short_story


*走れ!押し倒せ!*



 どうしてこうなった。

 何故だか、気づいたら屯所の中を全力疾走していた。眼前には、恋人と呼んでいいはずのチャイナ娘。

「総悟ーっ! てめっ、仕事サボってやがると思ったら、何走り回ってやがんだコラ!?」
「すいやせん、土方さん。俺も何が何だか分かんねェんでさァ」
「はぁっ!?」

 今日は昼飯を食ってから、屯所の自室で報告書の山に向かっていたはずだった。それも、土方の雷が落ちたから仕方なくだったのだ。
 だがしかし。1時間もしないうちに、背中にグイグイとあるかないか怪しいくらいの胸を押しつけてきた恋人により、仕事は一気に中断する羽目になる。

「おい。てめーは暇かもしれねぇが、こっちは仕事中なんでィ。さっさとその貧相な躰、どけやがれ」
「誰が貧相ネ! これからムチムチのバインバインになるんだからバカにすんじゃねーぞ!」
「あーそうだな。ちゃんと育ててやっから、俺自ら」
「っ!」

 何の気なしに、いつもの言い合いから出た言葉にすぎなかったのだ、俺的には。だが、チャイナには十分意味のある言葉だったらしい。
 急に顔を紅潮させ、上目遣いで、更に気持ち涙目ときたもんだ。突然のコンボ攻撃に、眩暈さえしてきやがった。いくらまだガキだとはいえ、惚れた女のそんな顔を見せられて動揺しない訳がない。ポーカーフェイスなんてものは完全に崩れ去ってしまった。

「そーご。それ、ホントアルか?」
「それ……?」
「育ててくれる、って言った!」

 いつの間にかキラキラ瞳になり、手まで握って、って纏めてきたデレにしては破壊力ありすぎだろ、てめー!

「私、全然そーごに女として見てもらえてないと思ってたネ。だから、ない胸でも押しつけたら……ムラムラするかと思ったアル」
「や、その胸じゃ、ムラムラは無理」
「オマエは彼女を気遣うとかする気ないアルかー!?」

 渾身の力で叩き込んできたであろう拳をヒョイと避けて、その腕を捕らえた。うわ、こいつ細ぇ。あんだけ食いまくってんのに何で肉つかねーんだよ。……とか何とか考えながら、何故か抵抗しない彼女を勢いのままに抱き寄せてみた。

 あ、やべ。前言撤回。ムラムラしてきたかも。

「チャイナ……」

 耳元に息を吹きかけ、ちゅうっと首筋にキスを一つ。彼女の甘ったるい匂いを吸い込んで、抱き込んだ躰の柔らかさを堪能した。

「──やっぱり」
「ん?」
「私、まだお子様でもいいアル!」
「……は?」

 突然のことだった。腕の中に大人しく収まっていた神楽が、気の弛んでいた俺を突き飛ばして全速力で駆け出していったのだ。

「ムラムラは私にはまだ早かったアルぅー!」

 訳の分からない言葉を発する神楽を唖然としながら、見送り、なんてしてる場合じゃねェ! 振り回され損じゃねーか、コノヤロー!

「こんのクソガキ! 待ちやがれ!」



 ──そんなこんなで追いかけている訳なんだが。やっぱり何がどうしてこうなったんだか、自分でもよく分からなくなっている。

「神楽ー!」

 いつもはあまり呼ばない彼女の名前を叫んでみる。ビクッと面白いくらいに反応し、走る速度が落ちた彼女をありったけの力で押さえ込んだ。こいつには力加減なんぞ必要ないのだから。

「ご、ごめんなさい〜〜〜〜」
「……は?」
「き、キライにならないでっ」

 目には、いっぱいの涙。台無しなことに、鼻水が流れ出ている。……確かに、世間一般的に見れば幻滅なのかもしれないが。

「だーれが嫌いになんてなってやるかよ」
「っ!」
「散々苦労して、やっとてめーを手に入れたんだ。頼まれたって離す気なんざねーよ」

 はて。思った通りに言ってはみたが、何か恥ずかしいこと垂れ流したんじゃなかろうか。うわ、ぜってー全力で馬鹿にされる。

「そーごぉ〜」
「うげっ!?」

 予想に反し、神楽は力いっぱい抱きついてきやがった。待て待て、骨折れるから! これもう、ムラムラじゃなくて死亡フラグ立ってるから!

「銀ちゃんに、私があんまり色気ないから総悟に愛想尽かされるって笑われたネ」
「旦那……何を余計なことを」
「めっためたのけちょんけちょんにしてやったけどナ」
「おー。よくやった」
「でも、悔しかったアル。考えてみたら総悟、子供にするちゅーくらいしかしてくれたことないネ」

 まあ、それはあれだ。いくら俺がやりたい盛りのお年頃(?)だとしても、まだお子様の神楽相手にはさすがに欲情しちゃまずかろうという理性が働いていただけのことだ。実際ムラムラしたのも、今日が初めてのこと。

「……でも、分かったヨ。そーごは、私がまだ子供だから待っててくれたんでしょ?」
「おぅ」

 ああ、今までの俺、よく我慢した。何だこの可愛い生き物は! もうムラムラどころじゃない。色んな意味で、ちょー危ない。大人な俺、カムバック。取り敢えず、暴れ出しそうな身体の一部分を抑えつけてくれないか。

「まあ、分かっただろ? いくら俺が大人だって言っても、お前から迫ったりしたらあってないようなストッパーなんざ物の見事に外れちまうって」
「う……そうアルナ」
「これに懲りたら、もう馬鹿なことすんじゃねーぞ?」

 ホッと一息ついて笑いかけてやれば、どうしてだか返事がない。何だ、懲りてねーとか言うなよ、コラ。

「つ、次は逃げないから……待って、て?」

 あ、やべ。鼻血出そう。

「神楽さん。俺、待てそうにないんですけど、どうしてくれんの?」



(さあ逃げろ、兎さん!)
(狼さんに食べられちゃうぞ)




2人とも別人でゴメンナサイ。私が恋人設定で書くとハイパーいちゃこらタイムが始まります。
今後ご要望があれば自重します(笑)

'11/06/01 up

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