の闇を止めてよ 7







「………っ!」
キスを深めようとしたところで、ガツン、と前歯が当たってお互いに目を見開く。どうやったらそんな失敗になるのか。ある意味初めての体験に呆気に取られてしまった。
「あ、すいません…っ!」
慌てて顔を離した月島は、真っ赤になっている。
さっき凄んできた勢いはどこにいったのか。
それに、なんて詰めの甘い。
…馬鹿みたい。
だけど、そんなところにさえ惹かれてしまうのだからこれは重症だ。
混沌としていた感情が一気に晴れてしまった。
何もかもを月島のせいにして、そしてあとに残ったのは、月島が好きだ、というむず痒い恋心だけ。
「六臂さ…」
「アンタ、強引に迫っておいて…」
「や、だって、あ、は、初めてだったんで…!」
あたふたと言い訳を始めた月島から六臂は俯くことで顔を隠して。
だって、こんな顔これ以上見せられない。
人の中に踏み込んできておいて、気がつけば何もかもを許している。
―月島はきっと、そんな初めての相手。
「あ、六臂さん、まだ土がついてます」
「……」
頬に残っていた土がパラパラと落下していく。
そんなことは後でいい。それだけじゃ、もう物足りない。
「もう一回」
「え」
「もう一回、キスしろ」
つい、命令口調になってしまうのは許してほしいと思う。
戸惑うようにして、それでも強くうなづいてくれる月島から目が離せない。
悔しい。恥ずかしい。ムカツク。好きだ。
そんな相反するようで似通った感情が六臂の中で綯交ぜになって、それは全部、月島のキスの中に溶けた。
「は…ぁっ」
最初は重ね合わせるだけだったのに、探るようにだんだんと深まる口づけ。
口づけが深まるにつれ、六臂もまた誘うようにして舌を伸ばした。
「ん…、う!」
舌を絡められて、びくり、と震えたのは六臂ではなくて月島のほう。
それでも何度も角度を変えて貪りあった。
物慣れない月島も驚くべき速さですぐに順応してきて、六臂に応えるようにして舌を絡めてくれる。
甘くて、もっと深くつながりたくて、気が付けば、引き寄せるように月島の背中へと腕を回していて。
媚薬の相乗効果で、舌先から、触れ合う唇から、しびれるような快楽が生まれては、体内に取り込まれていく。
「ん…」
息が上がるくらいに口づけあって、自然と体も離れれば、月島が気まずそうに視線をそらす。だから、吐息を整えながら、何か言いたげな月島を促した。
「…なに」
「だって、六臂さん、なんていうか…」
「はっきり言いなよ」
「……すごく、いやらしい」
いやらしい、だなんて。
そんなことを言われれば、期待に応えたくなるではないか。
そうだ、だいたいひとをその気にさせたんだから責任をとってもらわないといけないし、と六臂は自分の中で結論づけて。
もう、限界だ。体も、心も。
「ねえ」
震える指先で、月島のシャツを引っ張りながら。
「はい」
「アンタ、言ったよね。後悔させるとかなんとか…」
「…あっ、いや、あれは、その売り言葉に買い言葉っていうか…」
この後に及んでごね出した月島を見上げて、もう一度、突きつけてやる。


「後悔、させてくれるんでしょ?」


君を好きになったことを。
―いっそ後悔するくらいに、抱きしめて。




back







もう少しだけ、続きます。


2011.9.18 up

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -