short_story


*欲しいモノは欲しいと言わなきゃダメ*
後編


 今にも館内に突撃していきそうな鉄砲娘を抑えつける、地味だけどそれなりには頼りになるメガネ。

「だぁから、何悠長にナレーションやってんですか!?」
「あれ、一応モノローグだったんだけど何でバレてんの?」
「全部口に出てますよっ。だだ漏れです!」

 そうか。それは気づかなかった。

「新八、何で止めるネ! こんなヤツら私たちにかかればケチョンケチョンに蹴散らせるアル」
「それはそうだけど! 騒ぎ大きくしちゃって沖田さん隠されちゃったらどうすんのさ」
「う……それは」

 先程、とっ捕まえた仲居に問い詰めたところ。どうやら沖田くんはアルコールにメチャクチャ強い為、酒で潰すのを断念した挙げ句、最終的に薬で潰されてしまったらしいのだ。沖田くんが素直に薬を飲んじまったとは思えなかったが、動かなくなってしまったというのだから間違いはないようだ。──それを聴いた神楽が逆上して、仲居さんが1人昏倒する羽目になったのだ。結構可愛い子だったんだけど……可哀想に。

「仕方ないアル。私、ちょっくら仲居さんに成りすまして行ってくるネ」
「着物借りちまうのか?」
「これ以上、総悟を他の女と2人っきりになんてさせたくないアル! しかも総悟の意識がないっていうなら、襲われちゃうかもしれないネ……」

 自分の想像に撃沈し、泣き崩れ出す始末だ。男が襲われるって、何かそれ、普通逆じゃね?
 ──だが。神楽が仲居の格好をしたところで、目立つ頭の色に人並み外れたこの容姿だ。この際、新八には悪いが強硬突破の方が早いだろう。

「あー、悪ぃなぱっつぁん。ちょっくらひと暴れしてくるわ〜」
「ちょっ……銀さん!?」
「きゃっほぅ! さすがは銀ちゃんアル!!」

 木刀を構え、ひとまず正面に現れた図体がデカいだけの雑魚を一匹張り倒す。その脇では、仕込み傘を構えた神楽が脳天直撃の一発をいかにもヤクザっぽい男にぶちかましていた。

「私に続けアルー!!」
「はいはーい。頑張って〜リーダー!」
「うわーっ。もうどうなっても知らないですからねっ!?」

 叫びながら、新八の一撃も向かってきた雑魚にクリーンヒットする。

「ひゅー。やるじゃん、ぱっつぁん」
「こうなりゃヤケですよっ。援軍来る前にさっさと行きますよ、2人共!!」

 突撃隊長と化した神楽を先頭に、息切れしながらも敵を薙ぎ倒す新八が続き、適当に俺が残りを蹴散らす。

「適当な上にナレーションやってる場合じゃないでしょ! 空気読んで下さいよ、銀さん!!」
「はいはーい。空気読んで適当にいきまーす」


 そうこうしてるうちに、どうやら沖田くんのいる部屋に辿り着いたらしい。神楽が、勢いよく襖を吹っ飛ばしてしまった。

「神楽ちゃんんーっ!? こっちも空気読まなすぎだろ、オイーーーー!」
「総悟ー!! 無事アルか!?」

 最早、新八の声など聞こえる筈もなく。

「まあ。随分騒がしいですわね?」
「……はっ?」

 部屋はだだっ広いお座敷。襖続きの隣室には意味ありげに敷かれた布団。そして、言葉を発したお嬢様風の浴衣美人が姿勢よく正座していた。特筆すべきは、その美人の膝に──微かな寝息を立てて眠る、神楽の最愛の王子様。

「な、何してるアルか?」

 唇をワナワナ震わせながら、意外にも静かな声で神楽が問う。

「沖田様がお酒に酔って眠ってしまわれましたの。わたくしの力ではお布団までお運びするのも難しいので、こうして膝枕を」
「……総悟はザルだから、酒なんかで潰れたりしないネ。どんな薬盛ったアルか、この女狐」
「まあ! 言いがかりですわ。薬だなんて……本当にお酒に酔われてましたのよ?」

 女狐、もとい浴衣美人の白魚のような指先が、沖田くんの髪を梳くように一撫でする。そこで、ついにうちのお姫様の堪忍袋の緒が切れてしまった。

「総悟に触んなー!!」
「きゃっ!」

 飛び出していく神楽から避けるように、沖田くんを抱えようとする浴衣美人……ああ、もう面倒くせー。女狐に益々神楽が逆上する。

「総悟を離すネ! そいつは私の男アル!」
「嫌ですわ。沖田様は父が婿養子に迎えると……わたくしと引き合わせてくれましたのよ? あなたのような凶暴な方に、沖田様は渡せませんわ」

