どきどきメモリアル*GS
(ぎんたまサイド)?
(ぎんたまサイド)?
『あのラブチョリスに対抗し、女性向け本格恋愛ゲームが登場!』
さっちゃんが、今度こそは銀ちゃんのようなツンデレを堕とすんだと息巻いて。私にその乙女ゲームなるものの素晴らしさを力説してくれたが。正直、興味はわかなかった。
新八の目を覚まさせる為に銀ちゃんまでもがそのディープな世界に入り込んでしまったあのラブチョリス騒動は、今ではなかったことにされているようで。
私にしても、あんなマダオたちみたいになるのはゴメンだ。だから、さっちゃんがチラリと見せてくれたゲーム画面にも、あまり反応は示さなかったのだ。
キラキラした美形の男共がいくら並んでいようとも。フルボイスで、自分の名前をいくら囁かれようとも。
「そんなこと言わないで、1人お試しでやってみなさいよ! 神楽ちゃんになら……ほぉら、ドSな彼がいいんじゃないかしら?」
「ドS……!?」
ピクリと反応した私をさっちゃんは見逃さなかった。マズい。ただでさえ、さっちゃんは鋭いのだ。こういうことには。──多分、私が密かに気になっている男のことなど、既にお見通しの上での発言なんだろう。
「誰かさんに似てる気がしない? 眼鏡をしてはいるんだけどね。亜麻色のサラサラヘアーに、甘いマスク。毒舌を吐く時は瞳が赤く光るのよ。ホラ、この白衣着てる保健医!」
「保健医ぃ〜!?」
「そうよ。白衣のドS。シークレットキャラで攻略難易度は高いんだけど。お医者さんごっことかヤリタイ放題よ、うふふっ」
「や、別にそんなのはやんなくてもいいアル」
言葉とは裏腹に。目線は眼鏡の保健医に釘付けになる。確かに……似てる気がしてきた。無駄に整った顔立ちに、嫌味ったらしいニヤリとした笑み。まだ親密度なるものが低いせいで、掛けられる言葉はブリザード級の冷たさ。そのクセ、セクハラ発言を繰り出してヒトをおちょくってくる。
