short_story


※3Z設定 総悟はミツバさん(社会人)と同居


 今日も今日とて、私の胃袋は絶好調です!


*餌付け作戦敢行中!*



「腹減ったアル〜。夕飯のおかずは何アルか?」
「さっき俺の焼きそばパン食ったばっかだろうが。まだ食うのかよ?」

 隣の席のサド……あ、違った。そーご、って呼べって言われてたんだ。
 その総悟に、昼休みの一時間後、既に空腹を訴えたら食べずに残していたという焼きそばパンを貰った。今は、ちょうど放課後になったばかり。貰った焼きそばパンなんて、とうの昔に消化してしまっている。

「大体、俺ァ今日は剣道部あっから。家にたかる気なら、夕飯はてめーで何とかするんだな」
「えぇっ!? そーご部活アルか〜? そんなんサボれヨ。授業だってよくサボってるクセに〜」
「授業なんざ受けなくてもテストで点取れりゃいいだけだろィ。でも部活は別。大会近ェし、一応これでもエースやってっからなァ……」

 近藤さんが泣くし、とボソッと呟いたのを私は聞き逃さない。お前の場合、それが一番の理由だろうよ。このゴリ至上主義者め!

「うぅ〜ミツバさんのご飯が食べたいアルぅ」
「お前、ほんっとに飯のことばっかだな」
「だってミツバさんの料理はハンパないネ! 総悟は毎日食べてるから分かんないかもしんないけど、絶妙な味付けとか、盛り付けの時のさり気ない飾り方とかとても真似出来ないアル。自分じゃ再現不可なら、たかりに行くしかないネ!!」
「……まあ、姉さんの飯は確かに旨ェけどよ」

 総悟のお姉さんのミツバさんは、身体が少し弱いらしいんだけど。儚げな印象の、とってもキレイで優しい女性。顔はちょっと総悟に似てるけど……性格は似ても似つかない。だって、こいつは超ド級のサドだから!

「そういや今日、姉さん休みだったなァ。出かける予定はなかったから、家にいるはずだけど」
「えっ。益々行きたいネ!! 総悟お願いヨ〜部活休んでヨ〜」
「おま……そこまで姉さんの飯が食いてーのかよ。だったら一人でも先に行ってれば? 家までの道、頭に入ってんだろ?」

 何と魅力的な提案! こいつにしては、優しすぎて裏があるんじゃないかと疑いたくなる。それを指摘してやれば、んな訳あるかと一蹴された。

「何でィ。飛びつくかと思ったら遠慮してんだ?」
「だって……そこまで厚かましくはなれないアル。それだったら、総悟が部活終わるまで待ってるネ」
「厚かましいって、たかってる時点で十分じゃね?」

 いつものサド発言は聞こえないフリをしておこう。ここで言い返してヤツの機嫌を損ねたら、ミツバさんのご飯にありつけなくなってしまう。
 まあ、それに。総悟と一緒に帰ればアイス奢ってくれたりとかするから、倍にお得だったりするのだ。何だかんだと、話が合ったりもして退屈もしないし?
 ──あれ。何か、これだと、ヤツのこと好きっぽくないか? いやいや、ナイナイ。総悟と馴れ合ってんのは、あくまでもミツバさんのご飯の為だから! それがなきゃ総悟なんか……まあ、嫌いではないと思うけど。

「うがぁっ!! 何、関係ないこと考えてるアルかぁっ!?」
「はァ? 何でィ、唐突に」


 ──サラサラで透けるような、亜麻色の髪。男にしては大きめな、くっきりした二重の瞳に長い睫毛。いつもは無表情で何を考えてるか分かんないけど……そう、ミツバさんだけに見せる笑顔は、私の胸がドキドキするくらいには破壊力が!


「だぁから! さっきから私おかしいアルぅ!!」
「や、確かにおかしいけど。マジで大丈夫かよ、チャイナ?」



 結局、厚かましいのは重々承知で。総悟の提案通りに、先に沖田家へお邪魔することになった。……私が空腹のあまり錯乱したんじゃないかと総悟に心配されたからなのだが。
 まずは総悟がメールでミツバさんにそれを伝えると、それなら一緒にご飯を作りましょうと返信が来て。
 その場でミツバさんのメアドを教えてもらった私は、沖田家へ向かう途中でメールをやり取りしながら頼まれた食材を買っていくことに。
 総悟はああ見えて、意外に肉とかいっぱい食べるとか。あまり好き嫌いしないで残さず食べるから、作り甲斐があるとか。何だか総悟の話ばかりだったのは気のせいだろうか?

