Kagero project | ナノ


主人公の色

「ねぇ、アヤノおねぇちゃん」
「うん?なあにつぼみ」
「赤はなんで主人公の色、なの?
それに主人公がたくさんいたらお話にならないよ?」
「つぼみ鋭いね〜でも」

なんで今頃そんなことを思い出すんだろうか。
幼い頃、修也や幸助、つぼみと暮らしていたときのそんな会話。もうよく覚えていないけれどつぼみにそんな質問をされたことがあった。私が三人を励ますように、少しでも元気が出るようにと思って、幼い知恵を振り絞って考えたそんな台詞。確か幸助が自分は化物だと言って怯えていたときだったかな。
私は無責任にも言った。
『 真っ赤な色は主人公の色だから、怯えていなくても良いんだよ 』
幼い彼らにはよく意味がわからなかったのかもしれない。
けれど『主人公の色』という言葉が嬉しかったみたいで、そのあと彼らが自己嫌悪に陥ることが少なくなった。
でも満足していたのは彼らがまだ幼かったから。それから彼らが少し大きくなって小学校に通い始めたばっかりのこと。
目が赤いって気味悪がれたと泣いていた。他の子から避けられる、と。運悪く三人共別々のクラスになってしまい、クラスでは確実に孤立していたんだろう。先生から電話も何度かあったらしい。
お母さんもお父さんも困った顔で「どうしたらいいかな」ってよく私に訊いてきた。私も良い案が出せなくて、放課後三人と遊ぶことしかできなかった。

「ねぇアヤノおねぇちゃん」
「なんで主人公の色なのに気味悪がられるの?」

そう何回問われたことか。
彼らにはきっと理解できなかったんだろう。自分が周りとは違うだなんて。
たまたま目が赤かっただけ。たまたま他とは違う特別な能力があっただけ。
それだけなのに、避けられて挙げ句の果てにいじめられる。そんな理不尽なこと、純粋なあの子達には理解できなかったんだろう。
だからまた私は無責任に言った。
『主人公やヒーローはね、みんなから好かれる訳じゃないんだよ。でもそれは自分が悪い訳じゃないの。誰からも恨まれない、嫌われない主人公もヒーローもいないから』
敵を倒したとしても、敵がいなくならないのは何故か。それは敵に仲間がいるからだ。敵からしてみれば、ヒーローなんてただの邪魔者。悪者。倒すべき存在。敵討ちをしなきゃいけないんだ。だって、自分の仲間がやられたんだから。
なんら難しいことではない。それと同じことだ。
そう説明しても、幸助だけは納得してくれなかった。
「正しいことをして不幸になる人なんかいないよ」と。
避けられたり、気持ち悪がられたりするのは自分が悪いから。そう思うのはきっと三人の中でも一番特徴のある能力を持っていたからだろうか。いや、人が一番嫌がる行為だからか。
誰しも人に知られたくない気持ちはある。それをもしも他人に全部漏れてしまっていたら。恐ろしいと、嫌悪感まで感じるだろう。
その気持ち全てがまだ能力を上手く制御できない幸助に漏れていたのだとしたら。彼はかなり深い傷を心に負っていたのではないか。

そうだった。でも幸助は今はあんなに大きくなって。頼もしくなった。
「もう私には時間が残っていない」
こんなゆっくりしている場合じゃなかった。最近昔の思い出にやけに浸るが、それはきっとあれだ。おばあちゃんなんかが、病室でぼんやりと思いを馳せるそれに似ている。
取り合えず手元の資料をざっとまとめると、私はその場を去った。

───このままじゃみんなが不幸になる。

───早くお父さんを止めなきゃ。


…あとがき…
今回はアヤノちゃんメインのお話。
一応言っておきますが、幼少期に関しては完璧な捏造です。呼び方から何から。公式で早く出してくれるのを楽しみに待っております。
更新(26/03/23)

[+bookmark | back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -