※'12 X'masの未来/総楽(沖神娘)視点
クリスマスの夜だというのに、何が楽しくて実の兄とこうして高そうなホテルでディナーなんぞする羽目になったんだ。
見た目だけは完璧イケメンな兄──沖田神悟は、周りの女性客や店員の視線を独り占めしているというのに、我関せずといった感じでワインを味わっている。
「何でィ、総楽。お前も呑みてーの?」
「私はまだ未成年ですー。警察の娘が飲酒で捕まるとか、シャレにならないんですけど」
「父上が総楽ぐれェの時は、既にザルだったみてーじゃん」
……しかも、既に真選組一番隊隊長だったんだってんでしょ。知ってるっつーの。
「機嫌悪ィじゃん、総楽。昔はサンタさん〜とかはしゃいで天使みたいだったのになァ」
「黙れ、シスコン。それより、そもそも何で兄妹でクリスマスディナーなんかしなきゃなんないのヨ」
ありったけ顔をしかめて言ってやるも、兄は涼しい顔でこちらに視線を寄越すだけだ。何なのよ、一体!
「あり、言ってなかったっけ? ここのディナー、ホントは父上と母上の予約だったんだけど」
「はぁっ? だって、あの2人だったら今頃エイリアン狩りに、どっかの星じゃなかった?」
「予定外で母上に依頼入ったんでさァ。しかも、1人じゃちょいと厳しいらしくて。父上が自ら志願して真選組代表とか言って、体よく宇宙旅行してんだよ」
「我が親ながら呆れたわ」
「ま、いーんじゃね? 確かに、あの夫婦がタッグ組んだらエイリアンどころか星1つ滅ぼしちまいそうだし」
それ、全然よくないじゃん。
「そんな訳で、予約はキャンセルすんのも勿体ないから俺たちで行けって父上が」
「あー、そういうこと……にしたって、何でクソ兄貴とこんなトコ」
「クソ兄貴はねーだろ。昔は"おにーちゃん"って俺にベッタリですんげー可愛かったのに」
それ、黒歴史だから。あの頃の私は、何も知らなかったから!!
「とにかく。コレ食べたら、さっさと帰るから。兄貴だって、彼女くらいいるでしょ? 何で妹なんかとディナーなんて大人しくしてんのヨ」
「彼女、ねェ。んなもんもいたっけかな? 俺にしてみたら、お前とこうしてる方が全然楽しいんだけど」
「いい加減、シスコン卒業しろヨ、クソ兄貴! パピーも相当だったらしいけど、兄貴は病気レベル!!」
そもそも。今日のクリスマスは、友人たち(男女数人)と夜遅くまで盛り上がる予定だったのだ。それを、先回りして兄貴がキャンセルだと友人の1人に連絡し。気づけばドレスアップさせられて、こうしてディナーの席に。……ああ、でもこのチキンすっごい美味しいんですけどっ。ううっ、いつも気がついたら胃袋から懐柔されてる気がする。多分、この抜け目ない兄貴のことだから全て計算ずくなんだろう。
「総楽がサンタクロースの正体に気づいたのって何時だっけ?」
前ふりなしに問い掛けられ、暫し私の思考は過去に戻される。
「まだ小学校の頃だったけど、何を今更?」
「迂闊だったと思って。まだサンタさんを信じてた総楽だったら、未だにお兄ちゃんラブっ子かもしんねーじゃん」
「……アホか。17にもなってお兄ちゃんっ子とか、普通ありえないもん。それだったら、私、ファザコンの方が可能性高いと思うし」
実際、今だって自慢の父親だし。歳を言うと驚かれる程、実年齢より若くてカッコいいし。ドン引くくらいに、嫁ラブだし。
「父上には一生叶う気がしねーわ、俺」
「向かうトコ敵ナシ、の神悟さま〜だったんじゃないの? この間、真選組ファンだっていう女の人たちが騒いでたけど」
ちゃっかりと父と同じ道を辿り、兄貴は今では真選組の将来有望な隊士だ。最初から一番隊の隊長だった父とは違い、まだ隊長服を着ることも許されていないことに、かなり不満はあるみたいだけれど。
「俺のことはいいんでィ。俺は妹萌えを貫くって話をだな……」
「兄貴、キモいしウザい」
「口調は母上の真似止めたってのに、辛辣なのはソックリなんだよなァ。ってか、父上のドSっぷりのが近いんじゃね?」
辛辣なこと言われることばっか発言する自分が悪いんだっての。すっかり冷めてしまったスープを口に含み、それでも美味しさが損なわれていないことに満足して飲み干した。
「サンタさんかぁ……。何か、もう懐かしいかも」
「んー? 昔のこと、思い出したのかよ」
「子供ながらに焦ったんだよねー。マミーが浮気してんのかと思って。家庭崩壊の危機、とかって思い込んじゃったの」
「そういや、お前泣きついて来たっけな。マミーがサンタさんとチューしてた〜とか、クリスマスソングの歌詞パクったみてェなこと喚きながら」
「あぁぁ……それも黒歴史っ!!」
バカにされることを覚悟したのだが、予想外にも兄貴は優しい瞳で私を見つめている。何だか、調子が狂ってしまう。
「ほんっと、馬鹿だけど可愛かった。あん時の総楽。泣き顔もそそられる!」
変態が、ここにいる。
「──何、その可哀想なモノを見るような眼。仕方ねーだろ、総楽が可愛すぎるのが罪なんでィ」
「兄貴、今後半径1m以内立ち入り禁止」
「いや、それ無理」
チラチラと注目を集め続けていた私たちだけれど、まさかこんなアホみたいな会話を繰り広げているとは、誰も思わないだろう。兄妹だとも思われてないだろうし。……だが、しかし。年々酷くなってる気がする、この残念イケメンなシスコン兄貴のことを。昔のように無条件で慕うことは出来なくても、完全に嫌うことも出来ないのもまた事実。
「パピーたち、まだ帰ってこないのかな?」
「ついでだから、宇宙で年越しするみてーだけど」
「何それ。未成年の娘、放置してバカンス気分!? これだからあの万年新婚夫婦はーっっ!!」
「淋しがる必要ねェから。兄妹水入らずで仲良く新年を迎えような、マイハニー」
「誰がハニーだ!!」
ヤバい。何か身の危険を感じる……! シスコン突き抜けて、とんでもないこと(総楽妄想★)しでかすんじゃないだろうな!?
そういえば、上階(ホテル)の部屋も一部屋キャンセルしないで取ってあるんだけど──などと、周りに卒倒者が続出するくらいのいい笑顔で言ってのけるバカ兄貴の声を聴きながら。私も卒倒してしまいたくなっていた。
「お願いします、サンタさん。早くパピーとマミーを宇宙から連れ帰って下さいっ!! ヘルスミー!」
「ヘルプミー、な」
I saw mammy kissing Santa Claus!
「神悟たち、ディナー終わった頃アルナ」
「そうだな。ついでに、部屋に総楽を連れ込んでたりしてなァ」
「それ、笑えない冗談アル」
「はっ? ありゃ度の過ぎたシスコンだろ?」
「最近、神悟の総楽を見る目が性的なのヨ」
「おいおいおいおい」
「私たち、早まったアルか? 今から帰っても間に合うアルか!?」
「……。ま、何とかなるんじゃね? 総楽の馬鹿力がありゃー、神悟の1人や2人、簡単にぶっ飛ぶって」
「そーご。私、今オマエの頭の中を読んだネ。何処の馬の骨とも知れないヤローに総楽をくれてやるくらいなら、神悟の方がマシだと思ったダロ?」
「ナンノコトカナー」
「棒読み!!」