Kagero project | ナノ


この想いはどこに捨てればいい?

どんなにキミへの想いを募らせても。どんなに後悔しても。もう分かってるんだ。今更だって。
キミに触れられないこと。
キミの声が聞けないこと。
キミの瞳に映ることもキミの笑顔が、また俺に向くなんてことももう二度とない。
キミに好きだと伝えることもキミが俺を愛してくれることもない。もう全てが手遅れなんだ。

「......主人...ご主人ーッ!」
「あっ、あぁ......エネ...どうした 」
「ご主人さっきからボーッとしてますよ?あ、もしかして私に見惚れちゃってました?」
そんなわけねぇだろ、とつっこみながらも実際ボーッとしていたのは事実だ。最近よく眠れていないせいもあるのかもしれない。まあなんのことない寝不足だろう。
ふと窓の外を見るともう辺りは暗くなり始めていて、真っ赤な夕焼けが見えた。夕焼けを見るたびに思い出す......あいつのこと。真っ赤なマフラーが印象的だったもうこの世にはいないあいつのこと。誰にでも優しくて自分の幸せよりも周りの人の幸せを願うようなそんな世の人の見本みたいなやつだった。例え自分が損をしたとしても他の人が笑って
くれてるならそれでいいと思える。まるで善意の塊のよう。
俺にはとてもじゃないが考えられないことだ。
「ッだーもう!今度は夕焼けですか?!夕焼けに惚れましたか!ご主人しっかりしてくださいってば!」
心配してくれているのか画面にべったり張り付く形になりながらも怒鳴っている。ボーッとしてたくらいでそんなに怒ることか?変な奴だな。
「少し考え事してただけだっつの......」
「なに考えてたんですか?えっあらまさかご主人」
ひそひそ話をする相手もいないのに袖で口を覆って声をひそめる。
「お前が考えてるようなことはしてねぇよ?!」
ちっと軽く舌打ちされた。そしてなぜか片手に「マル秘」と書かれたフォルダが――って
「ご主人の大事な画像フォルダ、捨てちゃいますよ」
「なんでそうなった?!」
確かそのフォルダ、この前エネが名前分かりやすく変えときましたーっとかなんとか言ってて......。あれ、え、俺が好きなアイドルのあんな写真やらこんな写真やらが保存してあるフォルダ......?
「だってさっきからつまんないんですもんご主人」
「そんな理由で俺の大事なフォルダ勝手に捨てようとすんなよ!!」
意味わかんねぇよ。つか早くそのフォルダを元の位置に戻せ。
「はいはいもー五月蝿いですね!ご主人こんなんですから恋人できないんですよー」
「別に、いいんだよ恋人なんか。......要らない」
俺の変に良い頭はこんなときだけ働きやがって頼んでない仕事までしてくれた。思い出さなくていいもの、思い出したくないものまで引きづりだしやがって。一年中季節なんか関係なく赤いマフラーをしていたあいつ。少し馬鹿ではあったけれど、なんだかんだ言って良い奴だったよな。こんなどうしようもない俺に声かけてくれて。
「あ、いえその......そんなに深い意味なんてないので、スルーして頂いて良かったんですよ...?」
俺の反応がいつもと違っていたせいかエネは、なにか自分が触れてはいけないことに触れてしまったものと勘違いしたらしい。エネがこうやってからかってくるのはいつものことだし今更だ。
そんなことで傷ついてたりしたら俺はとうの昔にこのパソコンごと捨てている。
「......古傷なんて抉るつもりなかったんだけど......」
「なんか言ったか?エネ」
ぼそぼそと呟くせいで全然聞こえない。『だけど』しか聞こえなかった。
「な、なんでもありませんよ!それにご主人が望んでいればまたいつか会えますよ、ご主人の好きな人」
「はあ?!何言ってんだお前。俺に好きな奴なんていねーよ」
「ご主人ったら自分の気持ちにまで嘘ついちゃ駄目ですよ」
「はぁ?!」
ふっと一瞬エネの顔に影が差した気がするが光の加減か。はたまたなにか昔あったことを思い出したりしたのだろうか。エネの素性もほとんど知らない俺にはよくわからなかった。
「伝えたいことがあっても、もう遅いことだってあるんです。だから、また会えたときにはちゃんと......」

わかってるんだよ。早く伝えなきゃいけなかったって。あいつが教室で一人泣いていたことも知ってた。なぜ泣いていたのかなんて聞けなかったけど、それは目を背けてただけ。面倒に関わるのが嫌でわざと知らないふりをしていた。それは『そっとしておいた方がアヤノのため』なんかじゃなくて、自分自身が楽をしたかっただけ。
アヤノはああいう性格だし色々溜め込むのは分かってた。少しでも愚痴を聞いてあげたり相談にのってあげるだけできっと変わっていたはずだ。アヤノがわざわざ死を選ばなくても良かった方法が、他にあったはずなのに。
俺がアヤノを殺したも同然なんだよ。だってあんなに一緒にいてくれたのに俺からはなにもしなかった。毎日会っていたのになにも気づけなかった。あいつがいなくなるまでなにもわかろうとしなかった。

いなくなってからだ。あいつの存在の大きさに気づいたのは。アヤノがいなくなってからの教室は、どこかいつもとは違っていて、違和感だらけだった。俺の隣の席は人が座らなければならない場所
に、いなきゃいけない場所に花瓶が置いてあった。
そしてクラスメイトが泣きながら手紙やあいつの巻いていた真っ赤なマフラーを置いていった。

でも例えどんなに泣いたとしても人は残酷な生き物で、あいつと過ごした記憶なんかあっという間に抜け落ちる。
そして形のいいように修正されて、結果残るのは綺麗に飾られた思い出だけ。そこには今いない人間の記憶なんか残っているわけがない。だって悲しい思い出なんて要らないから。自分のクラスメイトが自殺したなんて思いたくないから。
綺麗に消してそのぶんは、他の楽しかった思い出で埋め合わせをする。今こうしている間にも誰かがアヤノのことを忘れているかもしれない。
俺だっていつか顔もおぼろげになって声も忘れる。忘れたくないと思っていても毎日少しずつ薄れていって。忘れたときにはもう顔も声も名前さえも思い出せないんだ。

こんなこと考えてもアヤノは戻ってこない。でも俺は少しだけでも他のやつらよりあいつのこと覚えていてあげたい。いつも傍にいたから。他のやつらよりも長い時間いたから。ただの"友達"で終わってしまったけれど俺はまだ諦めきれないから。もう帰ってこない存在だと、何度も自分に言い聞かせたし頭ではわかってるんだ。
けど心のどこかでは『もしかしたら』って思ってる強情な自分がいて。だからこの想いも諦めきれない。あの頃に言えば良かったなんて後悔ばかりだけど、まだアヤノのこと好きだよ。ついエネに嘘をついてしまったけれど俺はずっと、あの頃からずっと好きだった。隣でいつも楽しそうに笑っていたキミのこと。

はっとして周りを見渡すとそこは見慣れた俺の部屋じゃなかった。
──ここってもしや教室...?時間は変わらないらしく俺の部屋から見えた夕焼けがここからも見えた。
「ありがとう。伸太郎」
はっとして声がした方を見るとそこにはいつのまにかアヤノがいた。窓に背を向けてカーテンの前に笑いながら立ってる。これは全部幻覚なのか?夢、か?
「伸太郎が私のこと、覚えててくれるなら安心だね」
「どういう意味だよ、アヤノ」
「でもそんなに暗い顔してちゃダメだよ。妹さんも、それに貴音さんもずっと心配してる」
なんでここで貴音の名前が出てくるんだよ。
あいつとはずっと連絡取ってないし俺の様子なんかがあいつに分かるわけないじゃないか。
「は、なんで...」
「だからいいんだよ。もう。後悔なんて伸太郎がすることじゃないし。笑ってよ」
後悔しなくていいなんて。笑ってていいなんて。そんなこと言うなよ。まるでもうこれが最後みたいな言い方じゃないか。
「伸太郎」
待てよ。またお前は俺の前からいなくなるのか?
「じゃあね。さようなら」
アヤノは笑いながら窓の外へ飛び出した。またあの頃と同じように飛び降りて消えた。
「待っ......!!アヤノ、」
伸ばした手はまた、また届かずに空を切る。
「なんでだよ、なんでまたいなくなっちまうんだよ」
俺はその場に泣き崩れることしかできなかった。


…あとがき…
シンタローはひたすらアヤノちゃんのことを後悔してれば良いと思う。

題名はこちらのサイト様から
ラガーフリークは独りきり

更新(26/04/02)


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