※卒業後
「ねえ、零一さん?」
「何だ?」
「零一さんの今までの誕生日って、どんな感じだったの?」
「何でまたいきなりそんなことを……」
「だって、去年も言ってたじゃない? “これまでこんな風に祝ってもらったことなどなかった”って」
「ああ……確かにそうだったからな」
「ホントに?」
「そうだが……何を疑う?」
「疑うっていうか、元カノとかいたはずだよね〜と思って」
「……」
「ほら〜! そこで何で黙るのよっ!」
「いや。記憶に残るような誕生日など本当にない、と改めて気づいただけなんだが」
「えぇ〜!?」
「そんなに驚くことか?」
「驚きます! やっぱり零一さんって……。あぁっ! もしかしてクリスマスとかのイベント事も気づかないでスルーしてませんでしたか!?」
「確かにそうだが。……ところで何故いきなり敬語になっているんだ?」
「そんなことはどうでもいいんです!!!」
「ハイ」
「ちょっと座って、零一さん。きっちり話し合いましょう。ちょうどいい機会ですっ」
「……何故こうなる? 誕生日に説教か?」
「聞いてますか!?」
「はいはい聞いてます……」
*アニバーサリー*
11月6日。
今日は、最愛の男性がこの世に生を受けた大切な記念日。
当の本人にとっては、さして重要な日ではなかったらしい。
私とつきあい始めるまでは。
そもそも、クリスマスにしたってバレンタインにしたって、こっちからその日について話題を振らなければ気づきもしない人だとは思ってた。今はそれなりにイベント事にも興味を持ってくれるようになったから、零一さんにしたら大した進歩だ。
さて。話を戻そう。
今は、これまでの零一さんのあり方について話す時だ。
「れ・い・い・ち・さん?」
「ハイ」
あ、投げやりな返事。
「ちゃんと聞いてます!?」
「聞いてます聞いてます……」
「もうっ。誕生日やクリスマスが女の子にとってどんなに重要なイベントかホントに分かってます?」
「今は分かっているつもりだ。少なくとも、君の誕生日は俺にとっても重要な記念日と捉えている。自分の誕生日よりも、な。……そう思えるようになっただけでも進歩だとは思わないか?」
「今までがよくなかった自覚はあるんですね?」
「それは、もちろん。何処かのお嬢さんが事あるごとに責めて下さいますから」
何処かのお嬢さん……。
ああ、ちょっと嫌味入ってるし。苛めすぎだったかな?
「正直なところ、誕生日が恋人と過ごすべきイベントだとは認識していなかった。それが間違っているとも思えなかった」
「まあ、絶対そうだって訳じゃないとは思います。だから間違いでもないです」
「そうなのか?」
「そう、だと思います」
そう考えると、こうして零一さんに詰め寄ってる私の方が間違ってるような気がしてくる。
結局私は何が言いたかったんだか……。
「誕生日を一緒に祝えなくても幸せな恋人同士だっていますよね。遠距離恋愛の人とか」
「……まあ、そうだな」
「ただ、大事な人がこの世に生まれてくれた特別な日を一緒にお祝いしたい、とお互いに思えることが素敵だと思うんです」
大事な人だから。
ずっと一緒にいたいと思う相手だから。
少なくとも、私には大切な記念日。
「多分、今まではそこまで思える相手に出逢えていなかったんだと思う。何の疑問もなく君とこうして過ごしている今の自分は、以前の俺の目には酷く滑稽に映ることだろう」
「……。それって、私が零一さんにとって初めて大切な日を過ごしたいと思える相手だってことよね?」
「今更言わせるのか?」
「言わせたいです」
「全く君には……」
敵わないな、といつもの苦笑いで続ける零一さんに、そっと微笑む。
「今までがどうだっていいとは言わないが、これからのことなら自信を持って言える」
「これからのこと、ですか?」
「ああ。毎年、君とこうしていくつもの記念日を重ねていく。そうだろう?」
返事の代わりに、甘い口づけを。
額に、優しく。
頬に、ふわりと。
口唇に、熱く。
「ところで。ずっと気になっていたんだが……」
「はい?」
「寒くはないのか?」
零一さんの視線の先には、私の……。一糸纏わない裸の上半身……。
「きゃ〜〜〜っ!」
「今更隠してどうする」
「どうしてもっと早く言わないのよっっ」
「君があまりに凄い剣幕で語り出すので言い出せなかったんだが」
「うぅ〜」
「それに言ったところで、この後の展開はどうせ変わらないだろう?」
ん……? 零一さんのこの微笑みは……?
「まだ、足りない?」
「今日は俺の誕生日だろう?」
「日付は変わりましたけど」
「まだ朝には遠い」
「結局、こうなるのね?」
「拒否権がない訳ではないぞ?」
あってないような拒否権ですか?
苦笑を浮かべながら、それでも拒否などするでもなく自然にキスを交わす。
ホントはね。
誕生日でなくても、クリスマスでなくても。
貴方と過ごす毎日の一つ一つが、大切な記念日。
2人で重ねていく時間の中で、色褪せずに記憶に残る瞬間を過ごせていけることが……何よりのプレゼントだと、お互いに知っている。