「そういえば、どんな経緯で神楽ちゃんは家に来るようになったの?」

 レタスを千切るのを手伝っていると、突然ミツバさんに訊かれて手が止まってしまった。

「あ〜いきさつ、と言いますか……」
「言いにくいことなのかしら?」

 慣れた手つきでお肉を炒めるミツバさん。お肉は人参とインゲンを中に入れてキレイに巻かれていて、いい感じに焼き色がついてスゴく美味しそうだ。

「うー。大したことじゃなかったんですヨ? ただ、私が総悟のお弁当見てヨダレが垂れるだけ羨ましがっただけで」
「まあ! じゃあ、私の作ったお弁当で?」
「はいアル。あの、ミツバさん特製のサンドイッチと玉子焼きとタコ様ウィンナー……今思い出してもヨダレが出ちゃうアルぅ」
「ふふっ。でも、そーちゃんは子供っぽいからやめろって言うのよ?」
「総悟ったら罰当たりネ! あんな美味しいお弁当食べといて〜」
「まあ、それじゃあ神楽ちゃんにお弁当分けてあげたのね?」
「てめーのヨダレで机が汚れるとか失礼なこと言ってたネ、最初は。でも、結局タコ様と玉子焼き口に突っ込まれて……あぁ! ミツバさん、今度あの玉子焼きの作り方教えて欲しいアル! 私、甘いのよりしょっぱい方好きだから、ごっさ美味しかったんですヨ」
「まあ! 神楽ちゃんも辛党なのかしら? それなら今日は唐辛子も……」
「あ。辛いのはちょっと苦手アル」

 残念そうにするミツバさん。それでも、今度の日曜日に玉子焼きの作り方を教わる約束をしてくれた。あのサドのお姉さんが、こんなにいい人なのがとても不思議でならない。同じ血が流れてるはずなのに、何でだコラ。

「さあ、後はそーちゃんを待つだけね。神楽ちゃんが手伝ってくれたから、きっとそーちゃんも喜ぶわね!」
「えっ。でも私、レタス千切ってサラダ混ぜ合わせただけアル。ほとんどミツバさん作ですヨ? それに、私が手伝ったんだって分かったら、かえっていちゃもんつけそうネ……」
「そんなことないわよ? 意外にそーちゃんは、胃袋から攻略出来るタイプだと思うもの。美味しいものは無言で黙々食べちゃうから、判別しにくいんだけどね」
「えぇっ!? 攻略って、ミツバさん! 私、別に総悟のこと……」

 顔に全身の熱が集まっていくのを感じる。そんなんじゃ、まるで私が総悟をす、好き、みたい──。

「あら、違ったの? そーちゃんが家まで連れてくる女の子なんて神楽ちゃんが初めてだったから。私ったら、先走っちゃったかしら」
「あいつ、他に女の子連れてきたことないアルか……?」
「うふふ。そうよ? 私のご飯を美味しそうに食べてくれるからなんて、そっぽ向いて言ってたけど。神楽ちゃんのこと気に入らないんなら、今、神楽ちゃんがこうして私とお料理してることもなかったと思うの」

 それは、そうかもしれない。私がミツバさんに会えたのも、こうやって一緒にご飯を作ったり食べたりしてるのも──元々は、総悟が働きかけてくれたからこそのこと。

「あら? 噂をしてたら、そーちゃんが帰ってきたみたいね。神楽ちゃん、こっちはもう出来たからそーちゃんを迎えてあげてくれる?」

 ただいま、と。玄関から入ってきた総悟に、避けることも出来ずに真っ正面から顔を合わせてしまい。

「お、おかえりなさい」
「お、おぅ……」

 どことなく気まずく、何だかくすぐったい気分でひとまず声をかけた。さっき赤くなった顔がまだ冷めないような気がする。

「今日の飯、何?」
「えっ!? あ、えーと。肉巻き野菜と、ポテトサラダと、コンソメスープ?」
「お前、ホントに手伝ったのかよ?」
「そ、そうヨ! レタス千切ったりとか頑張ったアル!」
「へー。やっぱ食うの好きだと自分で作るもんなんだ?」

 あ、あれ? 何か……意外と好意的?

「姉さんから料理習うんなら、ついでに女らしさも習っとけば?」

 あ、やっぱサドはサドだった──。


(そーちゃん! あと一押しよ。頑張って!)
(姉さん……何か面白がってませんかィ?)



外堀からジワジワ埋められてますよ、神楽さん!!
いつでも沖田家に嫁に行けるゾ☆
総悟のは作戦でも何でもなくて、無意識です。多分自覚もしてない(笑)作戦立ててたのは、実はミツバさんでした!というオチで。

'11/07/31 written * '11/08/04 up

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