*夏祭り*




 結果として言えば──未遂に終わった。うん、ぶっちゃけて言うと、挿れる前に邪魔が入りました。

*第3夜 〜 浴衣と乙女心*


 下駄の音が、砂利道に擦れて大きく音を立てている。

 姐御やさっちゃんに挟まれて、綿飴と林檎飴を両手にしながら。私の視線は、ゴリとマヨに挟まれた総悟の後頭部だけに向いていた。
 久しぶりに思いがけなく皆に会えて、屋台の美味しい食べ物に囲まれて。こんなに楽しいことはないはずなのに、頭を占めるのが相も変わらず1人の男のことだけだなんて。

「神楽ちゃん? さっきから一点だけ睨みつけてどうしたのかしら?」
「ふぇっ!?」

 姐御にはしっかりとバレていて、ニコニコ微笑みながら問いかけられてしまった。

「聞いたわよ? いいトコロで邪魔されたんですって?」
「な、な、何でソレっ!!」
「バカなゴリラがふれ回っちゃったのね。2人がより戻すキッカケ潰してしまったとか騒ぎ立てたから」

 鍵を掛けていなかったのも悪かったし、玄関から見えるような位置でソンナコトしちゃってたのも悪いといえばそうなのだが。正に総悟が私の中に挿入ろうとした瞬間(もしかしたら半分入りかけてたかもだけど)玄関の扉が勢いよく開いたのだ。その先にいたのが、ゴリとマヨ。外にはジミーも待機していたらしい。
 勢いのまま、扉をもう一度閉め直し。どーぞ続けてクダサイ、などとアホなことを言い出したゴリにマヨの突っ込みが入るのを遠のく意識の外に聞き……。気づけば、再度はだけられた浴衣を総悟に気付け直され、帯までキッチリ締められた状態で立っていた。


「──それで、どうなのよ? いいトコロまでとはいえ、途中までは盛り上がってヤっちゃってた訳でしょ? これでより戻さないはずないわよね?」
「さ、さっちゃん……」

 確かに、ヤっちゃって……うっ、実際挿入りかけてた訳だから否定なんか出来ないけど。それにしても、ハッキリいいすぎ!

「あいつの考えてることなんか、今も昔も、よく分かんないネ。でも……嫌われたんじゃないのは分かった気がしたアル」
「やぁね。それは前にもさっちゃんが教えてあげたでしょ! 沖田くんは神楽ちゃんにベタ惚れなんだから、嫌いになったり心変わりするはずないのよ。多分神楽ちゃんにも、私たち周りの皆にも言えない何かしらの事情があるのよ!」
「その根拠が何処から来るのかは分からないけど、私も猿飛さんの意見には賛成だわ。──別れてから、神楽ちゃんが泣かされてから4年。沖田くんの中でも何か変化があったのかしらね?」

 2人は、4年前に私が総悟から別れを切り出されたことを聞いた後、理由を話さないことに怒り心頭。詰め寄って締め上げても口を開かなかったと嘆いてくれたのだ。遠距離恋愛なんて、これだからダメなのよ。そうボヤキながらも、私を慰めてやけ食いに付き合ってくれたりした。

「そういえば、皆も、もう大学卒業したから社会人だよナ? 私はもう4年以上社会人やってるから慣れたけど、仕事とか大丈夫アルか?」
「あぁ、今はお盆休みだから心配しなくていいのよ? むしろ、神楽ちゃんの方が大変だったでしょ。お父さんに騙されてこっち来たのよね?」
「あはは〜。そうアルナ。あの薄らハゲ、帰ったら半殺しアル!」

 その時、くるりと、総悟がこちらを振り返った。不意打ちを食らった心臓が、ドキンと、大きく音を立てる。

「やっぱ、また食ってたんか。チャイナらしいなァ」
「な、何ヨ! 夏祭りっていったら食わなきゃ損アル!」

 小さくなった最後の綿飴を口に頬張ると、苦笑を浮かべた総悟に鼻先をペロリと舐められてしまった。

「あめェ……」

 私を含め、周りが全員(何故か近くにいた他の祭り客も)固まる瞬間──。

「総悟っ! おまっ……公衆の面前でなんつー恥ずかしいことやってんだ!?」
「えー。んな恥ずかしいですかィ? 鼻の頭に砂糖の塊つけてる方が恥ずかしいじゃねーですか。だから取ってやったたけですぜィ?」
「っかー!! 何なの、この子!? お前らどんな教育したの!」
「うわっ。どっから出てきやがったんだ、銀八! ってか、てめーが教育者だろうが!! 何で俺らの責任になってんだよっ」
「えぇーっ? だって俺、せんせーつっても高3だけの担任だしぃ。幼なじみのお前らのが育てたっぽくね?」
「……いや、俺ァあんたらに育てられた覚えはないですぜ」

