※バレンタイン話
目の前には、壮絶なまでに美しい微笑みを顔面に貼り付けたまま腕組みをする担任教師が1人──。
恋愛の方程式。*あふたー*
「今まで度の入ってねェ眼鏡かけてたけど、やっぱり入ってる方に替えなきゃなんねーのかな?」
「……見間違いじゃ、ありませんヨ」
「いやー。俺、まだ夢見てんのかな? 随分リアルな夢だなァ、それにしては」
「現実逃避すんなヨ!」
「したくもなるわ。何コレ、ヤダコレ。全国模試で、数学だけ9点とか……桁1個足んねェ、とか笑えるレベルでもねーだろ!!」
あ、やべ。ついにキレた。
「ほんっと……自信なくすわ。教師として、どうなの俺? やっぱり教え方、マズイのか。それとももっと手取り足取り……」
「逃避ついでにエロい方に方向転換すんなヨ」
はっきり言って、総悟に──沖田先生に落ち度は全くない。むしろ、他の教師よりも教え方なんて分かりやすくて、居眠りや早弁をする気にもなったことがないというのに。
そう。全ては、何故だかテストや模試になると、公式やら今までの知識が吹っ飛んでしまう私の可哀想な頭のせい。
「この間の再試ん時の及第点は何処行きやがった?」
「あの時は、沖田先生のヤマが完全に当たったアル。あと、証明問題とかなかったし」
「あー。お前、証明問題だと国語力も低いから支離滅裂になるもんな……」
その国語の方が遥かに点数が上がったことも、やっぱり気に入らないようで。
「うう……こんなんじゃ、バレンタインの日のデートも中止アルか?」
「あ〜ん? そりゃねーな。バレンタインは俺が神楽を貰える日だしな」
「……はっ?」
今、私は何か聞き違えただろうか。何やら、とんでもないこと言われた気がするのだが。
「ん? 聞こえなかったか? だったらもう1回言って……」
「いや、いらないアル。聞かなかったことにするネ。ってか、バレンタインは姐御んとこにでも泊まりにいかせてもらうことに決めたアル」
「なーに言ってんでィ。俺から逃げられるとでも思ってんの? 相変わらず恋愛の偏差値も低いみてェだな、神楽ちゃんは」
「やかましいわ、変態ドS教師!! お巡りさーん、ここにロリコンがいるアル!」
つい先日。暴走しそうになる総悟を見かねて。高校卒業するまでは、清い関係でいること──それを、ミツバちゃんとトッシーに約束させられたのだ。10年待てたんだから、それぐらい大したことじゃないはず……とミツバちゃんは笑っていたけど。ただ、それに全く反抗しなかった総悟も不気味だったのだ。
何のことはない、約束破る気満々だったからなのか!!
「だって、もう無理。お前、可愛すぎるんだもん。押し倒したい、貪りたい、かぶりつきたい。限界なんか、とうの昔に越えてんだよ」
ここが、学校で、数学科の準備室であること──それを忘れてしまいそうになるくらい、沖田先生は教師の仮面を外して私を熱の籠った瞳で見つめている。
ああ、完全に欲情してる。そしてそんな沖田先生に……総悟に、視線だけで犯されてしまう。
「そんなんで、バレンタインまで待てるのかヨ」
「ふーん。言うじゃん? 煽ってくれるからには、それなりの報酬は期待できるんですかィ?」
「……ここじゃダメ、アル。先に帰ってるネ。ミツバちゃん、今日は遅くなるって言ってたし」
不穏に蠢き始めた、私の背を撫でる熱い指先を払いのけ。覚悟を決めて、触れるだけのキスをお見舞いしてやった。
「……言っとくけど、最後まではダメだからナ」
「いや、それ多分無理。途中で止めるとか拷問に等しいから」