の闇を止めてよ 4



※再びモブ×六臂のターン注意




あの男の名前は月島と言うらしい。
だけれど、今後会えるかどうかわからない、しかも消息不明。
結局わかったのは名前だけで、これでは振り出しに戻ってしまったようなものだ。
それを知ってしまった今となっては、池袋に留まる理由はない。
「ほんとムカつく…」
確かに明確な理由はないのだけれど、このまま諦めてしまうのもなんだか癪だ。だからと言って静雄の自宅で待つだなんて、会いたいと公言しているようなもので最初から選択肢にはないのだけれど。
いや、自分はきっと月島に会いたいのだろう。
確信が持てないのは、「会いたい」という感情とそれに伴う行動の原動力となる正体がわからないからだ。
「なんで俺がこんな思いをしなきゃなんないの」
そこで思考を打ち切った六臂は、不機嫌も露わに公園のベンチに腰掛けた。
いつもはそれなりに人がいる公園だが、今日に限って誰もいないようだった。
すっかり夜も更け気温が下がったせいか頬を撫でる夜風は冷たく、コートの前を掻き寄せて俯いた。
月島がこの胸の空虚感を埋めてくれるとは限らないのに。どうしてこんなに必死に追い求めているのだろう。
絆創膏たった一枚の繋がりしかなく、その絆創膏すらもう捨ててしまったというのに。
こんな気持ち初めてだ。
誰か一人に固執することなんて今までなかったから、どうしたらいいかなんてわからない。
―会いたい、と思ってしまうこの気持ちの正体とその行方を。


そんなときだった。
「何してんの」
「……?」
地面に影が差し、ゆるゆると顔を上げればどこかで見た覚えのある顔だった。
暫く男を凝視することでようやく思い出した。月島と出会うきっかけとなった情事の相手だ。
「一人?」
男は許可してもいないのに六臂の隣に座り、そして口元に笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「…何か用?」
「つれないねぇ」
慣れ慣れしく距離を近づけようとする男を睨みつける。話しかけてくるな、という意味を込めての牽制だったのだけれど男は気にする素振りもない。
「お前のことが忘れられなくてさ」
直接的な誘いに、六臂はすっと瞳を細めた。薄々は気付いてはいたけれど、冗談ではない。あのときは暇つぶしにと相手をしたが、今はそんな気分ではないし、もう二度とこの男と関係を持つつもりもなかった。
「そんなの知らないし。アンタの相手をする暇なんかないから早く消えてよ」
「冷たいな。あのときはお前から誘ってきたじゃねぇか」
「そんなこともう忘れた」
一人になりたかったのにとんだ邪魔が入った。気分は最悪だ。
だけれど、男はといえば、厭らしげな笑みを浮かべたまま更に六臂を煽るようなことを言ってくる。
「なんだよ、もしかして彼氏と待ち合わせか?」
「……」
その言葉に、返事代わりに男を一瞥した六臂はスッと立ち上がった。
男は諦める気はないらしく、このままでは埒が明かないと思ったからだ。
だが、六臂が歩き出そうとすると突然その手を取られてしまう。
「待てよ」
「…離せ」
仕方なく立ち止まらざるを得ず、冷たく拒絶しながら男を見やれば、男は先ほどまでの笑みを消し去っていて。
捕まえた六臂の左手を起点にして自らのほうへと引き寄せようとする。
「相手しろって。相手は誰だっていいんだろ?」
「…しつこいなっ」
男の執拗さに我慢できなくなった六臂は、袖口に隠し持っていたナイフを手にして横薙ぎに払う。しかし六臂のナイフを器用にも避けた男は、捉えたままだった六臂の左手を捩り、力任せに六臂を地面へと押し倒してきた。
「…っっ!」
背中を強かに打ちつけた衝撃に、六臂は唯一の武器であるナイフを取り落としてしまう。
そして男に馬乗りになられてしまえば、身動きが取れなくなり。予想外の展開に六臂は男を睨みあげるしかなかった。
「何すんの!」
「…せっかくの会えたんだ…。逃がすかよ」
男は一転して不気味な笑みを生み出し、そしてポケットの中を弄って何かを取りだそうとする。取りだされたのは透明な液体が入った小瓶だった。
「…離せって!」
嫌な予感しかせずに六臂は全身を使ってもがくのだけれど、男はなかなか屈強で微動だにしない。
「大人しくしろ」
「…あっ」
男によって顎を掴まれ鼻を摘まれることで強引に唇を開かされることになり。そして、抵抗も空しく、口内へと透明な液体が注がれていく。
「ぐ…、う…っ」
口元を押さえ込まれては吐き出すことすら儘ならない。呑み込むしかなかった六臂は悔しげに顔を歪めるしかなくて。
「お、効いてきたか?」
「……っ!?」
身体が疼く。この感覚には覚えがある。そう、身体中が熱くなって熱を吐き出したくてたまらないこの感覚。
きっと、これは媚薬だ。
「暴れなけりゃこんなことしなかったんだけどなぁ…」
薬を使われた今、そんな言葉は言い訳にしか聞こえない。最初から、この男は六臂を見つけたときから、抵抗手段を奪って強引に行為に及ぶつもりでいたのだ。
「お前が悪いんだぜ?」
「く…っ」
次第に呼吸が荒くなり、思考が纏まらなくなってくる。責められてもなんのことだかわからない。
ぐったりと地面の上へと痩躯を投げ出した六臂の上からようやく立ち上がった男は、どこか満足そうに見下ろしてくる。
「あれから仲間内に散々扱き下ろされてよお…。」
「う…」
そして、力の抜けた六臂を抱きあげた男はゆっくりと叢の中へと入っていく。
腕の中で虚ろな瞳で男を見つめても、逆効果でしかなかった。
「ヤッてたとき、お前笑っただろ?あれは俺を馬鹿にしたんだって後から言われてよ…。とんだ恥をかいたぜ」
そもそも、笑ったかどうかなんて覚えていない。ただ、あのとき男に満足したかといえばそれは嘘だ。だけれど、これでは完全に八つ当たりではないか。勝手に都合のよいように解釈して本当に馬鹿らしい。そう思うのだけれど、詰る術はなくて。
「…っ、はぁ…っ」
意に反してズクリとした身体の疼きに堪らなくなって熱い吐息を吐きだしてしまう。
この様では、どんな言いがかりであったとしても、おめおめと捕まり抵抗ひとつできない自分のほうがもっと惨めで。
「責任とってくれよなぁ?」
そして、叢の奥のほうまで入りようやく六臂を地面へと降ろした男は、すぐさまコートを剥ぎ取りだした。
「…っ、あっ」
抵抗したくても、全く力が入らなくて。頼りなげに地面を引っ掻くことしかできない。
「素直に喘いでいいんだぜ?…気持ちいいって言わせてやるよ」
コートを脱がし終えると、今度は六臂のインナーへと手をかけてくる。
そして、胸元を隠す細紐をゆっくりとほどきながら、男は闇夜を背に舌舐めずりした。




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2011.7.18 up

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