kiss×kiss×kiss


※キスに纏わるSS その1
※「キスだけで足りるの…?」


「おい」
「わ…!」
携帯でメールを送信し終えた瞬間、不覚にも構える暇もなく路地裏に引きずり込まれた。
油断があったことは認めよう。
だけれど、不意打ちは卑怯だと思う。
「いたた…っ!」
掴まれた手首をあっさりと解放してくれたのはよいものの、その反動を殺せずに勢い余って倒れ込んでしまう。
強かに臀部や肩先を打ちつけることになってしまえば、思わず睨みたくなるというもの。
静雄は涼しげな顔をしたまましゃがみこんで臨也を見下ろしており、その表情には余裕すら垣間見えるのだから尚更腹立たしい。
静雄に見つかる危険性は皆無ではなかったものの、今日は特別静雄に何か仕掛けたわけでもなく、ただ池袋を通りすがっただけにすぎない。
一体、何の用だというのだ。
「なんなの、突然さあ!シズちゃんの乱暴者!」
ゆるゆると身を起こすも捲れ上がったコートのフードが臨也の後頭部を中途半端に覆ったままなのが気になって。
しかし、フードに手をかけようとしたその手を再び掴まれてしまう。
加えて先程からだんまりを貫く静雄を訝しげに見つめれば、急速に縮まる距離。
「……っ」
顎に指先をかけられたときには、地面に膝をついた静雄に口づけられていた。
突然のキスに、臨也は瞳を瞬かせて。
一度離れた唇は再び臨也の唇へと戻ってきて、暖かな吐息と舌先が無遠慮に臨也の口内へと入り込んでくる。
「ん、ん…ぅっ」
角度を変えてもう一度。
徐々に深まる口づけに流されるかのようにして瞳を閉じれば、身体の奥深くにじんわりと熱が生まれる。
キスひとつでこんなにも簡単に熱を灯されるだなんて今に始まったことではないのだけれど。
それに頬にも熱を感じるから、フードの存在がありがたいと思えてしまうことが悔しくて仕方がなかった。
「はぁ…」
数度貪られて離れていく唇。
いつの間にか掴まれていた手首が解放されていたことにも気付けずにいた。
細く透明な唾液の繋がりを辿れば、名残惜しさを想起させられたことからは目を背けて。
「……シズちゃん?」
静かな声音の中には、若干の苛立ちと不信感が込もってしまうのは致し方がないことだろう。
それでも静雄は、真正面から臨也を見つめ返して。
そして徐に胸ポケットから煙草を取り出しては火をつけた。
「…手前が悪い」
「はぁ?」
ようやく口を開けば謂れもなく責められて、臨也は今度こそ不機嫌を露わにするのだけれど。
「落ち着かねぇ」
視線を逸らさずにそれでも臨也に紫煙がかからないように配慮はしてくれる。
しかし、静雄の言動はさっぱり意味がわからないままで。
「それって、どういう…」
「毎日手前の顔を見なきゃ落ち着かねぇ」
臨也の言及を遮るようにして言い放たれた言葉。
呆然とその言葉の意味を噛み砕けば、それは。
臨也が答えを出すのを、短気な静雄にしてはめずらしく待ってくれている。
「…だったら、シズちゃんから会いにきなよ」
臨也が一転して不敵な笑みを浮かべれば、今度は静雄が不貞腐れたような顔をする番だった。
「めんどくせぇ」
「ちょっと。ひどくない、それ?」
だけれど、そんな言動とは裏腹に、フードに覆われた臨也の頭を撫でるように静雄の掌が動く。
はたき落としてやろうかとも思ったけれど、結局臨也が選択した行動は異なって。
「素直じゃないねぇ、シズちゃん」
「うるせぇ」
臨也が自らの掌をそっと添えれば、すぐに握り返されて。
そして、繋がった掌を起点にぐいと引き寄せられ静雄のほうへと導かれることで抱きしめられる。
温もりに包まれれば、不思議と広がる安堵感。
しかし、それだけでは足りない。
満たされればさらに貪欲にその先を求めてしまうから。
「ねぇ、シズちゃん?」
「あ?」
「君はキスだけで足りるの?」
だから、臨也は素直じゃない静雄のためにという名目で、静雄の耳元で笑みを零しながらも明確な誘いの言葉を紡いでやることにした。



END(2011.5.25)




毎日顔を見てキスをしないと落ち着かないなんて、もう早く結婚すればいいと思うのです。

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