*clap_log*


※総悟視点


「こんなトコにいたアルか」

 気配は感じていたが無視していたところ、無理矢理アイマスクを外されてしまった。仕方なく閉じていた瞼をゆっくり上げると、至近距離にチャイナの顔が迫っていた。

「……こんな所って、自分の部屋にいちゃ悪ィかよ?」
「悪くはないけど、まだ真っ昼間なんだから働けヨ」

 真顔で、その距離はキープしたまま。──つまり、互いの息が掛かるくらい間近で。ついでに言えば、俺は自室で寝っ転がっていた訳で。端から見れば、俺がチャイナに迫られているように思えなくもない体勢なのだが。

「今日は、出歩かない方がいいんでィ。特に、俺と土方さんは」
「はぁ? オマエと、トッシー?」
「ただでさえ、屯所宛てに山みてェなチョコの箱が送りつけられて来てんだ。ウッカリ街になんか出たら、あっという間に雌豚共から囲まれちまうんでさァ」

 そんな去年のバレンタインを思い出し、俺は深い溜め息をついた。
 去年の騒動を踏まえ、俺と土方さんは珍しくも意見が一致し。今年のバレンタインは、2人で有休を取って自室に籠もることにしたのだ。どうせなら溜まった書類を片付けろとも言われたが、そこは聞かなかったことにして。

「あーそうだ、チャイナ。帰りでいいから、旦那にチョコ持ってってくんねェ? 隊士全員に配っても捌ききれねェんだ、あの人なら喜んで貰ってくれんだろ……ま、てめーも食いてェんなら食ってもいいぜ?」

 無類の甘党であるこいつの雇い主には、いい土産になるはずだ。加えて驚異的なまでの食欲を誇るチャイナ本人にとっても。
 こっちはチョコを減らせる訳だし、お互いのためになって一石二鳥だ。こいつもさぞや喜ぶだろうと思っての申し出だったのだが。

「……無神経」
「はっ?」
「わざわざバレンタインに神楽さまがここまで来てやったのに、何で分かんないネ!?」

 グイッと襟元を締められ、ただでさえ近かったチャイナの顔が鼻先まで寄ってくる。──俺の予想とは全く違う、斜め上を行く展開になっているようだ。

「おいコラ、顔近すぎんぞ」
「……動揺もしないアルか!? ミジンコぐらいも期待出来ないっていうアルか!?」

 何だ、コレ。どんな構図? マジでチャイナに迫られてる訳?
 最近あんまり闘り合わないと思っていたら、直接攻撃をやめて精神的な攻撃に切り替えるつもりなのか。

「何でィ、新手の嫌がらせかよ?」
「嫌がらせって……そうアルか、オマエにとっては嫌がらせにしかならないアルナ」

 溜め息と共に、チャイナはポケットから赤いリボンの掛かった箱を取り出す(酢昆布ではない)。なるほど、バレンタイン仕様な嫌がらせってヤツらしい。

「へー、用意周到じゃねェか。チョコまで寄越して精神的苦痛まで与えようってのか? だったら止めとくんだな、そんなモンは受け取らなきゃいいだけの話じゃねーか」
「そこまで言うなら、こっちにも考えがあるネ。意地でも受け取ってもらわなきゃ女が廃るってもんヨ!」

 意地でも、って。そこまでしなきゃなんねーのか? 大体、チャイナがチョコ寄越したとしたって、そんなに嫌な訳でもないんだから嫌がらせにならないと思うのだが。

「まず、このチョコを開けます」
「……はァ?」
「そして、食べます」
「何でお前が食ってんだ。ってか、随分デカいなソレ」
「仕上げに、食べさせます」
「──は、い?」

 そういえば、至近距離からは脱していたものの。かなり近い位置にいたのには変わらなかったのだと、気づいた時には既にチャイナにホールドされた後だった。

「な、何する気だ、テメー!」
「意地でもチョコ食べさせます」
「待て待て待て待て! だからって何で頭ガッチリ掴んでんだよ!? んでもって何で標準語!?」



 ──次の瞬間。頭が、真っ白になる。甘い、甘い、チョコの味が口内に広がって。柔らかい口唇の感触が、生々しく感じられた。

「せいぜい悩むがいいネ、鈍感ヤロー!」

 破壊力抜群の爆弾(ちゅー)を投下し、チャイナは得意気に笑う。鈍感、って俺のことか……ああ、そういやさっき無神経とも言われたような。

「ホワイトデーは3倍返しだからナ!」
「──待てや、コラ。取り敢えず、考える時間ぐらい寄越せ」
「問答無用アル! 考えなくたって分かれヨ、男らしくないネ」

 いや、男らしさとか関係なくね?

 頭が認めることを拒否しているような気がする。繋ぎ合わせた情報を統合させてみれば、自ずと解答は導き出されるのに、アリエナイ、と否定したくて仕方ない。

「──いっそのこと、本気で嫌がらせだとか実は俺を騙して後で笑ってやろうとか」
「だったら、ちゅーなんかする訳ないダロ」
「ですよねー」

 コレは、もう、アレだ。さすがの俺も動揺しまくっている訳で。……思ったよりも、嬉しいかもしれないと気づいたことが一番の驚きで。

「何か、よく分かんなかったから、もう一回」
「……何言ってるネ。男だったら自分からしてみるヨロシ! 私は逃げも隠れもしないアル」

 残りのチョコは、チャイナの手の中。誘うように差し出された、そのチョコ……というよりは、チャイナの躯本体を目掛けて。

 吸い寄せられるように、俺はゆっくりと腕を伸ばした────。


*love connection!*




2012年バレンタイン記念に拍手御礼を選びました〜。何となく拍手御礼は季節モノにしたくなるんですよね。
そんな訳で、1ヶ月後のホワイトデーに続けました(笑)

'12/02/14 up * '12/04/20 reprint

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