■ 触らぬ神に祟りなし!?2

そして季節は過ぎ
秋から冬にかかろうとしていた時だろうか
俺は己の目を疑い心底驚いた

…何か、とてつもないものを見てる気がするぞ…

俺の前に居る佐々木は口を押さえ言葉を無くしていた
否、今クラスにいる誰もが驚いているに違いない
太った彼女の取り巻く環境に
今はお昼休みでクラスの半分が外に出ている状況だが、目の前の異常な状態に時が止まったように動けず立ち止まっている者や時折視線を向けながら談笑しているクラスメートがいた
俺達も一先ず気を取り直して時折彼らの方に視線を向けながら昼飯を食べ始めた
すると、中心にいる人物達が話し始める

「なぁ…俺此処で食べるの嫌なんだけど…」

軽く辺りを見回し呟くのは知的で繊細な艶を持つ黒髪の男
制服をしっかり着こなし、肌は健康さを保ちながらも白く
均等に整えられた一つ一つの顔のパーツはバランスよく男のランクを上げていく

「え〜良いじゃん、今まで外で食べてたけど、もう寒いから俺嫌だよ屋上」

否定するように口を尖らせ茶髪に染めた男が唸る
彼もまた黒髪の男とは違うタイプだが、日本人ばなれした顔は彫りが深く
ワイルドなイメージを醸し出す、少し焦げた肌は男らしさを引き立て、笑う笑みは艶が出ていて色気がある
男として憧れるだろう

「なんか…視線が…」

一つの机を囲むように座る三人だが、二人の男さ目線だけをうごかしながら辺りを確認し茶髪の男が笑いな黒髪の男の肩を叩く

「俺が良い男過ぎてるからな、千ちゃんごめんね」

「お前がいい男だったら世の中間違ってるぞ、それに俺は千ちゃんじゃねぇ」

机に置いてある包みを二人は開きながら言い合い、ふと黒髪の男がもう一人に視線を向ける

「おい幸恵、先に食べるなよ」



「え?だって二人とも話が長いんだもん」


ぷっくり膨れた顔が首をかしげ当然というように言い
ご飯を口に頬張る始めるのは転校生笹倉幸恵だった
「いいよいいよめぐみちゃん、どんどん食べて!おいしい?」

茶髪の男は微笑むと太った彼女は頷く

「美味しいよ、今日も上手だね」

「ありがとう、愛がこもってるから」

軽い爆弾発言を口にしながらも自分で作ったのだろう茶髪の男は彼女に誉められ心底嬉しそうだ
お茶などを彼女に用意しお手製のウインナーを食べさせる
だが、その姿に黒髪の男が眉を寄せ異議申し立てをする

