*clap_log*


* not sweet, more bitter *


※3Z/not会話文/VD&WD連作/神楽視点



 意地を張っている間に、告白に最適なチャンスだったバレンタインデーという日はあっという間に過ぎ去ってしまった。

「自由登校になっちゃったから、全然顔も合わせてないし……」
「何だ、お前らまだケンカしてたのかよ?」
「ケンカ、の方がまだマシだったかもしれないネ」

 私の愚痴に、文句を言いながらも付き合ってくれている銀ちゃんは。差し入れ、と称して持ってきた──某ドS野郎に渡し損ねたビターチョコを、一つ一つ摘まんではパクついている。

「甘さ控え目、カカオ70%ともなると俺には苦すぎんなぁ、やっぱり」
「銀ちゃんには、ちゃんとミルクたっぷりの甘いチョコやったダロ」
「うん。真ん中にでっかく"義理"って書いてたけど、ハート形だったせいで誤解されちゃったんだよねー」

 誰に、とは言わない。でも、銀ちゃんは全部分かっていて含みを持って私を横目で見るのだ。

「神楽もさー、ツンデレなのも大概にしとけよ? 沖田くんみたいなタイプは、意外と直球の方が堕としやすいと思うんだけど」
「……好きでツンデレやってる訳じゃないアル。ってか、別にツンデレやってるつもりはないネ!」

 マンガとかゲームでよく見るような可愛げのあるツンデレなら、まだよかったのだとでもいうのか。私の場合は、ただ単に素直になれない、告白する勇気もない、ナイナイ尽くしのダメ人間ってだけの話だというのに。

「つーかさぁ、また俺んとこになんか来て、益々誤解されちゃうんじゃん。それともヤキモチ妬いて欲しいだけだったりすんの?」
「誤解なんて、もう解きようもないだけ拗れちゃってるから今更だもーん」
「ちょっ……神楽ちゅわーん!? 何言ってんの、この娘! また俺が嫉妬に狂った沖田くんに攻撃されちゃうんだからね!? むしろ、それを狙ってんだろ、このドS娘!!」

 だって。沖田のことが好きな気持ちは空回りばかりで。当の本人にはちっとも伝わらないのに、周りにはバレバレ。その沖田が私のことを好きならしい、と周りからの助言で知りはしたけれど……どうにも信じられなくて。

「そもそも、お前がやたらと俺んとこに入り浸ってるから勘違いされんだろうが。とりあえず、八つ当たりすんなら他を当たってくんない? いい加減、出入り禁止にしちまうぞー」
「銀ちゃんのケチ」
「イヤイヤ、ケチとかそういう問題じゃねーから!!」

 バレンタインだからって、女の子が告白する日本の慣習がそもそもおかしいのだ。私は留学生だし、何もお菓子会社の売り上げに貢献する必要だってなくて。それに。沖田が勝手に、私の本命が銀ちゃんだと勘違いしたってもうどうだっていい──。

「おー、噂をすりゃあ沖田くんから電話じゃん。そういや、今日合格発表だったかな?」
「……ッ!!」

 知ってた。あいつの大学の合格発表が今日だってこと。こうして、銀ちゃんのとこにいれば、報告してきた時に会えるかもしれないって……期待してなかった訳じゃない。

「あー、ハイハイ。聴いてますよー。んで、どうだったの?」

 沖田の声は聴こえないが、銀ちゃんの返事で大体は言っている内容が予想出来る。

「……うん。おめでとさん! まあ、落ちる心配はしてなかったんだけどねー。沖田くん、何だかんだ言って、負けず嫌いだし?」
『──!! 〜〜!』
「えー、やだなぁ。沖田くんはさー、俺のこと勘違いしまくってるんだってば。教師としてだって、やれば出来る子だってちゃんと分かって接してたつもりだし。神楽のことにしたって──」
『〜〜ッ!!』
「いーや、関係なくなんかないから。そうやっていつまでも逃げてんじゃないの! このまま卒業しちまってホントにいいと思ってる?」

 銀ちゃんの視線が、私を捕らえる。

「ほれ、電話の相手が俺じゃなくて神楽だと思って、正直に今の気持ち白状してみなさい。30文字以内で」

 銀ちゃん……! 一体、何を言い出すんだ!?
 しかも、手にしていた携帯のスピーカーをオンにしたらしく。すぐに、沖田の電話の向こうの声が聴こえてきた。

『何でテメーにんなこと言わなきゃなんねーんだよ!? チャイナ本人にだって言えねェでいるってのにっ』
「うんうん。だからさー、合格もしたことだし。記念にもう一発、花咲かせるっての?」
『はぁっ? 意味分かんねェし』

 どくんどくん、心臓がうるさい位に音を立てている。私が2人のやり取りを聴いているのも知らずに、沖田はいつもの悪態をついているのだ。

「電話の相手が神楽だと思って、素直になれよー。はい、告白タイムスタート〜」
『誰が告白なんざするかよ!?』
「あれー? そんなこと言ってていいのかな。大学には合格したかもしれんが、卒業するには担任の俺様の内申というものが……」
『こんの腐れドS教師が!』

 一体いつまで続くのか、このやり取り。

「銀ちゃん。ちょっと携帯貸してヨ」
「はっ? ちょっ、待てって神楽! 今、沖田くんの本音暴いてやろうとしてんのにっ」
『なっ……その声、チャイナかよ!? 銀八、テメー!!』
「そんな叫ばなくても聴こえてるネ。落ち着くヨロシ」

 バクついていた心臓も、騒いでる沖田の声を聴いてたら驚く程静かになった。何かもう、開き直ったというか。

『……相変わらず、銀八にベッタリなんだなァ? 誤解だなんだって言ってたが、もう否定すんのも止めんのかよ』
「何とでも言うヨロシ。何か、いちいちオマエに振り回されてる自分がバカらしく思えてきてたところアル」
『ふーん……?』
「沖田に渡すつもりだったバレンタインのチョコも、銀ちゃんが貰ってくれたことだし。どうせ、もうすぐ卒業だから会おうと思わなきゃ会えなくなるんだし。……もう、沖田のこと好きでいるのも卒業することにしたから。苦しいばっかりで、もう恋なんてするのに疲れちゃったヨ」

 吐き出すようにぶつける言葉は。勝手に出てきた涙に混ざって、ジメジメと本来の私らしさなんか微塵も感じられない女々しさ。涙で霞む視界の隙間から、銀ちゃんが困ったような表情で溜め息をついてるのが見えた。
 一方的に言いたいことをぶつけたのに呆れたのか、携帯の向こうの沖田からは返事もない。──銀ちゃんに携帯を返すと、残りのチョコも片付けるように告げ。中身がほぼ空のカバンを掴んで、逃げるように学校を飛び出した。



____まさかの続く★


半年も続きをup出来なかった、曰く付きの拍手御礼…(遠目)
おかしいなぁ。バレンタインとホワイトデーでキレイにまとめるはずだったのに(;´д`)

'13/02/27 up * '14/01/11 reprint


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