*day_1_Generalpause*


伺い知れぬ、キミの心──


 我が物顔でお茶菓子の山を平らげるクソ兄貴を、恨めしい想いで睨みつける。ああ、美味しそう。神威ばっかりズルすぎる。あのチョコ、某ブランドの高いヤツ……!

「いやー悪いね、沖田クン。オレ、神楽が心配で飯もロクに食ってなかったんだよね。ウン、3合しか」
「いや、十分食い過ぎでしょう。ソレ」

 総悟は呆れているが、夜兎族の食欲は半端じゃないのだ。生活費は、80%食費で占められるのだから。ああ、忌々しい……私も実体ならあのお菓子食べられたのに!

「あれ、そういえば。総悟、神威のこと知ってたアルか?」

 どさくさで訊き損ねたが、さっき確かに神威先輩、って。

「──クラシックやりながら、バンド活動。そんなことしてれば、有名にもなりまさァ。『Silver soul』ボーカルの神楽とベースでリーダーの神威と言えば、学院内だけじゃなくこの界隈でもかなりの人気のようだし?」
「うげっ。総悟まで知ってたアルか!? バンドなんて、神威が歌ヘタクソだから代わりに入らされただけネ! コイツがつるんでた"つんぽ"にしつこくスカウトされたのもあるケド……」

 まさか、ここにきてバンドの話が出てくるとは。


 昼に神威を見た女の子たちが騒いでいたのは、このバンド……シルバーソウルがそれだけ人気だというのもある。
 そもそも、神威は母の才能を継いだのかピアノを始め、色んな楽器を扱うのがやたらと巧いヤツだった。日本に残って、まさか音大(試衛館)に入ったりバンド活動に手を出していたりと知った時は正直ビックリしたものだが。
 "つんぽ"こと河上万斉が曲を作りギターを弾き、神威がベースを弾きながら歌う。友人というだけで引き込まれた高杉晋助がドラムで加わり。ビジュアルだけで、瞬く間にシルバーソウルは人気バンドになったらしい。
 だが。つんぽに言わせると神威の歌は巧いだけで心に響かないらしいのだ。それは私にも分かる気がしたのだが、だからって何で、声楽を本格的に勉強するために高校から試衛館に入った私が畑違いのバンドボーカルなんてやる羽目になるのだ。日本にきて3週間でバンドデビューって、どんな展開だ。歌詞は私には絶対書けそうにないラブソングばっかだし。


 総悟がバンドのことで神威を知ってたのは理解した。悪目立ちしてるから、別に知りたくなくても視界に入ってきそうだし。

「何だ、じゃあ沖田が神楽を知ってたのもそれでだったんだ?」
「や、それは……ああ、確かに最近になって知ったのはそれで、ですかね」
「ふぅん? それだけじゃないってか。意味深じゃない」

 ターゲット、ロックオン。あれは、何やら企んでいる目だ。

「まあ、今はそれについてはいいや。……そんなことより本題に入らせてヨ。何で、神楽がキミの専用部屋の窓から落下なんてしなきゃならなかったのかな?」

 途端に、沖田家のリビング内に見えないブリザードが吹き荒れた。もちろん、これを出してるのは神威。だが、それに怯むこともなく。総悟はやんわりとテレビでよく見る営業スマイルを繰り出してきた。──ああ、今までこの王子様スマイルに騙されてきたのか。

「神楽さんとは、彼女の事故後に霊体となってから会いました。現場には、仕事の都合で遅れて行けなかったんです……信じないかもしれませんが」
「ふぅん? じゃあ、事故の後にノコノコその現場を訪れて神楽の霊体に会ったって訳?」
「一応、警察に事情聴取されたんで。自分の目で確かめたかったんですよ、彼女の事故は俺が呼び出した現場で起きてしまったから」
「へぇ。責任は感じてるんだ」
「……それは、まあ」