「おい幸恵、否定しろよ、お前いつからめぐみちゃんになったんだ?」

「たく、かってーなぁ千ちゃんは…嫌われちゃうよ?」

茶髪の男も口にご飯を入れながら肩を大袈裟にに落とした
しかし、それを見ても黒髪の男は鼻で笑って否定する

「名前が覚えられないお前と一緒にするな」

その言葉に少し唇の端をあげ不意に彼女に視線を戻して囁く

「堅い男は嫌いだよねめぐみちゃん」

「どうでもいいよ」

食事に夢中なのかジュースを太い指で持ちながら気の無い返事をする
そんな幸恵の我関せずな態度の表情を見ながら茶髪の男は唇の端を吊り上げ

「かわいそうに」

一言哀れみの目で黒髪の男に視線をむけた
それに黒髪の男は焦ったのか、おもむろに自分の弁当の中からウインナーを取り出し

「さ、幸恵、これやるから…」

「ありがとー、千佳大好き」

彼女は微笑んで黒髪の男、千佳が出したウインナーを食べた
その姿に安堵の表情を浮かべ、千佳は微笑んで彼女を見つめた
だが気に入らないのは隣の男
必死に抗議する

「餌で釣るなんてサイテー、千ちゃんサイテー」

「黙れ、健」

一喝し食事を食べ始める千佳に健と呼ばれた茶髪の男はまだぶつぶつと言っていたが全てスルーされていた
「なぁこれ……現実だよな?」

唖然としながらも食事に集中したかった
だが、口をつく俺は疑り深く佐々木に質問していた

「物好きも居たもんだ……俺カッコイイやつの考えてることはわかんねぇ」

ため息を付き腑に落ちないのだろう彼の食事を刺す力に弁当が軽く悲鳴を上げた
だが、その気持も決して分からなくない俺は苦笑し彼の肝心の内容を尋ねる

「誰?」

「は?お前知らなかった?あの茶髪の男が馬場 健一(ばばけんいち)つって、黒髪の男が坂内 千佳(さかうち ちか)だよな…たしか
丁度おデブちゃんの一週間後くらいに転校してきた運動神経抜群で容姿端麗な二人ですよ、女子が物スゲー興奮しながら話してたの聞いて俺は思わず見に行ったくらいだからな」


小声で話すのは近くに彼らが居るからで
視線を向けれながらも憮然と呟くのは彼の意に反した結果だったから

まあ、見れば分かるだろうが………

「お前暇なんだな」

「いや、俺だって忙しいさ、でも女子が騒ぐ位だろ?もし中途半端な奴だったら笑ってやろうと思って」

鼻で笑う佐々木を俺は目を細めて見つめた
佐々木も正直モテる
性格は少々ひねくれてはいるものの外見は悔しい事にカッコイイ部類に入るだろう
だが、彼らとはレベルが違い過ぎているのは彼も十分、分かっているのだろう
それ以上口にしないのが証明になる
馬鹿な遠吠えはしない
そんな佐々木らしい態度に俺は笑い

「性格曲がってんな」

「好奇心旺盛だと言って下さいな」

笑う佐々木はいつの間にか弁当の中身が空になり
俺のパンを奪いにくるが阻止して逆に奴の飲み物を奪った

……はん、未熟者が…

俺は勝ち誇って佐々木の飲み物を飲むとあいつは苦笑した

いつもの光景だ
ふと時計を見れば後20分で昼の時間が終る
その瞬間俺の余裕は何処へやら、慌てて口にパンを突っ込み呆れる佐々木は笑っていた

やっと俺達の独特な雰囲気が流れいつもの会話が包んでいく
ふと、又視線を向ければ相変わらず彼女は両手に花だ
ありえない光景を展開させていた
しかし、ああなるにはどうしたら良いのか、是非彼女に聞いてみたい
彼女を取り合う男が二人………か?
想像するだけで俺には虚しいだけの様な気がするが、現実を目の当たりにされてはもう笑うしかない
俺はあの子は勘弁だけど、彼らを女の子にすり替えればかなりの美少女だろう

思考は妄想に変わり 心の底から思うのは



ああああああ
俺もモテたい!!




その言葉につきた





数ヶ月が経ち、俺は三年に上がった
ふと窓際から見える桜が散り始めているのに気づき、見納めなのだと瞳に焼き付けるように眺めていた

「清水くん、落としたよ」

投げ掛けられた言霊に視線を向ければ太った彼女が視線に入る
はち切れんばかりに丸い顔を笑顔に変え俺に消しゴムを渡してくれる
俺は礼をいい受け取った
彼女は微笑んだまま体を揺らし席につく
一学年上がってクラス替えがあり佐々木 とも同じクラスになれたのは良いが彼女まで一緒で内心驚きしかも隣同士だ

俺は気まずくてしょうがない
…いい子なんだけどなぁ…
思うのは彼女の印象
さりげない優しさが伝わる仕草は嫌味がない、性格も隣だから会話を聞く限りでは曲がってない
だが、俺は彼女とは話さない
必要最低限しか顔を合わせないようにしていた
理由は簡単、名前を覚えていないから
…というか頭に入ってこないのだ


今は授業の時間

必死に太い指を動かし集中する彼女を横目に俺は深いため息を付いた

…何で俺が隣なんだ
…相変わらずあの二人も健在だし
…しかも、俺を軽く睨んでくるのは何でだ!?
というか、彼女とあの二人の接点はなんなんだ!?


いまだにもって分からない俺は首を傾げ
彼女に聞けばすぐに分かる事なのに、その事に全く気がつかない間抜けな彼がそこにいた


End

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