 うぉー。この姉ちゃん、ただのお嬢じゃないな。肝が据わってやがる。一歩も譲る気がないようだ。

「総悟を婿にするのはこの神楽様アル! いい加減、目ぇ覚ませ、このクソサドー!!」

 絶叫と共に沖田くんを奪還した神楽。同時にその沖田くんの目がパチリと開き、神楽の頭をガッチリと押さえ込んだ。

「──何、俺婿なの? 出来ればテメーが嫁に来てくれると助かるんだがなァ」
「なっ、なっ、何……」

「呼ばれたから起きてやったんだぜ。……なァ、もっかい言ってくんねェ? これって逆プロポーズってやつだろィ?」

 あわあわ、パクパク。頭がフリーズしっぱなしの神楽を、抱きかかえるように体勢を直した沖田くんがドSスマイル全開で詰め寄る。

「い、いつから起きてたアルか」
「んー。そうだなァ、簡単に言うとずっと起きてた……?」
「ハァッ!?」
「薬飲んだフリして潰れた演技してたんでさァ。意外に騙せるモンだな、アカデミー賞狙えやすかねィ?」

 つまり、何だ? わざと潰れたフリして──まさか、神楽から逆プロポーズさせるために、ここまでやっちゃった訳? あれ、それって危険冒してまで来た万事屋(俺たち)ってスンゲー馬鹿みたいじゃね?

「なァ、神楽──」
「こんのクソドS! 心配した私の気持ち返しやがれっ」
「だってなァ。お前、ぜんっぜん口に出してくんねーじゃん? 確かに、態度で俺のこと好きすぎんのは分かるんだけどなァ」
「だ、だからって悪趣味アル!」
「そうかよ。じゃあ、俺と結婚なんかしたくねェ?」

 バカバカしさ満載のお騒がせバカップルの会話も、どうやらクライマックスにきたらしい。神楽の顔色がリトマス試験紙の如く、赤くなったり青くなったりと忙しなく変わる。

「──私と、」
「ん?」
「私と結婚しろヨ、コノヤロー!!」

 おぉっ。正に、逆プロポーズ! まさか本当に神楽に言わせちまうとは。さすがサド王子だな。

「おぅ。んじゃあ、こいつにサインしろ。んで、保証人は旦那に頼みまさァ。あ、一応成人はしてるんで、メガネくんでもいいですぜィ?」
「え? サイン? これ、え、婚姻届!?」
「あー。指輪の発注はしてあっから、あと3日くらい待って下せェ」
「ぅえーっ!?」

 完全に、沖田くんのペースに巻き込まれていく神楽を唖然としながら見守る俺と……口からプラズマ的な何かが飛び出してんじゃないかってだけ驚きっぱなしの新八。
 そうしてるうちにも、沖田くんの猛攻は続き。覚悟は決まったか、と更に神楽に詰め寄っていた。

「──沖田、神楽になってくれやすかィ?」
「そー、ご」
「返事は?」
「う〜〜〜〜。ハイ、アル!」



 ここまでが、傍迷惑なバカップルのプロポーズ物語になる訳だが。……これにはオマケがあって。

「よかったですわね、沖田様」
「「「……ハイ?」」」

 万事屋3人の息の合ったハモリが響く。

「小芝居一つで目的を果たしてしまわれるなんて、さすがですわ」
「ちょっ……待って。君、えっとお名前は?」
「はい。琴乃と申します」
「あー、そうなの。んじゃあ、琴乃さん? さっき、君、小芝居とか言ってました?」
「ええ。わたくし、沖田様の大ファンですので、是非とも沖田様には彼女さんと幸せになっていただきたくて……父もノリノリで協力して下さいましたのよ? 監察方の地味な方にも大袈裟に煽るようなことを仰っていて、笑いを堪えるのが大変でしたわ」

 するってーと、何だ? コレ、全部、サド王子の策略の一環ってことでファイナルアンサー?

「僕たち、結局は沖田さんの手の上で転がされてただけだったんですね。つーか、どの辺りが小芝居なんですか。明らかに博打並みの大芝居じゃないですか!」

 この後、ぶちキレた神楽がさっきの婚姻届をくすねて破くも偽物だったりとか。離婚だ、と叫ぶ神楽と沖田くんのじゃれ合いみたいなバトルが始まったりだとか。──とにかく簡単に話が纏まらない、傍迷惑カップルなのだった。

 以上、銀さんからの報告でしたー。




なっげーーーーよ!(笑)
お気づきでしょうが、最後は端折らせていただきました☆ゴメン☆
短編じゃないよね、コレ…。

'11/06/23 written * '11/07/01 up

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