分かっていても、言葉にして欲しい
そんな乙女心
あなたに言わせたいその2文字
「……零一さん」
「学校でその呼び方はやめなさいと言っただろう」
「ケチー」
「ああ、ケチで結構。公私混同は私の嫌うところだ。今更それを君に説明するのを望むのか?」
「むぅーーーーーー。分かってるけど。知ってますけどねっ。それでもイチャイチャしたいなぁとか、甘い言葉囁いて欲しいなぁとか、トシゴロノオンナノコとしては色々思っちゃうんですっ」
それに、もうすぐ卒業だし。……その卒業まではケジメをつける、というセンセイとしての恋人の気持ちも分からなくはないけれど。
生徒としてではなく、一人の女の子として見てもらえるようになっただけでは物足りなくて。誰よりも身も心も傍に置いてもらえるようになったら、今度は少しでも長く一緒にいたいと願うようになって。恋をすると、どんどん我が侭になっていく。そうすることで嫌われやしないか、呆れてしまうんじゃないかと、すぐに不安になってしまう自分もいたりして。
だから、こんなオトメな今の私に一番欲しいのは────たった2文字。一度でいいから、聴かせて欲しい、その言葉。
「ねえ、先生……」
「ん? どうした?」
「私のこと、どう思ってる?」
「な……何をいきなりっ」
「だって、訊きたくなったんだもん」
「言わなくても分かっているなら、そんなことは敢えて訊かなくてもいいだろう」
ああ、やっぱりそうきたか。だって、それでも訊きたい時ってあると思うんだもの。それが今、なんだから。
半分諦めつつ、私はこんなに好きなのになぁ……と溜め息混じりに呟いてみる。
「……言っておくが」
「へっ?」
「こっちはそんな簡単に言葉で表現出来るような気持ちではないのだが 、知らなかったのか?」
────絶句。そして赤面。
「……もう。ズルイなぁ。そんな風に言われたら、好きって言ってーなんて言えなくなっちゃう」
「そうだな。そんな簡単な2文字では、君への想いは伝え切れない……」
あああ。いつからこのヒト、こんなに口が巧くなったのやら。それでも“好き”の2文字を聴けなくても、たくさんの“愛してる”をもらった気になってしまったのは……きっと、錯覚ではないはず。
私に向けられる、優しくて熱いその視線が。くすぐったいくらいに、幸せな気持ちにしてくれるから。