躰の芯から溶けてしまいそうな、心地よくて、それでいて掴み所のない不安定な感覚にいつも翻弄されてしまう。零一から与えられるキスは、いつも瑠宇の思考を根こそぎ奪ってしまう快楽が伴うのだ。
「──先生の、えっち」
「はっ!?」
唐突に呟かれ、動揺のあまり零一の発する声は常よりも大きいものとなった。
「教師のクセにエロすぎなんですもん。反則ですっ」
「エロ……まさか君からそんな言葉が出る日が来るとは思いもしなかった」
(だって、ズルいんだもん)
まだ整わない息を大きく深呼吸することで落ち着かせ。瑠宇はエロい、と称した恋人を上目遣いで睨みつけた。
「……そんな可愛い仕草で誘惑する君の方が、狡いと思うのだがな」
「っ! か、か、可愛いって〜〜〜〜やっぱりそっちのがズルいじゃないですか!?」
全く、勝てる気がしない。いや、そもそも勝つか負けるかの問題ではないのだが。瑠宇の思考はグルグル回り回って、何だか訳の分からない方向へ向かっている。
「大体、誘惑って何ですかっ。私、そんなことしてないですもん!」
「だから無意識が一番怖いところなんだ。君の場合、特に」
「……え?」
零一が含みを持って発言していることは分かる。だが、その含みが何なのかまでは瑠宇には分からなかった。
「誘惑って、こういうの、でしょ?」
「る、瑠宇?」
分からないままでいるのも癪にさわる。どうしたものかと、思うままに恋人の頬やら耳元やらに口づけを落としてみた。そうしていると、いつもはされるがままな自分が優位に立てたような気になり、段々と行為をエスカレートさせていく。
「……っ」
悶え、耐えているような姿。首筋から胸元へ唇を辿らせながら、自分の行為に反応していく様子にすっかり調子に乗り始めていた。
「感じてくれてます? 言ってくれなきゃ、分かんないですけど?」
「くっ……君は、一体いつからそんなサディスティックに目覚めたんだ?」
「やられっぱなしじゃイヤなだけですよーだ」
ふふ、と小悪魔的な笑みを見せ、ちゅっと軽く音の出るキスを唇にお見舞いしてやった。
「甘ったるい、な」
「はい?」
「いや……砂糖菓子のような甘さだと思ったんだ」
「砂糖菓子、ですか?」
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。再び額から頬、首筋とキスを落としていけば。観念したように瑠宇に身を委ねる零一の姿が。
「私も、甘いです」
「そうか?」
「きっと、大好きって気持ちが溢れ出して糖分が漏れちゃってるんですよ〜」
「ふむ。気持ちが溢れると甘いのか。それは初耳だな」
「ふふっ」
お返しに、とばかりに零一からのキスが送られる。角度を変えて、やがてその深さが増していくと甘さの中に濃密な熱いモノが混ざっていった。
(とろとろとろとろ)
(溶けてなくなっちゃいそうよ)