 目の前のアホらしいやり取りを見て、ようやく思考が再開する。──恥ずかしいっていうか。嬉しく思ってる自分がめちゃくちゃ信じられないんですけどぉ!!
 熱くなる頬を押さえ、頭をブンブン震っていると。姐御とさっちゃんのニヤニヤした視線に気がついた。

「嬉しいのね、神楽ちゃん?」
「顔真っ赤よ、神楽ちゃーん?」
「ふぇっ!? これは、そのっ」

 やっぱり2人にはバレバレで。色々絡まれていたところに、空いた右手をグイッと引っ張る腕があった。

「姐さん方、ちっとコイツ借りてきますがいいですかィ?」
「まあ。ちゃんと返して下さるのかしら?」
「──や、それはチャイナ次第でさァ」
「あらあら。さっきの続きでもするつもりぃ? いくら盛り上がっちゃっても屋外はやめときなさいね、蚊に刺されるわよ?」
「さ、さっちゃんはもう黙ってるヨロシ!!」

 ほっとくとシモに走りそうな友人に釘を差し。改めて総悟に向き直った。──このまま、また流されてる訳にはいかないのだ。真意を、皆がいる前で聞いておきたい。

「ねぇ、総悟。さっき、聞きそびれたネ。──私、期待してもいいアルか? バレバレだと思うけど、私はまだ総悟のこと、この通り、全然忘れられてないアル。このまま中国に帰っても、またズルズル引きずるのがオチだと思うし……総悟に私とやり直す気がないんなら、ハッキリ言って欲しいネ」
「チャイナ──」

 言いたいことは、言ったつもり。総悟の出した答えが、私の望むものでなくても、言わずに後悔はしたくなかったのだ。更に傷つくのが怖くて別れの理由を追求出来なかった4年前のようには、なりたくなかったから。

「参ったなァ……てめーの、その真っ直ぐな瞳ェ見ちまったら、のらりくらり逃げる気にもなれねー」
「に、逃がさないアルヨっ?」

 キュッと、総悟のシャツの裾を握り締めると。困ったように、でも優しく微笑う総悟の珍しい表情に出会った。

「おいおーい、そこのバカップル! この際だから、きっちりケリ付けろよ? だけどね、ひとまず道の真ん中は迷惑になるからやめときなさい」
「そうだぞー総悟。取り敢えず、自分の気持ちに正直にならなければいかんぞ! 俺を見習って、想いの丈を真っ直ぐにだな……」
「あなたはもう少し自重って言葉を知った方がいいわ、ゴリラ。でも、沖田くんは……神楽ちゃんに、嘘だけはつかないであげて。私たち、いつも明るい神楽ちゃんがあんな風に泣く姿は、もう見たくないもの」

 ただでさえ目立つ私たち集団に、周りの注目が一斉に集まるのを感じ取る。さすがに何処かに出た方が良さそうだと、揃って屋台の立ち並ぶ通りから離れることにした。

「お前らは、そっちでゆっくり喋ってこい。こっちはブラブラしてっから、ちゃんと携帯に連絡しろよ? トンズラすんのは無しだからな」
「何ですかィ。保護者気取りかよ、土方コノヤロー」
「喧しいわ! いいからさっさと行けっての!!」

 銀ちゃんを始めとして、皆が私たちを見守ってくれている。自然に繋がれた手が──絡め合わせた指先が、静かに熱を持って。トクン、トクン。今、確かに私と総悟の心が繋がっている気がする。


 そうして。繋いだ手はそのままに、人通りの少ない道を2人で歩いていた。チラリと総悟を見上げてみると、空いた方の手で器用に携帯を操りながら、画面を見て苦い顔をしている。

「どうしたもんかねィ……。俺はもう、黙って耐える気なんざサラサラねーんだがなァ」
「メール、アルか?」
「いや、着信履歴が10件」
「10件〜!? 相手、一体誰ヨ?」
「あー……神威?」

 目が点になる、という感覚を生まれて初めて味わう。──どうして、ここでクソ兄貴の名前が出てくるんだー!?


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次回、総悟視点になります。やっと、4年前の種明かしが出来るー!!
あ、予定では今度こそ終われる、はず(°∇°;)
まだ夏だよね?アウトじゃないよね!?(笑)

'11/08/28 written * '11/08/30 up

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