※現パロ/教師×生徒/初出pixiv
あれから10年――。
両親を事故で亡くした沖田姉弟のところに、母親を亡くした私……神楽、が身を寄せることになってからの年数だ。
元々、沖田家とは家族ぐるみで仲良くしていたこともあり。反抗期真っ盛りで家を飛び出していた私のクソ兄貴の存在を無視すれば、沖田家での暮らしは別段不自由も寂しさも感じないものだった。多忙な父は相も変わらず年中仕事で飛び回っていたけれど、元々いなくても同じだし(ひでぇ)。
沖田姉弟の姉のミツバちゃんは既に社会に出て働いていたから、必然的に私は弟の総悟の方と一緒にいることが多かった。ドSで小学生の私をおちょくってばかりのアホ中学生(年の差6歳)という、しょうもないヤツではあったけど。いつも私を退屈にさせることなく、私の淋しさや孤独や辛さが少しでも和らぐように、気づけばいつも一緒にいてくれた。
そうやって。この10年の間、ずーっと総悟に護られて、救われてきたのだと思う。
大事な家族であり、かけがえのない大切な人――。
そんな総悟と私の関係に、今年から変化が訪れた。総悟が“教師”として、私の通う銀魂高校に赴任してきたからだ。
*10years aftar*
「神楽〜。遅刻しちまうぞ!」
ネクタイをビシッと締めながら、口いっぱいにパンを詰め込む私を急かす総悟。
「むぅ。待つアル!せっかくのミツバちゃん特製焼きたてパンなんだから、もう3個は食べときたいのヨ」
「相変わらず食い意地張ってんなァ。そこが神楽の可愛いトコでもあるからいいんだけどねィ」
朝から真顔で恥ずかしいことを言っているが、本人は至って大マジメらしい。日頃から『自称神楽ファンクラブ会長』なんてアホなことをほざいているくらいだから。
いつも人をおちょくってばかりのくせに、そんなこと言われても私にはまるで信用できないというか。顔だけは爽やかイケメンなのは認めるが(癪だけど)中身は激しくドSで、私に対しても日頃からそのサドっぷりを発揮しまくりだし。まあ、そんな調子なので常に聞き流して本気にしたことはない、という訳だ。
ただ、一度も総悟のことを意識しなかった訳ではない。あんな残念イケメンでも、黙って見つめられたりすれば不覚にもドキドキしてしまうのだ。小学生の頃は全く異性として見たことなんてなかったのだが、年を重ねるにつれて実際には赤の他人である男女が一つ屋根の下で暮らしていることが、世間的にはよく思われないことも理解できるようになったし。……ミツバちゃんがいるから問題なくね? と思ったりもしたけど。
話が逸れたが、私も生物学的には女に属するので。恋愛だのオシャレだのと騒ぎ出す友人たちに囲まれて、人並み程度には総悟に対して意識することも……まあ、なくはないのだ。
「でも、恋じゃないアル。それだけは絶対にない、って言い切るネ!」
「あ〜? 何で突然独り言?」
「な、何でもないアル!! ほらっ、もう学校行くんダロ!?」
「へいへい。ったく、お前がいつまでも食ってたせいで待ってたっつーのになァ」
沖田家に身を寄せるようになって暫くして、便宜上の問題だとかなんとか理由をつけられ、私は沖田姉弟の従妹だという設定になった。要するに、現状沖田姓を名乗っているのだ。――それにしても。設定、って何だ。ってか、便宜上ってのも何だそりゃ。すぐに疑問をぶつけはしたものの、バカ親父はのらりくらりとごまかすだけで、未だにどんなカラクリになっているかは不明だったりする。
総悟が教師になって、銀魂高校に赴任するとは思ってなかったし。……しかも、まさか担任になるだなんてあり得ないと思ってたから。まあ、周りにバレなければ従兄妹だという設定も役立つには違いない。
いつものように2人で登校し、周りから注目を浴びる――これも、もう慣れっこになってしまった。
「沖田先生〜おはよっ!」
「おぅ。おはよー」
「沖田センセっ! 今日も超カッコいい〜!!」
「サンキュー」
「きゃーっっ! 返事してくれたっ」
……アイドルかっての。
呆れながら、無駄に笑顔を振り撒く顔だけイケメンを見上げる。こうやって、登校の度に注目されるのも勘弁して欲しい。私は静かに学校生活を送りたいというのに。
「今日もみんな元気だなァ」
その笑顔の裏で、脳内は雌豚共〜とか嘲笑ってるのが分かるから複雑で苦笑いしか出てこない。完全に眼が笑ってないもんね。ほんっと……みんな、見た目に騙されすぎてる。
「何でィ、そんなに見つめて。俺に惚れ直してたのかよ?」
「黙れ、変態」
見つめてた訳でもなければ、最初から惚れてもないのに惚れ直すとかあり得ないっての。どんだけ自己中でおめでたい脳ミソしてるんだか。
お前は知らないだろう?