「どう? 気になってきたでしょ!? 今度は神楽ちゃんが彼を調教するぐらいの気持ちで攻略しちゃえばいいんだわっ」
「調教って、アイツじゃあるまいし……」
「だから、よ! 彼はラブチョリスで雌豚奴隷にしてやられていたみたいだけど。神楽ちゃんなら、そんなヘマしないでしょ? 実際ドSな彼に負けてないんですものね!」
「……アイツも、ラブチョリスやってたアルか」
「えっ? あら、知らなかったのね。大会で決勝まで残ってたわよ?」
どうしよう。ムカムカする。アイツが、あんなゲームをやり込んでたってことが……どうしようもなく、ムカついてくるんだけど。
「さっちゃん!」
「な、なぁに?」
「これ、一晩貸してヨ」
「あらあら。やる気になったのね? 仕方ないわねぇ。一晩だけよー」
「何アルか、コレ。学校は恋愛するための場所なんかじゃないはずネ。これだから勘違いするバカな女が増えて困るのヨ」
_____学園の王子様と呼ばれる、時右衛門様と出会いました!
「うぇ〜こういう、いかにもな感じの男は気に入らないアル。何アルか、このムダにキラキラなバック!」
_____貧血で倒れてしまったわたしは、気づいたら保健室のベッドに寝ていたみたい
「げっ。保健室ってことは!?」
_____視線を感じて横を見ると、白衣に身を包んだ眼鏡の男の人が立っていて、
「逆光で顔が見えないとか、もったいぶりすぎネ。どんな演出アルか!」
_____『オマエ、ろくに飯も食ってねーんじゃね? 今時貧血とか、自己管理がなってねぇ証拠だ。言っておくが、俺は大丈夫か、とか甘い言葉なんぞ吐く気はねぇからな。起きたんなら、勝手に帰れ。送ってもらえるかも、なんて期待は、するだけ損だぜ?』
「うわっ。マジでコイツ、ドSアルナ。病人にも容赦ないアルか! いや、でもサドだったら更に傷口に塩塗りつけるようなこと言いそう」
_____出会いは最悪なものだったけれど。幾度となく保健室を訪れるうちに。少しずつだけれど、先生のサディスティックな表情の合間に、裏のない本当の笑顔を見ることが出来るようになってきたの!
「うっ……ここで微笑を見せる、とかどんなツンデレ!? ハッ……これがギャップ萌えとかいうヤツなのかヨ!?」
_____『お前どんだけオレのこと好きなんだよ? あんまし、ここ(保健室)に入り浸ってっと犯すぞ、コラ!』
「ドアップ! 接近し過ぎネ! ってかセクハラ発言自重しろヨ!」
_____どんどん、深みにハマっていく。このまま進んではダメなんだと理性はストップをかけるのに、想いを止めることなんて到底出来そうにない。
「……そう、アルナ。私だって止められてたら、今頃こんなに苦労してないネ。ってか、同じドSでも先生のがマシじゃないアルか? この際、リアルでどうしようもない、あのアホの攻略法を訊きたいくらいネ!!」
「んで? この白衣は何なんでィ?」
目の前には、絶賛攻略中のドS男。眼鏡の保健医ではなく、アイマスクを頭に引っ掛けた真選組の一番隊隊長だ。二次元ではなく、リアルの人間。
「黙って着せられてろヨ。あ、それからその趣味の悪いアイマスク外して、この眼鏡掛けるヨロシ!」
「……はァ?」
動きの緩慢な男──沖田、に痺れを切らし。背伸びをしてアイマスクを奪い取ると、その代わりにノーフレームの細身の眼鏡を装着完了。
「一体何のコスプレなんだよ、コレ」
「……ヤバすぎアル。やっぱりリアルで先生になっちゃったネ!」
「はっ? 先生ィ?」
さすがに一晩でどきメモGSのクリアは、ムリだった。それでも仕方なくさっちゃんにゲームを返したところ、プレイ記念にと……コスプレ用だという白衣と眼鏡をプレゼントされたのだ。
その後、タイミングよく沖田に出くわしてしまった私の取った行動といえば──ヤツに、攻略対象だったドS保健医のコスプレをさせる、というものだった。
「──まさかチャイナが乙女ゲーなんざに手を出すとはな」
「自分でも驚きアル。しかも、ガッツリハマりかけてしまったアル。深みにハマる前に中断して正解だったネ!」
「コスプレまでさせる時点で既にハマり過ぎなんじゃねーの?」
「大丈夫アル。新八みたいに現実との区別つかない程じゃないから、全然問題ないネ!」
「ふーん?」
眼鏡に手を掛け、冷たい目線を寄越してくる沖田。うわ、今の仕草、リアルに先生っぽかった!
「ね、ねぇ。ちょっと“神楽”って言ってみてヨ」
「あー? 何でてめーの名前なんざ呼ばなきゃなんねェんだよ」
あ、コイツ知ってたのか。私の名前。ちょっとだけ浮き立つ心を抑えつつ、強気に押し切ってみる。
「呼ぶだけならタダなんだから!」
「……やなこった。大体、ゲームん中で名前呼んでもらえんだろィ? 何も俺が呼ばなくてもいーじゃん」
「だって、先生はかなり親密度上げなきゃ名前なんか呼んでくれないアル。一晩じゃ、そこまでは仲良くなれなかったネ。だから、代わりにオマエが先生になりきって呼んでくれればちょうどいいのヨ!」
「……」
あ、しまった。何か、バカにされそう。どさくさに紛れて、絶対普段なら呼んでくれなそうな自分の名前を、この機会に呼んでもらおうだなんて……やっぱり都合が良すぎるか。
「なァ。そいつ、保健医だっけ? そんなに俺に似てんの?」
「う。そ、そーだけどっ」
「俺に似てるヤツを攻略対象にした上に、そいつにハマってるってこたァ──期待してもいい訳?」
は、はい? 期待って……?
「聴いてんのかよ?」
気づけば。顎に手を掛けられ、グイッと引き寄せられて間近に沖田の顔が。
「顔、真っ赤だぜィ?」
「〜っっ!!」
コイツ、分かっててやってんのかー!! どこまでもドS。ああ、そんなところも先生に似てるじゃないかっ。
「……こんの、腐れドSーっ!!」
もう、これは確信犯なのだろう。耳に息まで吹きかけてきた沖田を突き飛ばし、後ろに素早く飛び退いた。──だがしかし。当然、そんなことで引き下がるヤツではなく。
「さぁて、どうやって攻略してくれんのかなァ? 神楽チャン?」
「そこで名前呼ぶとか反則アル!」
果たして、リアルドSこと、沖田総悟の攻略がどんなエンディングを迎えるかは──。
「ご想像にお任せ、ってヤツでさァ」