short_story


※六角篇後捏造


 結論──仇討ちしても、死んだ者は生き返らない。



*仇討ちのススメ*
【後編】


『演目/落語 "水戸の仇討ち"』

 芝居小屋の垂れ幕に、堂々とそんな文字が躍っている。

「……ちょっと、待て。落語、って誰が演るのヨ?」
「あー? 俺、だけど」
「何考えてるアルか!! オマエのこと、アホだとは思ってたけど、ここまでアホだったとは……」
「落ち着け、チャイナ」

 暴れ出しそうだった私を羽交い締めにし、沖田はこれからの"策"とやらを話し出した。

「まず、落語に『水戸の仇討ち』って題は存在しねェ」
「……はぁ!?」
「花見の仇討ち、とか宿屋の仇討ちならあるけどな」
「オマエの落語のウンチクなんかどうでもいいネ。いいから、続き話すヨロシ」

 じとり、睨み付けると。溜め息をつきながら、水戸の老中一味を誘き出す算段とやらを教えてくれた。

「一度、襲撃に失敗してしまったから敵さんも慎重にならざるを得ない。だが、あからさまに仇討ちをしに来たことをアピっておけば、動揺を誘える。慌てふためいて、計画性のない襲撃に出てくんだろ。そこを殺人未遂で真選組が御用、って寸法でィ」

 ナルホド。まあ、要するに税金泥棒共の手柄になる訳か。

「参考までに訊くけど。落語、実際にヤル気アルか?」
「あー、敵さんがそれまで呑気に襲撃してこなければ、の話だがなァ」

 ──結局、沖田の落語は、披露することはなかったんだけれども。


「沖田様!! 大変ですっ! 公儀改めだとか何とかで、お役人様たちに芝居の中止を強要されてしまいました!!」
「……そう来やがったかィ」

 慌てて走って来た毬江さんに対し、焦った風でもなく。落語のために持っていた扇子をポンポン叩き、何やら考えている様子の沖田。

「どーするつもりアルか?」
「んー。どーするっつっても、敵さんには真選組が裏にいることはバレちゃいねェはずだし。このまま、予定通りいかせてもらうに決まってらァ」
「はぁっ!?」

 その自信満々な態度は、何処から来るのか。不敵、というか……まあ、いつものドSな笑みを浮かべた沖田がそこにはいた訳で。

「公儀改め、ですかィ? それはそれは御苦労様です。で、どちらの御公儀でいらっしゃるんでしょう? この芝居小屋は、一応真選組から許可を得て出させて頂いてるんですが……何か不手際でもありやしたか?」
「なっ……真選組!? ちょっと待て、それは話が違う」
「はぁ? 話が違う、とはどういうことですかィ?」
「あぁっ!? いや、こっちの話で……ちょっと待って頂こう! 今、こちらに上役が向かっている故!!」

 取り乱す、自称・公儀改め共を一瞥し。沖田は、更に追い打ちの一言を投げ掛ける。

「ああ、上役というのは水戸の榊原様のことですかィ? 江戸までわざわざ御足労下さるとは、有難いことでさァ」
「なっ……!? 貴様、殿のお名前を何故!?」
「ハイ、ビンゴ〜。そっちからゲロってくれて、手間が省けやした」
「……ば、馬鹿かお前っ!! 挑発に乗りやがって!」

 そんな中。目の前のやり取りに完全に着いていけてない様子の毬江さんを見つけ、状況を説明してあげる羽目に。
 そうして説明を終えても尚、醜い言い争いを続けている連中を、沖田はドS全開スマイルで眺めている。完全に高みの見物、といった様相だ。

「……ったく、あのドSはしょうがないアルナ。毬江さん、あんなアホに任せちゃって、ホントに良かったアルか?」
「ふふっ」
「な、何ヨ?」

 毬江さんが急に笑い出し、ゴメンナサイ、と慌てて謝ってくる。

「お2人は、本当に仲がよろしいんですね」
「……はっ?」

 思ってもみなかった発言に呆気にとられ、マヌケにもポカンと口を開けて問い返してしまった。

「毬江さん、視力大丈夫アルか? いやいや、それより頭の方が心配ヨ!? 何か、目に見えないモノとか見えてんじゃないアルか!?」
「えっと……私じゃなくても、他の誰が見ても同じことを言うと思いますよ?」

 更なる毬江さんの発言で、私は無言になる。
 ──だって、沖田とは犬猿の仲、ってヤツで。会うといっつもケンカばっかりで。穏やかに過ごせた記憶なんか皆無で。万が一も、億が一にも私たちが仲良しこよしだった場面はないはずだ。

「……やっぱり、全く意味が分からないネ」
「神楽さん……無自覚なんですね。いえ、いいんです。もう、気になさらないで下さい」

 思わず反論しようと口を開きかけたが、そこで敵方の加勢が入ったらしく。沖田が毬江さんに、隠れるようにと目配せした。
 当然、とばかりに。毬江さんを庇いながら、私は芝居小屋の中に入る。更に、傘を万一に備えて構え、銃口を敵方に向けた。普段は、よく沖田に向けている銃口──こんなんで仲がいいとか、自覚ないとか言われても。やっぱり、納得がいかないのだ。

「チャイナ! そっちは任せたからなァ」
「分かってるネ。こっちは気にしないでガンガン斬るヨロシ」
「あのなァ……ただ斬るのは楽かもしれねェが、それだと証人がいなくなっちまうわ」

 沖田のくせに、何を正論振りかざしてやがるんだ。そういうのは、いつもマヨとかゴリに任せて好き放題やってるクセに。

「しっかし、最近てめーと居ると録なこと置きねェな」
「それはこっちの台詞ネ。霧江の時といい、毬江さんといい、仇討ちの女の子引っ掛けまくりじゃねーかヨ」
「何でィ。それって、妬いてんの?」
「ハァッ!? 何でそうなるネ!? オマエの頭はどんだけねじ曲がってるアルか」

 軽く会話のキャッチボールが行われる中──刀を抜き、奇声を上げながら向かって来る連中を。ゴミでも振り払うかのように、沖田が斬り倒す……どうやら、峰打ちっぽいが。
 そして。左右同時に、その上集団で斬り掛かられると、居合いを利用して周りを巻き込んでの薙ぎ倒し。

「調子乗りすぎじゃないアルか、クソサド!!」

 隙をついてこちらに向かって来た1人は、銃口を足に合わせて撃ち抜いてやった。

「おー、悪ィ。チャイナも1人くらい相手いねェと、つまんねーかと思ってなァ」
「アホなことぬかしてないで、ちゃっちゃと片づけろヨ、税金泥棒」
「へいへーい」

 沖田の刀捌きに、迷いはない。明らかに格下の連中に、余裕さえ見てとれる。──結果。モノの数分で1人残らず倒されてしまった訳で。

「スゲェ……」
「これが真選組一番隊隊長の力なのね!」
「あの居合い、太刀筋が見えなかったぞ!!」

 称賛の声にはまるで反応せず、沖田は懐から携帯を取り出している。

「あ〜、土方さん。もたもたしてる間に終わっちまいやしたぜ? そっちの首尾はどうなってるんで?」

 電話の相手はマヨだったようだ。この後、真選組が御用改めに来るのだろう。

「……はぁ。大久保宗則の娘なら、保護してやすが?」

 当の本人である毬江さんが、不安そうな顔で私を見る。マヨは、沖田に一体何を言ったのか……? まあ、毬江さんにとって都合の悪い展開だったとしたら私が暴れてやるけども。

「毬江さん、水戸老中榊原が将軍様から切腹を命じられやした。──特別に、大久保卿の御息女である毬江さんに立ち会いを許可するそうですが?」
「切腹の立ち会い……! 毬江さん、もちろん行くアルナ!?」

 これで、晴れて敵討ちになるではないか。毬江さんの手を汚すこともなく、何ともまあ、都合のいい展開になったもんだ。

「……いえ。私は、榊原が父上の無実を証明してくれるなら、それで良いのです」
「立ち会いは、しない、ってーことですかィ……」
「なっ……毬江さん、それでいいアルか!? にっくきアンチクショウが腹切るってのに、見届けなくていいって本気で思ってるアルか!?」

 驚いた様子もない沖田を押し退け、私は毬江さんに詰め寄った。仇討ちまでしようとしていた相手の最期を、その眼で見ないだなんて!

「チャイナ、それくらいで止めとけ。毬江さんには毬江さんなりの考えがあるんでィ。仮にも武家の御息女なんだ。俺らパンピーにゃ分からねェ、しがらみやら何やらがあるんじゃねーの?」

 沖田の言う通りだったのだろうか。毬江さんは、軽く、笑みを見せたかと思うと……その場に正座し。深々と頭を下げた。土下座、に見えなくもない。

「──何の真似です?」
「沖田様、神楽さん。この度は、私共の……大久保家の為にお力添えを戴き、誠に有り難うございました。感謝の意を表すのに、到底土下座ぐらいで足りるとは思えませんが、どうかお許し下さいませ」

 ああ、武家の娘さんって……こういうもんなんだろうか。言葉遣いだけ聴いていれば、あの大きな江戸城に棲む親友のそよちゃんに似てなくもなくなくないけれど。

「大久保卿が生前、どれだけ将軍様の信頼を得ていたか……それが全てでさァ。俺は上に報告しただけに過ぎねェんで。こっちはこっちで大手柄なんで、お互い様ってことにしときやしょう。チャイナのヤツには酢昆布の10箱でも20箱でも預けときゃ、満足すると思うんで」
「勝手に人の報酬決めんなヨ。ひとまず30箱で手を打つアル」
「てめー、そこは"報酬なんていらないアル〜"とか言うところだろうが。空気読めや」

 むっ。何を言うか、このクソサドめ。自分だけ報酬貰わないのは不公平だからって人を巻き込む気かよ!

「おあいにくさま〜。万事屋は貰うモノは貰っとく主義アル。いっつも銀ちゃんが言ってるネ!!」
「はァ。旦那の受け売り、かよ。ほんっと、てめーは旦那一筋だよなァ……」

 何だろう。今、沖田の言葉が、妬きもちに聴こえたような──気の、せい? ってか、だったらいいのに、とか思ってたさっきの自分の頭をフルボッコしたいんですけど!?
 唐突に沸き上がってきた思考に振り回され、脳内パニックの渦の中。目の前のクソサドが、ちょっとカッコ良く見えてくるのも、不可解でならない。
 眼前では、毬江さんと沖田が、今後の動向やら御家復興などについて説明を始めている。

 誰か、私の頭の中についても説明してくれないだろうか? そんなことを思いながら、深く溜め息をついたのだった──。




お待たせしたあげく、全く甘くなりませんでした( ̄□ ̄;)!!
どうしよう。リベンジしたい。これはやっぱり、後日談でしょうか!?総悟視点?
ご意見、ご感想等ありましたら↓の専用拍手からお願いします(笑)




'13/10/30 written * '13/11/01 up

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