俺がどんなにお前のことを大切に想い、守ってきたか
お前は、覚えてはいないだろう?
10年変わらずに想い続けることが出来た――その原動力となった出来事を
昨夜、何だか懐かしいような夢を見た。初めて総悟に会った日の夢。かなり曖昧な記憶で、正直夢もやっぱりあやふや。……何処までが現実で、何処からが夢なんだろう?
『俺が神楽を嫁さんにするんだ。そうすりゃ、俺たちは本当の意味で一生家族だからなァ』
総悟の口からその言葉を聞いたのは、夢? それとも、あんなことがあったから、言われた気になっただけ?
『ずっとずーっと、そーごと一緒アル!』
無邪気な子供の、私の姿。そういえば、昔は単純に“総悟大好き”と大きな声で言っていた気がする。 今の私は、どうなんだろうか? 総悟に恋、なんて絶対ないと思い込んでいたけど――。
「神楽ちゃん、どうしたの?」
ハッと気づくと、目の前にはいつの間にかミツバちゃんがいて。
「家の中、真っ暗なのに鍵が開いてるからビックリしちゃったわ。神楽ちゃん、リビングの真ん中で呆けてるし」
ミツバちゃんはクスクス笑って、私の頭を優しく撫でてくれた。ミツバちゃんは最初から働きに出ていたから、一緒にいる時間は総悟よりもかなり少なかったけれど、その分よく甘えていた。幼い頃に母を亡くした私には、姉みたいな存在であると同時に、母のような存在でもあった。ミツバちゃんに言ったら、複雑な想いになるだろうけど。
「なぁに? また、そーちゃんにからかわれた?」
「私が落ち込んでたりすると、ミツバちゃんはいつも総悟のせいにするアルナ」
「ふふっ。だって、本当にそうなんでしょう?」
これだから、ミツバちゃんには敵わないのだ。私だけじゃなくて、総悟のことだって全てお見通しで。総悟だってミツバちゃんのことが大好きで、頭が上がらない唯一のヒトだから。
「ミツバちゃんは、総悟が私のこと嫁にしたい、って本気だと思うアルか?」
「あら。辛抱できなくて直接言っちゃったのね、そーちゃんったら。神楽ちゃんにはまだ早いんじゃないかって、アドバイスしたのに」
「み、ミツバちゃん……?」
沖田姉弟の中で、私は一体どんな位置付けにあるというのだ。若干、顔を引きつらせながら見上げると。
「大丈夫よ、神楽ちゃん。そーちゃんの愛はちょっと重いかもしれないけど、今まで積み重ねてきた年数の分だと思って気合い入れて受け止めてあげてね」
「えっ……」
イタズラっぽくウインクまでして。極上の笑顔で、ミツバちゃんまでもが爆弾発言。Oh my God!!
そんな、ある日――私たちの関係が一気に変わるきっかけになる事件、が起きた。