まぐれ猫の飼い方




※犬耳フードと「ニャン」にたぎったので






「……っ」
路地裏でうずくまり、ふと顔を上げれば交錯する視線。たまたま通りかかっただけなのか、否か。遭遇率がまた上がったと、もはやため息すら出ない。
「手前…!」
「やあ…」
こんなところで、という偶然なのか必然なのかわからない出会いに、路地裏へと入り込んできた静雄は驚きよりも怒りが勝ったらしい。
くわえていた煙草を噛み切らんばかりに怒気を放つ静雄に、臨也は笑ってごまかすしかなかった。
「はは、見逃してよ、シズちゃん」
「…聞けねぇなあ…?」
なにせ、動けないのだ。加えて、痛みに苛まれて思考も纏まらない。
とはいえ、もちろん、静雄が簡単にごまかされてくれるはずもなく、相変わらず睨みつけられたままだ。
だから。
「猫かなにかとでも思ってさ。ほら、に、にゃーん…?」
臨也は仕方なく、精一杯かわいらしい泣き声をあげてみた。我ながら情けないことこの上ない。
「……」
しかし、静雄は僅かに表情を動かしたのみ。このままでは殴られるのは必須。数秒前の自分の愚行を後悔しても始まらない。
動けない、武器もない、となれば少しでも防御率を上げようとフードを被るしかなかった。なす術なく殴られるのは釈だけどどうしようもない。
一発殴れば気が済むだろうことを祈って、キュッと瞳を閉じて縮こまる。
すると、静雄がふーっと大仰に紫煙を吐きだしながら動いた気配がして。
「……?」
襲ってきたのは、衝撃ではなかった。代わりにフードがくいくい、と引っ張られ、臨也は思わず目を開けた。
「シズちゃ…?」
てっきり殴られるかと思ったのに。
臨也の眼前にしゃがみこんだ静雄は、飽きもせずにフードを引っ張る。
「…男のくせにこんなもん被りやがって」
舌打ちしながらも、まだ引っ張っているのはフードの先端。そういえば耳がついていたっけ、と思い到ったところで静雄はようやくフードから手を離した。それでもまだ名残惜しそうに見えるのは、よっぽど気に入ったからだろうか。
「か、かわいいでしょ?」
「……」
殴られずに済んだことに安堵しながら小首をかしげてみせる。臨也は、意外だ、と驚くと同時に、これは利用できるかも、とほくそ笑んだわけだけれど。
「…やっぱ、うぜえ!」
「あいたっ」
かわいらしく振る舞ってみせても、結局は頬を叩かれて倒れ込むことになる。騙された、と臨也が唇を噛み締めていれば。
「なあ、フードのこれ、犬耳だろ」
「へ…」
「猫の泣きまねなんかしやがって…どっちかにしろ」
「…ねえ。そこ、に怒ったの…?」
予想の斜め上をいく静雄の指摘に唖然とするしかなかった。だけれど。
「おい、立てねぇんだろ」
「ん…」
なんだかんだ言って、手を差し延べてくれる静雄に、臨也は苦笑して。
こんなとこは優しくて、なんだかくすぐったい気持ちになる。だから、その手を取りながら、忘れず静雄の耳元で囁いた。
「ね」
「あ?」
「見逃してくれた代わりに…シズちゃんの犬でも猫でも好きなほうになったげるよ。うんとサービスするから」
「…いらねぇ」
素気なく吐き捨てる静雄に、満更でもないくせに、と心中で呟いて。
臨也はその腕の中に、じゃれつくようにしておとなしく収まってみせた。



END








まさかこんな仕上がりになるなんて、書いた私のほうが予想の斜め上でした(笑)

2011.8.30 up



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