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『ごほっ、風邪、ごほっ、引いちゃったんだけどさー、看病してくんないかなーなんつって』


20分前程度にそんな電話が掛かってきて、僕は飛び出すように寮を出た。名前の部屋へ行くと何故かベッドじゃなく床に寝転がっていて思わず固まってしまった。


「なにやってんですか…!」

「いやー…アレだよアレ、床ってさあ、ひんやりしてて気持ちいっつーか…んふふ」

「いくらひんやりしててもしっかりベッドで寝てくださいよ!」


彼女の背中と膝裏に手を回して抱き上げる。まあ、所謂お姫様抱っこというやつをして名前をベッドまで運びゆっくりと寝かせる。今こうして少し体に触れたけど、かなり熱かった。とにかく熱さましのシートを貼ってじっとりと滲んである汗も濡れタオルで拭かなきゃ。


「はい、体温計」

「んー…」

「じゃあ熱さましのシート貼りますね」


珍しく大人しく従っているところを見ると本当に体調が悪いようだ。苦しげに眉間にシワを寄せていると心が痛くなる。けれど、薄く赤に染まった頬に潤んでる瞳、汗をかいているからまた色っぽい。…って、僕は病人相手に何を考えてるんだ…邪念は捨てなければ。名前は今辛いんだから。


「…体温計鳴ったぞー…」

「ん、かして」


脇から体温計を抜き出してそれを受け取る。画面を見ると、38度9分と表示されていて溜め息をはいた。そうだ、こんなに熱が高いんだから尚更邪念を捨てなければ。別にノースリーブやショートパンツから覗く白くて細い手足が色っぽいとか、別に思ってない。このままではダメだと思い飲み物でも取ってこようと立ち上がった。けれど、名前の手によってそれは止められた。


「行くなよ…ゆき、お」

「…っ」


ああ、もう、本当に名前はずるい。いつも雪男なんて言わないくせに。こういうときに限って名前を呼ぶんだから。わかってるのかな、名前は。今の状況でめったに呼ばない名前を呼ぶなんて、そんなの、誘っているようにしか見えない。気が付けば、名前の柔らかい唇に自分の唇を重ね合わせていた。


「んん…っ」


くぐもった声がまた脳に響く。ダメだダメと思いつつも名前の口内にぬるりと舌を入れ、名前の舌に絡めたり口内を犯す。しばらくして限界がきたのか、弱い力で僕の胸板を叩いた。


「っ、はあ…はあ…なにやってんだ…」

「いや、つい」

「ついじゃねぇよ…病人相手に盛んな…発情期かこのやろー…」

「この年頃の男子はみんな発情期でしょ」

「威張んなばーか…」

「ていうか可愛い名前が悪い」

「…なんじゃそりゃ……風邪移ってもしらないからな…」

「そのときは名前が看病してね」


疲れきったようにぐったりしている名前にニッコリと笑いもう一度だけ軽くキスを落とす。ちょっと体を強張らせるところが本当に可愛い。うん、僕も十分に重症のようだ。名前のことだったら何でも可愛く見えてしまう。恋は盲目とはよく言ったものだ。


「雪男」

「ん?」

「……大好きだ、ばか」

「…本当に熱があるんだね」

「コラ、どういう意味だ」

「ふふっ…僕も大好きだよ」


そしてその後、僕が熱を出して名前に呆れられたのはいうまでもなく。でもなんやかんや言いながらも看病してくれた名前。やっぱり愛おしい。手放せない。

手放せない熱



 
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