*clap_log*


※神楽視点


 ──勝算は五分五分。バレンタインデーに、私は一世一代の賭けに出た。

 天敵だ、ライバルだと周囲からは犬猿の仲と見られている男に、いつの間にか恋愛感情を持っていたことに気づいて早数ヶ月。いつまでも、自分に対する態度が異性に対してのソレにならないことに痺れを切らし、単純な告白をも通り越して"口移しでチョコを食べさせる"という荒技に出た。
 というのも、その男──沖田総悟が。嫌がらせだの精神的な攻撃だの、乙女心を踏みにじるかのような無神経発言の数々を投げてきやがったからだ。そうして開き直った私は行動に移し。逃げも隠れもせず、沖田からの応えを待つことにして────。

『甘ったるいなァ……お前』

 腰が砕けそうになるような濃厚なベロチューを、1ヶ月後のホワイトデーを待たずして戴いてしまったのだった。

 あれは、3倍返しどころじゃない。女に興味ないような口ぶりしてたクセに、何で……あんな馴れたようなキスが出来るんだ! 何処で覚えて来やがったんだ、アノヤロー!!


 ──だがしかし。
 あのバレンタインから1ヶ月。沖田からの、言葉としての返答は何もない。確かに私もはっきり告白してはいないかもしれないが、チューまでして行動で想いを示したというのに。それでも、まだ私の本気は伝わらずに空回っていたというのだろうか?

「……はぁ。銀ちゃんも新八もいないし」

 新八はともかく、銀ちゃんはホワイトデーのお返しの催促から逃げ出したに違いない。こっちはそんな気分なんかじゃないってのに。乙女心が分からないマダオはこれだから……。
 寝転がっていたソファからゴロリと床に降りると、テーブルの下に銀ちゃんの汚い字で"神楽へ"と書かれた小さな箱が落ちているのに気づいた。

「コレ、酢コンブじゃん」

 逃げ出したのかと思ったら、ちゃんと用意していたらしい。さては、面と向かって渡すのが恥ずかしがったのか。
 あのマダオですら、らしくもなくお返しをくれたというのに。まさか、あの男、お返しはあのベロチューで終わりとか言うんじゃないだろうな!?

「……ありえそうな気がしてきたアル」

 それでなくとも、私のことを女扱いなんかしてなかったヤツのこと。流されてガキ相手にあんな濃厚なチューなんかしたことを、反省してるのかもしれない。あんなんでも警察だし。

「──もしもし、チャイナさん?」

 あのチューの後、あまりの動揺で飛ぶように沖田の部屋を飛び出して万事屋に逃げ帰ったのは他でもない私。あの時、逃げずに沖田に向き合っていたならば。もしかしたらとっくに現状は変わっていたんじゃないだろうか。──それが、例えば私が振られた形だったとしても。

「おいコラ、聴いてんのか。放置プレイかよ、コノヤロー」
「うぉっ! ヤバいアル。沖田の声の幻聴がするネ。どんだけ好きなんだヨ、私!」
「へー。そんなに好いてくれてたとは知らなかったなァ」
「………………ハイ?」

 無駄な三点リーダを並べたことで、私の混乱ぶりを察していただきたい。

「本物?」
「何でィ、俺に似た奴でも他にいるのかよ?」

 転がっていた床から飛び起きて。いつの間にか至近距離に迫っていた沖田のドアップにクラクラしそうになる。──あ、コレ、先月と逆のシチュエーションじゃね?

「呼んでも出て来ねェから覗いてみれば、チャイナが床に転がってんだもんなァ。声掛けても反応ねェし……ってまだ放置する気か、てめー!」
「だって、オマエっっ」

 沖田の顔が近すぎて、頭がパーンってなりそう。あの口唇が私のと重なって、貪るように吸いつかれた感覚が蘇ってきそう。

「何、思い出した?」
「へっ!?」
「顔、超エロいんだけど」

 エロ……って!? 何を言い出すんだ、この男!

「あれから、寝てもさめてもチャイナのことばっか考えちまってさ。お前も分かってたとは思うが、全く女として見たことなんかなかったんだけどなァ。気の迷いかもしんねェとか、思い込もうとしたけど無理だった」
「無理、って?」

 沖田の節くれだった指が、そーっと私の頬を撫でる。

「あー。俺がお前のこと、とっくに好きんなってたのに気づいたから?」
「沖田が、私のこと……?」
「何でィ。もっと喜んでいいんじゃねェの? 1ヶ月も待たせたから他に男見つけたとか言うんじゃねーだろうな? まあ、だとしても奪い返してやるけどなァ」

 ドSな笑みを浮かべたまま、サラリと独占欲を主張する沖田に。私の心臓は、耐えきれずにバクバクと早鐘を打ち続けている。

「──遅すぎアル!」
「まさか、マジで心変わり?」
「んな訳あるか!! 私はそんな尻軽女じゃないネ! ……そんなんじゃなくて。あんまり、返事してくんないから、このまま振られちゃうのかもって不安だったのヨ。乙女心傷つけた責任取りやがれ」

 頬に触れたままの手をギリッと軽く抓ってやれば。反対の手でそのまま腕ごと捕らわれて、さっきまで寝転がっていた床に押し倒されてしまった。

「悪ィな。気持ちの整理すんのに1ヶ月もかかっちまった」
「整理したのはホントに気持ちだけアルか? 遊んでた女の整理じゃねーだろうナ?」
「妬かれるのも悪かねェが、生憎女遊びなんざする甲斐性は持ち合わせてねーから」

 あ、堕ちる──。

 初めて見せる、ふわっと柔らかい微笑み。再び恋に堕ちていくのを感じる。どうしようもなく、囚われる。押し倒されているはずなのに、抵抗する気すら起きないだなんて。

「ゾクゾクすんなァ」
「はっ? 何が?」
「その挑戦的な目つき、屈伏させる瞬間が楽しみで仕方ねェ」
「やっぱりオマエは真性のドSアルナ」
「褒め言葉、ありがとさん」

 ゆっくり閉じた瞼に、想像よりも優しいキスがフワリと落とされる。そうして、キスは額に。頬に。次いで、鼻先に悪戯するように触れ。

「10倍返し、受け取りやがれ」
「貰ってやるネ、このクソドS」

 甘い恋愛関係なんてものとは程遠いはずの私たちだけれど。

 今は、とろけるような甘いキスに、溺れていくだけだ。


*love connection! ;after*





バレンタインのきっかり1ヶ月後、ホワイトデーの後日談でした!
リアルに皆さまを1ヶ月お待たせするというドSプレイをしてみました(笑)
話が長くなって収拾つかなくなりそうでしたが何とか纏めました。
とにかく甘く!砂吐きそうでした……(*´д`*)

'12/03/14 up * '12/04/20 reprint

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