Kagero project | ナノ


はじめてのともだち

「あっあのね、」
「ん?なあに?」
おそるおそる、と言った感じで
そのふわふわとした女の子は口を開いた。
あんまり人と話したことがないのかな。
手が小さく震えてる。
「あなたのこと、なんて呼べばいいのかな」
「あっ、そっか。まだ名前言ってなかったよね」
思えばこの子のこともまだ聞いてない。
お互い自己紹介がまだだった。
「僕は瀬戸幸助!好きなように呼んでくれればいいよ」
「せと......うんっ分かったよ!せと!
うふふ...せと...せと...せと♪」
目をきらきらと輝かせながら女の子は僕の名前を連呼した。
あんまり名前を呼ばれたことがなかったせいか少しだけ照れる。
「それで?君の名前は?」
ハッとして女の子は固まる。
そしてピシッと勢いよく立ち、名乗った。
「私はね、えっとこざくらまり、って言うのっ!
お母さんにはずっとマリーって呼ばれてたから、
その、マリーって呼んでほしい、かな」
「マリー、かぁ!可愛い名前だね」
ふわふわしたこの子にぴったりの名前だと思った。
まるで童話に出てくるお姫さまみたい。
「そういえばマリーはここに一人で住んでるの?」
周りを見てみたけどマリー以外に人がいる風ではなさそうだった。
「あ、えっと......お母さん、一年前に死んじゃって、
......だから、その」
「あっああああああそういうことならっえっと、ご、ごめんね!!」
「べ、別にいいよっ!セトはなにも、」
別にと言ってくれたけど顔は強ばったまま。
一年前のことならまだ心の傷も癒えてないはずだから何か思い出させてしまったかもしれない。
そんなこと、この不思議なチカラのせいで
分かってしまうのだけれど。
分かりたくなくても分かってしまう。
このチカラもちゃんと扱えるようになれるといいな。
───お母さん、あの意地悪な人たちのせいで───
───私のせいだ、私が外に出なければ───
───お母さんがあのチカラを使うことも無かったのに───
次々と溢れ出す心の言葉。
さっきこの家に入ったときに言われたことと
何か関係があったりするのかな。
もし、この子にも僕のような不思議なチカラがあったとしたら。
そうしたら、お互い仲良くなんてなれないだろうか。
「怯えないで。さっきも言ったよね。
"世界は案外怯えなくてもいい"って」
不安げに怯えていたこの子を外へ連れていけたら。
そうしたら、この世界の楽しさも、面白さも伝えられるだろうか。
ずっと怖くて怯えていた自分だからこそよく分かるんだ。この子の気持ちが。
「だからさ、僕と一緒に行こう」
今はまだ怖いかもしれない。
君を傷つけたニンゲンがいる外は。
でも安全な中にいても何も変わらないんだ。
閉じ籠っていても、誰かの助けを密かに待っているだけじゃ君はいつまでたってもこのままだ。
「今すぐじゃなくたっていい。ゆっくりでいいんだ。
マリーが望めば世界は明るくだって暗くだって、いくらでも変わる」
「え......?」
「マリーがどんな人であれ、独りぼっちで閉じ籠らなきゃいけないなんてことないから」
マリーは決心したようにうんっと力強く頷いた。
「それに」
すうっと一呼吸おいて僕は言った。
「僕たちもう、"友達"でしょ?」


…あとがき…
アニメのOPの幼少期三人がかわいかったせいもあり、ショタセトです。セトは小さくても大きくても可愛いですね…。

更新(26/04/30)

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