*2013年 神楽生誕記念 ついでに、総悟生誕記念*
§8th,July.@Kagura
もう、4ヶ月も前の話になる。
気づけば腐れ縁とも呼べる間柄になっていた、ドS王子こと沖田総悟の──22歳の誕生日の日のこと。
『沖田総悟の誕生会、と言う名のお見合いパーティー』
そんなアホみたいな企画が、真選組と見廻り組合同で行われることになった。
主催は、独身者が多いことを懸念した、警察庁の上役だという話だが……そこに何故か、万事屋まで参加の依頼が入り。新たな出会いを求めてそれに飛びついた男2人組を他所に、美味しいモノが食べ放題なら……と私も参加を快諾した。
そこで私が見たのは。
雌豚共に囲まれて取り合いされている、憎たらしいクソドSの姿だった。
「何アルか、アレ」
「な〜にぃ? 神楽ちゃんはドS王子がチヤホヤされてんのが気に食わないんだー?」
「……そんなんじゃ、ないアル」
んな訳あるか、銀ちゃんのバカ! と、本来の私ならば叫んでいたところだ。なのに、どうしてだか、言い返す気力が出なかった。胸の辺りがモヤモヤして、チクチクして。愛想笑いをしてるのが見えると、嫌々参加してるはずなのに何で笑ってんだ、って文句言いたくなったり。
「何か、食欲なくなったネ。新八、帰りに肉とか米とかタッパに詰めて持ってきてヨ」
「えーっ? タッパなんか持ってないよ! バナナだったら持っていけるけど」
「ダメアル。肉とか米とか限定ネ。裏方にでも頼むのが正しい主夫の姿ダロ」
「僕、いつから主夫になったんだよ……」
睨みつけるように見ていたせいか、こちらに気づいたらしい。沖田の口が、バーカ、と動くのが分かった。
「誰がバカアルか。そっちは大バカアホのすけダロ」
どうにもイライラして仕方がなくて。気づけば、会場からダッシュで飛び出して、万事屋のいつもの押し入れの中に籠ってしまった。
……一応、オシャレだってしていたはずだった。腰まで伸びた髪は半分は下ろして、残りは結い上げたりして。少しスリットの深いチャイナドレスは、自分でもいつも以上にお色気度アップな着こなしだったんじゃないかと思ってた。
確かに、時折知らないヤロー共が声を掛けてくれたように思わないでもない。でも、私が声を掛けて欲しかったのは──。
「どうしちゃったアルか、私。何で……さっきから、あのクソドSの顔ばっかり頭に浮かぶのヨ」
そういえば、あんなクソドSでも誕生日なんだから、おめでとうぐらいは言ってやろうかと思っていたのに。
「結局、言えなかったネ。言ったところで……だから何かある、って訳でもないけどナ」
自重気味に呟いたけれど。誰もいない万事屋の、しかも押し入れの中は、声が響くだけで何も返答はなかった。それでも、更にポツリと呟く。
「誕生日、おめでとう──沖田、総悟」
§9th,July.@Sougo
「あり? 新八くんが屯所に1人で、って珍しいですねィ。またウチの局長がストーカー行為で犯罪紛いのことでもして、ついに訴えに来やしたか?」
自分の誕生会、という名目で行われた見合いパーティーなるものが終わって、明けて朝のこと。
朝飯を食いに訪れた食堂で、意外な人物に遭遇した。確か、昨夜もパーティーには来ていたはずの、万事屋のオカン的存在な志村新八。……彼は、局長である近藤さんが執拗に追い掛ける志村妙の弟だ。だから丁重に迎え、優しく接するべし、という法度がある程の人物なのだが。
「身内だってのに酷い言われようですね、近藤さんも。あ、でも今日は近藤さんは関係ないですよ?」
笑いながら、新八くんは眼鏡を掛け直す仕草をする。その眼鏡の印象のせいか、ある程度歳を重ねた筈なのに、それを感じさせない。さすが、眼鏡掛け器。本体が、眼鏡。
「そういえば、昨日は沖田さんの誕生パーティーだったんですよね。僕ら、おめでとうの一言もなくてすみませんでした。今更ですけど、昨日はおめでとうございました!」
「はァ……ご丁寧に、ありがとうごぜーやす。別に、気にしなくても良かったんでさァ。ヤローの22の誕生日なんざ、祝うのも馬鹿らしいってもんでィ」
それに、昨日のパーティーとやらは完全に人の誕生日をダシにしたモノだったのだから。
「沖田さん、もう22なんですよね。僕も20歳になるしなぁ……時の経つのって、速いですね」
「なーに年寄りみてェなこと言ってんでさァ──それより、本当に何の用事で来たんですかィ?」
漸く疑問を投げかけると、新八くんは持っていた紙袋の中から相当量のタッパを取り出した。
「実は、昨夜のパーティーで残ったご馳走、山崎さんに頼んで屯所に持ち帰ってもらってたんですよ。神楽ちゃんに命令されたのもあるんですけど、銀さんも呑んでばっかりで食べれなかったらしいんで、当面の食糧として確保して来いって」
「相変わらず、万事屋は財政難ですねィ」
チャイナの命令、か。確かにあいつの胃袋だったら、これだけの食い物は軽く無くなるだろうが。
「そういえば、沖田さん。昨日は神楽ちゃんと話せたんですか?」
「……はっ?」
突然の問いかけに、すぐには答えが出なかった。
「目が合った気はしたから、バーカ、と口パクで罵ってはやりやしたけど。別に、何も話すようなこともなかったんで」
「あー、そうだったんですね。神楽ちゃん、お祝いの言葉くらいは言ってやるか、って言ってたのになぁ。素直じゃないんだから」
「へェー? あいつに俺を祝う気があったんですかィ? そりゃー、天変地異の前触れだ。実行に移されなくて、むしろ良かったかもしれやせんぜ」
「……沖田さん的には、やっぱりそうなりますよね」
新八くんは溜め息をついて肩を竦めた。
「端から見てたら焦れったいんだけどなぁ……」
「新八くんの言いたいこと、察しはついてんだけどねィ。悪ィが、俺から何か仕掛ける気はねーから」
「……っ!! 沖田さん、神楽ちゃんの気持ち気づいてたんですか!?」
今度は、こっちが肩を竦める番だ。
「気づくな、って方が無理だって。あのあからさまな態度」
「だったら……」
「だから言っただろ。俺からは、何もしねーって」
「それ、神楽ちゃんを好きだって、認めてますよね?」
「────」
一呼吸置いて、眼を伏せて。声のトーンを一段階落とし、告げる。
(今頃ごめんなさい。)