受け取った。
「失礼しましたぁー」
ふぅっと軽く溜め息をつかれたが気にしないことにする。
俺は受け取った荷物をそのまま自室へと運ぶ。
「お、ご主人ちゃんと受け取れましたか!ささっ早く開けちゃってください」
「お、おう」
部屋に入るなりエネに急かされる。
ていうかなんだ。俺荷物受け取れるかまで心配されてたのかよ。
パソコンの画面にはちゃんとエネがいて少しほっとした。
いや、なぜ今ほっとした。俺。
送り主が定かでないのにいささか戸惑いはしたが
危険物、だなんてこともないだろうしエネに言われた通り開ける。
「あれ、これ」
ガムテープを綺麗にはがし箱を開けてみるとそこにはバースディカードと袋に入ったままの新品の洋服。
洋服のサイズを見てみたところちょうど俺にぴったりのサイズだった。
「どうですご主人?気に入りましたか?」
「まさか、これ」
ビリビリと袋を破っていく。
「大正解ですご主人☆それ私が手配したものです」
手配って......。突っ込みどころがたくさんありすぎて何から言えばいいのやら。
でもまさかエネが自分の誕生日を祝ってくれるなんて。
それにこんなプレゼントまでくれるなんて。どういう気まぐれだ。
「最初なにプレゼントしようか迷ったんですけどご主人、服とか買いにいかないじゃないですか。
それに服ならあっても困りませんしね。我ながらナイスチョイスだと思うんですけど☆」
「あ、ありがとな。こんなに......」
改めて箱の中から出した洋服を見てみると、Tシャツにパーカー、ズボンに靴下まで。
今日はこれを来ていけということか。
「それに着替えて誰かが迎えに来たら私を連れてアジトに行きましょうっ」
「じゃあ俺もお前も一旦休憩だ。寝るぞ」
俺は一着ずつ丁寧に箱にしまってベッドの脇に置く。
「それもそうですね。せっかくの誕生日なのに寝不足で楽しめなかった、なんて嫌ですもんね!
私も充電しときましょう!!」
そしてアジトで騒ぎます!と張り切ってるエネを完全放置し俺はベッドへ向かう。

「エネ、おやすみ。それとありがとな」

「いえいえ。ご主人おやすみなさい。そして誕生日おめでとうございます」


……あとがき……
シンタロー君のはぴば話です。
この話は4月30日に前サイトに上げたものなのですが、こちらで上げるのを忘れていたので再度アップさせて頂きました。
シンエネも何気に好きです………

更新(26/07/19)

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