 総悟の目が静かに伏せられる。うわ、それは、私の方が総悟に悪いことしちゃったような。だから、責任とか感じるものじゃないって言いたいのに、言葉が出てこなかった。

「──何で見舞いにもこねーんだバカヤロー、だってさ」
「はっ?」
「銀八センセーからの伝言だよ。キミの担任だったんだってね? 高等部時代の」
「総悟、銀ちゃんの生徒だったアルか!? あんの天パー……隠してやがったナ! 私が総悟のファンだって知ってるくせに〜」

 どうして私の周りはドSばっかりなんだ。銀ちゃんといい、神威といい。あ、今日から総悟も追加じゃないか!

「病院行く前に、霊体(こっち)と会っちまったんでね。そこは勘弁して欲しい所です」
「ウン。そりゃ仕方ないよネ。でも、センセーには神楽見えないみたいだからフォローは出来ないよ? 明日にでも病院は行ってやって。とりあえず、まだ寝泊まりするみたいだから」
「銀ちゃん……あんなんでも、ちゃんと保護者やってくれてたアルナ」
「イヤイヤ、ただ単に堂々と仕事サボれてラッキーだってサ。ジャンプ持ち込んで読みふけってたケド?」

 ……前言撤回。やっぱりアイツは、ただのマダオだ。

「──噂通り、仲いいんですね」
「ハ? オレと神楽のコト? ヤダなぁ。だってコイツ弄んの楽しいし〜飽きないし?」
「オマエは全力でヒトからかって喜んでるドSだもんナ!」

 総悟に、仲いいだなんて思われたとは。クラスメートたちにはどう思われても否定すらしてないのに、どうしてだか釈明したくて仕方ない。……誤解されるのは、イヤだと思った。

「今日は、神威さんとこ行けばいんじゃね?」
「え……総悟?」
「よかったな。親しい人に見えるんだ、お前も安心だろ?」

 ──今、総悟に突き放された。

 霊体なのに、心臓がギュッと掴みあげられたような痛みを感じて苦しくなった。何、コレ。イタイ、クルシイ、セツナイ、ナキタクナル……。


 アナタは、また私をそうやって排除しようとするのネ?


「──っ!!」
「神楽? どうかした……」
「な、何でもないアル! 多分霊体の副作用か何かだと思うからほっとくヨロシ!」

 また、私じゃない私、の記憶が入り込んできた。ダメ、引きずられちゃ、イケナイ。……そうだ。別に、どうってことないじゃないか。今まで、再会すら出来るとも思ってなかったんだから。神威といるのは、いつものことで日常で、当たり前のことなんだから。……だから、総悟の言う通りに神威と帰ればいいだけのこと。

「まあ、沖田に言われなくても連れて帰る気ではいたけどさー。何さっきからテンパってんのかな? 神楽チャンは」
「私は天パーじゃないネ! あんなマダオと一緒にすんなヨ」
「……やっぱテンパってんじゃん」

 そんなやり取りすら無表情で見つめる総悟の視線から逃れるように、帰ろう、と一気に玄関まで飛び抜ける。

「待ってよー神楽。こっちは生身なんだからそんなに速く歩けないっての」

 だって。痛いんだもの、心が、胸が、魂が……。逃げたがってるんだもの。

「明日、病院には顔出しますから。銀八にも久しぶりに会いたいんで」

「どうぞどうぞ〜。オレはセンセーとは関係ないからネ。神楽の保護者ではあるけど、オレには別に恩がある訳でもないしー」

 後味が悪い、そんな気分を残したまま──波乱の幕開けとなった1日目は、終わりを告げたのだった。




まずは全力で土下座。高杉がネタ要員になっちゃってスミマセンでしたー!
オリジナルが元々バンド設定だったので、誰かを入れなきゃならないのは分かってたんです。そこで出てきたのが鬼兵隊の2人。
自分で作っといてなんだけど、酷い設定だな〜。
さて。次からやっと2日目に入りまーす!

'11/06/07 written * '11/06/09 up



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