テラ 4




※少しだけモブ登場
※動揺する臨也





(しくじったなあ…)
臨也は小さな嘆息を零した。
見つかる危険性を危惧していなかったわけではない。だが、予期せぬ事態を収めるには致し方ないことだったのだ。
だからと言って、今までやってきたことのつけではあったから言い訳のしようもないのだけれど。


目の前で、馴れ馴れしく彼氏面している男はひとつ上の、他校の先輩だ。
言うまでもなく、シズちゃんをけしかけるときに利用させてもらっていた男で。俺に対して、そういった意味での好意を持たれていたために利用はしやすかったが、こうも執拗に追い回されるとは思わなかった。
今日も突然現れては、無遠慮に触るだけに飽き足らず、キスさせろ、と迫ってきた。何を勘違いしているのかと最初は断ったものの、聞き入れてはくれなかった。穏便に済ませようと、それなりの態度を取ってやったのに、どうやらそれが仇となり調子に乗らせてしまったらしい。
すばやくキスをされてしまって、悔しくて唇を噛み締めた。それに、わざとに違いない。きっと気付いていた。…シズちゃんが見ていることに。
「はあ…」
我ながら頭を抱えたくなるほどの失態だ。今度はあからさまに顔をしかめれば、男はクスリ、と笑う。
「なんだよ。別にいいだろ、キスくらい」
「よくないです」
きっぱりと言い放つけれど、男は引かない。いい加減、ナイフで切り付けて追い払うべきだろうか。
視界の端でシズちゃんがこちらに向かって歩いてきているのを捉える。
(どうしようかなあ)
柄にもなく緊張している体が不自然に強張る。そのわけは明確だ。
「平和島と付き合ってるなんて嘘つくからだぜ?」
「……うーん」
嘘じゃないけど、まあこの様子だと信じてもらえないよね、と心中で舌打ちする。ここまでくると、些か欝陶しい。
それに、なによりシズちゃんをどうにかしないといけない。完全に誤解されているだろうから。
「…もういいでしょ?話、終わったし」
「なんだよ、俺は別れないからな?」
ごね始めた男を相手するうちに、シズちゃんがとうとう目前にまで迫る。
(うわあ…、…ヤバイっ)
シズちゃんは喧嘩するときみたいに怒りをあらわにするでもなく、無表情だ。逆に怖い。
もはや、この男のことなどどうでもよくなっていた。シズちゃんの誤解をとくことが先で、だけれどうまく言葉にならない。
「俺と…」
シズちゃんが真後ろに立ち止まったにも関わらず、男は優位を確信していたのか、それとも単に馬鹿なのか、俺を口説くことに必死なようだった。だけれど、そこで言葉を切らざるを得なかったのは、ふわり、とガタイのいい体が宙に浮いたからだ。
「あ…?」
ようやく置かれている状態に気付いたのか、男は素っ頓狂な声を上げて。
「うぜえ」
そんなシズちゃんの一言で、軽々と数メートル先まで放り投げられてしまう。
引っぺがした男には目もくれずに、シズちゃんは俺を静かに睨みつけた。そして。
「マジで最低だな、手前」
「……っ」
そう罵られて当然のことをしたのだから弁明の余地はない。
こんなときに限ってよく回る口先は沈黙を保ち、あまつさえ、小さな笑みを浮かべることしかできなくて。
最低だ、と蔑みながらも助けてくれたシズちゃんに言い訳どころかお礼のひとつも言えないまま。
俺は踵を返したシズちゃんの背中を見送ることしかできなかった。




END






咄嗟に言い訳できないくらいに動揺する、それくらいシズちゃんのことが好きだといいと思います。


2011.9.6 up



back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -