あなたに出逢うために
あなたを捜し求めて
私はこの京に来たんだと思う
こんな結末は、許せない
絶対にあなたを救け出す
この時空の中を潜り抜けて
必ずあなたの夢の叶う未来へ
連れて行ってあげるから
*あなたの夢を護らせて*
「……ぞみ? 望美?」
ハッ、と我に返る。目の前には……。
「……九郎、さん? ほ、本物!?」
「はぁ? お前、大丈夫か?」
怪訝な表情で私を覗き込む、その端正な顔立ちは紛れもなく──源九郎義経、その人。私が駆け抜けた時空の中で、気づかぬうちに一番大切な存在になっていた男性。
源義経、といえば。私の知識の範囲では、悲劇のヒーローなんだと思っていた。兄を慕い、尽くした結果、裏切られ、追い詰められ、死を迎える。
私の中では、更に静御前……だったっけ? 彼女とのロマンスも、強く印象に残っていたものだけど。
こっちの九郎さんときたら。恋愛のレの字もないようなヒトで。確かに女性に対する気配りとかはあるんだろうけど、不器用な人だと……思った。
すぐに思ったこと口に出しちゃうし(私もだけど)。言ってから、後悔してるし(私もだけど)。
そう。私と、似てるのかもしれない。
意地っ張りね、と朔は笑う。どう見ても2人ともお互いに意識し合ってるのに、口を開くと言い争ってばかりじゃないか、と。
初めは、認めたくなかった。こんな人、何とも思ってないと……許婚だなんて、フリでも冗談じゃない! なんて思ってた。
でも、気づくと目で追ってしまう。
無造作に結い上げた、陽に透ける明るい髪も。一瞬、ほうっと見惚れてしまう程の端正な顔立ちも。ぶっきらぼうだけど、優しいその心も。たまに見せてくれる、お日様みたいな全開の笑顔も。
──気づいたら、好きになっていた。
失ってしまう運命なんて
見たくなかった
変えたくて
何度も
何度も
時空を超えた
九郎さんを失わずに済む未来には、簡単には辿り着けない。もう何度、運命の上書きを繰り返したのだろう?
私を庇って逝ってしまったあなた。頼朝の罠にかかり、処刑されてしまったあなた。
どうしたら、あなたを護り通すことが出来るんだろう……?
「おい、望美? ……泣いてるのか?」
「……へっ?」
気が付くと、至近距離に九郎さんの顔があって。いつの間にか零れ落ちてきた私の涙を、指で掬い取ってくれた。
「何か、あったのか?」
「九郎……さん」
「俺には話しづらいか?」
「九郎さんっ、九郎さん……」
ポロポロと、涙が止まらなくなる。
ここにいる九郎さんは、確かに生きていて。私の前に存在していて。こうして私を心配してくれていて、
「死なないで……。私の前から、いなくならないでっ」
やっと伝えたその言葉は、悲壮感の漂った重い言葉になってしまう。
「本当にどうしたんだ、望美? お前、おかしいぞ?」
「うん。分かってる。でも、でもね、私、」
「俺は死なない。いや、死ねない。お前を残して逝くことなんて、出来ないからな」
「……っ!!」
同じ、だね。私の前から消えてしまった、時空の狭間のあなたも……私にそう言ってくれた。約束は守られなかったけれど、今と同じ表情をして微笑ってくれた。
「連れて行ってくれるんだろう? お前の世界へ。見せてくれるんだろう……?」
「うん。絶対に、連れて行ってあげる……」
何度、死なない、という約束が破られたとしても。私が、必ずあなたを護ってみせる。
あなたの夢を叶えてあげたいから。何よりも、あなたと共に歩く未来が欲しいから。
「もう、泣くな。お前には、前を向いてずっと笑っていて欲しいんだ」
涙の痕に、優しく口づけて……。
私の大好きな向日葵みたいな笑顔を、私に向けてくれた。
今度こそ。
変えてみせる。
九郎さんの運命を。
私とあなたが笑って歩いていける未来を……。