short_story


※not,恋人設定


 昼下がりの万事屋にて。差し入れられたケーキを黙々と食するこの家の主の向かいで、眼鏡の従業員によって淹れられたコーヒーをずずっと啜る優男が一人。
 2人の間には先程から会話がなく、刻一刻と時間だけが過ぎていく。

「あの……沖田さん?」

 沈黙に耐えかねて、台所の方から顔を出した眼鏡、こと新八が声を掛けた。

「何ですかィ? 新八くん」
「いえ、その……何か用があったんですよね? また、依頼か何かでも──」

 だがしかし。そういう訳ではなかったらしく。沖田、と呼ばれた青年は、再びコーヒーを啜ってこの家の主──銀時に視線を送る。

「旦那ァ、今度は考え直してくれやしたか?」
「甘いモンを貢いだ上で交渉されたんじゃあ仕方ねーか」
「じゃあ、商談成立ですねィ」

 2人の間では話が纏まったらしかった。新八はどうしたものかと、首を捻るしか出来ない。ニコニコ顔の男たちから目線を逸らすと、いつの間に来ていたのか、万事屋の紅一点の少女の存在に気づいた。

「あれ、神楽ちゃん? 散歩から帰ってたんだね」

 ところが。何かしらの反応を返すはずの少女は、何も返答がないばかりか、ニコニコ顔の男たちの方を睨みつけているではないか。新八には益々訳が分からず、ひとまず無言になってしまう。

「オマエ……」
「おぅ、チャイナ。ちょうどよかった。今、旦那からは許可取ったから荷物まとめて来なァ。やっぱり、決まったら素早い行動がいいと思うんでさァ」
「本気、だったアルか!?」
「何を今更。こないだ旦那から誠意を見せろって言われたじゃねェか。だから、足りなかった貢ぎ物をガッツリ3倍にしたんでィ」

 目まぐるしく変わる展開に、新八の頭は全く着いていくことが出来ない。

「お〜い、新八?」

 黙々とケーキを貪っていた銀時が、漸く口を開く。

「銀さん……コレ、何なんですか?」
「ん? 貢ぎ物ならやんねーぞ」
「イヤイヤ、そうじゃないでしょう! そもそも何の貢ぎ物なんですか、そのケーキ。しかも、沖田さん……まさか神楽ちゃんと!?」
「ハッハッハー。若いっていいよねぇ。ホラ、俺って地球のお父さん的な立場だしぃ?」
「──や、やっぱりお嬢さんを僕に下さい〜的なアレなんですか!?」

 喧嘩する程仲が良いとはよく言ったものだが、まさかこの2人に限っては有り得ないと新八は思っていたのだ。沖田の方はまだしも(一応年上だし)可愛い妹分が嫁に行くような展開になっていることが、まず信じられないのだから。

「大体、いつからつき合ってたんですか、あの2人っ。銀さんは知ってたんですか!?」
「いつからって……別に、つき合ってはねーんじゃね?」

 銀時の口から、信じがたい言葉が発せられる。

「ど、どういうことですか?」
「どうって、そのまんまの意味じゃん」
「だって! 銀さん、沖田さんからケーキ貰って神楽ちゃんをお嫁に出すの承諾したんでしょう!?」
「いや〜嫁に出すまでは言ってねぇけどな。ホラ、今、ちょうど春じゃん。新生活始めるにはちょうど良くね? 沖田くん、神楽と一緒に住みたい家見つけたって言うからさ〜。生活費も沖田くん持ちってんだから、そんな反対する理由もねーじゃん」

 のらりくらりと建て前を並べる銀時だったが、新八にはまるで納得がいかない。恐らく神楽本人もそうであろうと、声を掛けようと見やれば。

「銀ちゃん、そんなに私を追い出したいアルか!? しかも、私がサドと暮らすって……同棲なんて、おかしいネ!!」
「だからさー、そういうんじゃないんだって。大体、この際だから言うけど。神楽もさぁ、いい加減に沖田くんに応えてやれよ。さすがにツンデレのツン成分多すぎじゃん」
「そうだぜ、チャイナ。いくら俺がてめーに惚れてるとはいえ、いつまでも待ったかけられてんじゃあ……ドSからMに鞍替えしなきゃなんねェ」

 どうやら、総悟は以前から神楽に対し、何度もアプローチはしていたようで。新八は知らずとも、銀時にはしっかり分かっていたらしい。しかも、神楽の様子から察するに。一緒に住むことには否定的でも、総悟の求愛を嫌がっている風ではない。銀時が言うように、受け入れる選択肢をなかなか選べなかったのだろう。

「だって……恥ずかしかったアル! 前は、ケンカばっかしてたのに。今更オマエとイチャイチャするとか、一緒に住むとか、恥ずかしすぎて死にたくなるわ、ボケ!!」
「だーから。開き直って一緒に暮らせば恥ずかしいのにも耐性つくかも、って言ったろうが。心配しなくても、取って食ったりはしねェつったろ? 俺はただ、もっとチャイナと一緒にいたいだけなんでさァ」

 日頃よく見るドSな笑みが、銀時と新八ですら赤面する程の甘い微笑みに変わり──。

「も、もうダメ……恥ずかしすぎて萌え死んじゃうアリュ」

 湯気が出そうなくらいに真っ赤に染まった顔を両手で覆いながら、神楽がその場に崩れ落ちてゆく。

「なーにやってんでィ。どうせなら俺の腕ん中に倒れてきなせェ」
「……うぅぅ、この天然タラシ王子め〜」

 目の前でピンクのオーラに包まれた不思議空間が広がっていき、新八は考えることを放棄することでこれ以上の脳内パニックを防ぐことにした。

「僕の許容範囲を越えてますよ、この展開……」
「まだまだだぜ〜。沖田くんの神楽に対する今までの執着っぷりからしたら、こんなもんじゃ済まねーって」
「あれで序の口だってんですか?」
「うん。……にしても。さすがの俺も見てんの恥ずかしくなってきたわ」

 素直に神楽が総悟の腕の中に収まっていく姿は、目を疑いそうになる。ただ、恥ずかしそうにしてはいるが、その姿は幸せそうなお似合いの2人に映るから不思議だ。



*春は、旅立ちの季節と云うけれど*




「あ〜春だねぇ。春ってこんなに暑いっけ?」
「僕は暑いってか、痒いです。取り敢えず帰っていいですか」
「それ、3Z新八のセリフじゃね?」
「世界観壊す発言はやめろ!」




総悟が別人だ……誰、この王子(笑)
取り敢えず、色々語りたかったんですが本誌の 走召 沖神展開で頭がパーン!なので。それどころじゃねぇ(*´д`*)
空知んのおかげで充電ふるちゃーじ!!

'12/04/01 written * '12/04/02 up

>>top

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -