の闇を止めてよ



※月六出会い編、今回はモブ×六臂中心。
※六臂はいろんな意味で壊れてるけどほんとは寂しがりやさん(本人は無意識)





池袋の路地裏。まだ太陽は真上にあるというのに、薄暗いビルの狭間からは荒い息遣いと断続的な失笑が漏れ聞こえてくる。
…この世界はつまらないことばかりだ。
六臂はそんなことを朧げに考えながら、自分を正面から突き上げる男の背におざなりに腕を回す。瞳と揃いの紅色が印象的なコートのファーがフワリと揺れる。
「…んっ」
ガツガツと突き上げられるたびに、押し出されるような吐息とともに甘い声が上がるがそれはサービスだ。
六臂は下半身だけを曝し、男に両足を広げ抱え上げられていた。壁に痩身を押さえつけられ貪られるその姿は、一見すれば意に沿わない行為に見えるかもしれないがちゃんと合意だ。
いや、正しくは、六臂にとってはどうでもよい、といったところか。本当は性行為自体に興味があるわけではない。
つまらなさを紛らわすかのようにして壁をナイフで無意味に傷つけていたとき、男たちに声をかけられた。男たちは始めはそんな六臂の行為を散々に扱き下ろしていたくせに、いつの間にこんな行為に至ったのだろうか。経緯などすっかり忘れ去ってしまったが、暇潰しにちょうどいいと思ったことだけは微かに記憶にある。
だが、とんだ期待外れだった。
六臂があからさまにため息を零せば、順番待ちをしていた男と視線が絡み。そして、その男が皮肉げに笑った。
「なんだ?気持ちよくないなら代わってやろうか?」
的外れなことを言う男を一瞥すれば、六臂を抱く男が不満を漏らす。
「おい、ふざけんな!」
「だってよー。こいつ、つまらなさそうにしてるぜ?」
それは確かに事実だ、と六臂は心中でひとつ笑う。
「お前下手なんじゃね?」
「クソが…だったらもっと酷くしてもいいんだよな?」
仲間にからかわれた上に、六臂もまた顔色ひとつ変えないものだからさすがに腹が立ったのだろう。
「…っ、…あっ!!」
臀部を広げられグンと勢いよく突かれれば、最奥に肉棒が当たり、さすがに声が漏れてしまう。鋭い嬌声を上げたところで、六臂を抱く男がいやらしく笑う。
「どうだ?気持ちいいだろ?」
「……」
はぁっ、はぁっ、と荒い吐息もそのままに抽挿を繰り返す男に、六臂は何も言わずに微笑み返した。秀麗だと褒められる自分の顔立ちはこんなときばかりは役に立つ。
「はっ、声にならないくらい気持ちいいんだよな?」
「おいおい本当かよ?もういいから早く代われ!」
「うっせぇな。順番だろうがっ」
微笑みを肯定と受け取った男は気を良くしたのだろう、仲間たちの軽口を受け流し、再び酔いしれたように腰を振り始める。
「…ん、ふあっ」
六臂もまた、合わせてやるようにして甘い声を上げてやった。つまらない行為をさっさと終わらすのには最善だと考えたからだ。
だけれど終焉を迎えるまではせいぜいあがいて本能の赴くままみっともない姿を曝せばいいと思う。
刹那でもこの胸の空虚感を埋めてくれるならば、行為を許した甲斐もあるというもの。


六臂は微笑みを深める。
それは、眼前の男に向けての嘲笑だったが、同時に自分自身への揶揄であることにも気付いていた。


そんなときだった。
ふと気配に気付いて視線を投げた先、路地裏の入口からこちらを見つめ呆然と立ち尽くす男がいた。
自分を抱く男も周囲を取り囲む仲間たちも気付いてはいないようだ。
どこの誰かは知らないが、他人の、しかもこの自分の情事を覗くだなんて随分と無粋で加えて物好きなようだ。
しかし、そこで六臂は瞳を細めてマジマジとその男を見返す。よく見ればこの男、見覚えがあるのだ。
記憶を手繰り寄せようとしたところですぐに思い出した。
(ああ、臨也の…)
臨也の仇敵兼恋人である平和島静雄に酷似しているのだ。本人かと思ったのだが、この状況下で纏う雰囲気や仕種が全く異なるから別人なのだろう。
相変わらず身じろぐことのないその男は、行為を目の当たりにしてどうやら硬直してしまっているらしい。
おかしな奴だ。
六臂はその男に向けて、ゆっくりと口角を引き上げ、そして己の愚行を見せ付けるかのように極上の笑みを浮かべた。



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2011.7.1 up
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