Kagero project | ナノ


You are mine

いつからだろう。この気持ちは。信頼とか、そういう感情とは別のもの。
あたたかくて、心地良くて、幸せな気持ちになれる。
でもその反面苦しくなったり嫉妬したり、忙しくて不思議な気持ち。
本の中でしか知らなかったその気持ちに気づいたのはつい最近のこと。
独占したいだとか、他の男の人といるところを見ると無性にイライラしたりして。
ああ、自分てこんな人間だったんだなぁとか。思い知らされる。
ようやくこの嫌なチカラも上手く使いこなせるようになったし、
言葉使いも敬語じゃなくて普通に話せるようになった。
少し歳をとって成長したからこんな気持ちも生まれたのかなって思ってる。
本当はカノやキドにでも相談できたら楽なんだろうけど相手が相手なだけに言えなかった。
相手が『お姉ちゃん』だから恋とか、そんな感情を持っちゃ駄目な気がして。
血が繋がってる訳じゃないし法律的とかそういう風に見たら別に駄目じゃないんだろうけど。
でもなんか自分の中でこの関係を崩すのが怖くて誰にも言えなかった。
ひとりぼっちで過ごした寂しさを知ってるから。
こんな気持ちを打ち明けて周りから距離を置かれるのが怖いから。
やっぱり僕は弱虫で意気地無しで、本当に駄目な奴だ。
一度人の心の闇まで知ってしまった僕は。 チカラが扱えるようになってもこの臆病は治らないんだ。

「あのね、セト知ってる?」
「ん、何すか?」
「姉ちゃんね、好きな人いるんだよ」
いたずらにクスクスと笑うカノを俺は呆然と見つめることしかできなかった。
突然、なんの前触れもなく。夕飯のおつかいに二人で行っての帰り道。 危うく持っていたスーパーのレジ袋を落とすところだった。
ていうかどういうことだ。お姉ちゃんに、『好きな人』? あの少年漫画や特撮ものが好きなあのお姉ちゃんが?
「それってお姉ちゃんが言ってたんすか?」
「いや、そうじゃないんだけどね。でも見てれば分かるよ。姉ちゃん分かりやすいし」
カノの言ってることはよく分かる。
お姉ちゃんは思ったことも結構そのまま言っちゃうし、 言わなくてもすぐ顔に出る人だから。 それにカノは人の心を読むのが得意だ。 お姉ちゃんともよくいるし。 そんなカノがこうも確信を持って言うのだから信憑性は高い。
「でさあ、どんな人か気にならない?」
ニヤニヤと勧めてくるあたり、本題はこっちなのだろう。 こころなしかいつもよりうきうきと楽しそうだ。
「そうっすね、お姉ちゃんの好きな人がどんな人か気になりはするっす」
内心穏やかでは無かったが平静を装う。
「だよねぇ〜セトならそう言うと思ったよ〜」
「で?なんすか」
「まあまあそんな急かさないでよ」
別に急かしてないけど、と言いたくなったが話の腰を折るのは面倒だしやめておく。 対して気にしてないらしく話を続ける。
「今度、姉ちゃんの言ってる中学校で文化祭があるでしょ。それでそこに乗り込みたいと思います!」
「えっ?!」
「文化祭行ってこっそり覗いて帰ってきます!」
「え、それいいんすか?」
こっそり覗いて、という部分がやけに引っ掛かるのだが。 別に文化祭くらいこそこそする必要もないと思うんだけど。
「いいのいいの!」
半ば強引に決定───というかもはや俺の意見なんて関係なかったみたいだ。
俺が嫌だと言ってもカノは連れていくだろう。そんな気がする。いや、絶対そうだ。
「えーっと別に行くのはいいんすけど、キドはどうするんすか?」
キドだけ仲間外れ、みたいなのは嫌だ。 あとあと喧嘩になるのも目に見えている。仲間外れ、というものにキドは異常に反応をするし。
孤児院での扱いがあまり良くなかったせいもあるのかもしれない。
「あー、キドはその日なんか用事があるとか言っててさ」
都合良すぎじゃないのか。まあ用意周到なカノのことだ。 事前にリサーチしといたのだろう。
「ちょっと覗いたら普通に文化祭楽しむっすよ?あんまりちょっかい出したりするとお姉ちゃん怒るっすから」
お姉ちゃんは本当にこういうイベントを大事にする人だ。 そりゃまあ少し頑張りすぎなくらい。邪魔なんかしたら後が怖い。
でも何事にも一生懸命取り組むお姉ちゃんの姿は見ていて気持ちが良い。
文化祭に行けるのは素直に嬉しかったりする。
「わかってるって!僕だって純粋に楽しみたいし、そんなちらっと見に行くだけじゃつまらないもんね〜」
「それならいいっす。とにかくお姉ちゃんにだけは迷惑かからないように気を付けるっすよ!」
勢いよく忠告する形で言うとカノは意外そうに首をかしげた。
「ふぅ〜ん?やけに熱いね、セト。そんなに心配なんだ?姉ちゃんのこと」
探るような目に一瞬戸惑ったものの
「そりゃあそうっすよ。お姉ちゃんが前から楽しみにしてる文化祭に行くんすから」
当たり障りないように笑顔で答えた。
「それにカノが一番、怒ったときのお姉ちゃんの怖さ知ってるんすから。分かるっすよね」
「……うん。知ってる、から大丈夫。僕だってちゃんと学習するんだからね!」
強がってるみたいだけど。顔、強ばってるっす。
まあカノもこう言ってるしそんなに無駄な心配はいらないみたいだ。
お姉ちゃんが好きらしい人がどんな奴なのかを除いては。
楽しみなような、でもあんまりその日が来てほしくないような俺は複雑な気分だった。

「着いたーっ!」
校門前まで来たものの俺は引き換えしたいとさえ思いだしていた。
「どこ行くー?」
満面の笑顔でそう聞かれたが俺はとりあえず無視。
いや、カノが嫌いとかそういうことではなくて。
ただ俺だけ除け者扱いのこの状況はおかしいと、そう訴えたいだけであって。
「そうだねぇ〜。んと、まずは……あっあそこのお店!」
「なんだ、ただのたこ焼きじゃねぇかよ」
「ただの、じゃないよ。この前味見させてもらったけどとっても美味しかったんだから!」
「ふぅ〜ん?そんなに美味しかったの?僕も食べてみたいなぁーっ」
俺だけ置いてけぼりを食らっているこの状況をまとめると、こうだ。
・カノがお姉ちゃんの文化祭だと言っていたが実際は高校の文化祭。
お姉ちゃんから券を貰っていたカノが勘違い(八割方わざと)していた。
・お姉ちゃんは普通に俺らと文化祭に行くつもりだった。
・文化祭に行く途中なんだか知らない男も合流し、そのまま文化祭へ。
・ちなみにその怠そうにしている男をカノは知っていた。若干顔見知りらしい。(名前はシンタローとか言う)
カノが確信犯でのちのち然るべき報いを受けなければならないのはとりあえず置いておいて。
ちょっと斜め前くらいに置いちゃって。 つまりは、つまり。お姉ちゃんが好きな人、っていうのは。
このやけに怠そうにしている俺の横にいる男で、それで間違いないんだろうか。
だとしたら。いや、もう9割以上はそうだと思うけどとてもじゃないけどこの男許せない。認めない。
お姉ちゃんがどうしようもなく好きだとそう言ったとしても俺は受け入れられないと思う。
「幸助?どうしたの?」
俺があまりにも黙っていたせいか、お姉ちゃんは心配になったようだ。
「何でもないっすけど……いや、やっぱり人、多いなって思っただけっす」
何今更言ってんのっていう若干冷たい目でシンタローとか言う男に見られた。わ、イラッとくる顔っすねー。お姉ちゃんの横にいられるからって調子乗ってるんじゃないっすよ。
お姉ちゃんがいなかったらこんな変な男ほっとくのに。放置してくのに。
「まあね〜。地元の人も参加してるし。さっ、たこ焼き食べに行こーっ」
「あっちょ、」
お姉ちゃんがノリノリ……なのは全然良いけど。その右手はがっつり俺の手を掴んでる。
嬉しいっすよ。この状況じゃなければ。 いや人混みの中だし変に注目を集めているわけでもないけど。
背後からとてつもなく視線が刺さる……。穴あきそうっす。
後ろを振り返ると案の定カノはニヤニヤしてて、 シンタローとかいう男はすっごい顔でこっちを見ていた。
こういうのを鬼の形相とか言うんすよね、たぶん。
怖さと哀しさを兼ね備えた視線が刺さってすごい威圧感だけど、 俺はしてやったり!と満面の笑顔で振り返って手を振る。
「二人とも早く来るっすよ!はぐれちゃうっす」
「はいはーいっ」
「......言われなくても分かってるよ......」
カノはノリ良く手を上げ返事。シンタローは軽く舌打ちをしながら呟く。
お姉ちゃんは(人混みの中)スキップしながら俺の手を引いてる。
俺は───きっと果てしなく緩んだ顔をしているんだろう。 今までで一番ハイテンションかもしれない。
お姉ちゃんの好きな人?そんなのどうだっていい。
ずっと気になっていたがあんな奴なら不安に思うこともない。
どうしたって両想いなのも知ってるし、分かってる。 でも、俺は絶対にあのヘタレ男にお姉ちゃんを譲る気はない。キドにドン引きされようと、カノに大笑いされようと、あの男に目の敵にされようと、俺はお姉ちゃんが好きだ。これだけは譲れないし、何があっても揺るがない。
どんなに俺が不利であっても今は俺の腕はお姉ちゃんに掴まれていて、 今だけはお姉ちゃんと繋がってる。
お姉ちゃんは渡さない。お姉ちゃんは俺のものだ。


…あとがき…
遅くなってすみません!奈梨様、こんな駄文で良ければお持ち帰りください!!本当にすみませんでした…!!!

更新(26/06/13)

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