*あめあめ、ふれふれ*
「♪あーめあーめふーれふーれ、かーぁさーんがー」
「……突然歌い出してどうかしたのか?」
「はい。雨、降ってるなぁって思って」
「それはそうだが。榊の歳にしては随分古めかしい歌だな」
「そうですか? あ、でも確かに後半の歌詞って曖昧な気がします」
「ふむ。蛇の目でおむかい……だったか」
「えっ? おむかえ、じゃないんですか!?」
「現代風に訳するとそうなるが、元の詞はおむかい、のはずだ」
「うわ〜知りませんでした。先生、よく知ってましたね」
「単なる雑学のようなものだろう」
「でも、先生の専門は数学でしょ? ピアノは趣味ですけど、童謡にも詳しいのって意外っていうか……」
「どうせ似合わん」
「え、ちょっ……!! 何で拗ねてんですかぁっ!?」
「――雨でも、窓、曇るんですよね」
「それはそうだが……。何だか今日は唐突な発言が多いようだな」
「ちょっと、思い出してただけです。冬の、こと」
「……冬。雪の日、か?」
「ふふ、そうです。魔法使いさんのこと!」
「今日は、指定席の誘いを断ったりしないだろうな?」
「っ!! もちろんですっ」
「では、本降りにならないうちに帰るとするか。雪ではないが、濡れれば冷えてしまうからな」
「そうですね。風邪引いたら大変っ」