る場所はあなたの腕の中



【3】


ふと目が覚めると、確かに抱きしめていたはずの存在がないことに気がつく。
「……臨也?」
「あ、起きちゃった?」
衣擦れの音を目敏く拾った静雄が顔を横向け静かに問いかけると、ベッドの側で身支度をしていた臨也は聊か驚いたようだった。まさか静雄が起きるとは思わなかったのだろう。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「いや…。また出掛けるのか?」
「残念ながら時間切れなんだ」
まだ夜が明けきっていないのか、カーテンの外の空は薄暗い。それなのにまた出かけるだなんて。せっかくこの腕に抱けたというのに、臨也はスルリと擦りぬけてしまうのだ。
「もしかして仕事の途中で帰ってきたのか?何でわざわざ帰ってきたんだ?」
「…今日は何の日か覚えてないわけ?」
「今日?」
「誕生日だよ、シズちゃんの」
「あ…」
言われてみればそうかもしれない。高校を卒業するまでは家族が祝ってくれていたけれど、それも家族と離れて暮らし始めてからは途切れていたので、臨也から指摘されるまで気付けなかったのだ。
ようやく思い至って、臨也を見つめ返せば少しばかり呆れたような表情をされた。
「だからか?」
わざわざ仕事の途中に戻ってきたのは。
「そうだよ」
「……」
いつものコートを着込んだ臨也が、ベッドに屈みこんできて微笑みかけてくる。
「それなのにひとりぼっちだと可哀想かなって思って」
いつだって奔放な臨也だけれど、ちゃんと誕生日を覚えていてくれた。
それだけ、自分のことを想っていてくれていたのだと思えは嬉しさが勝る。
「―…そう思うなら行くなよ」
思わず臨也の手首を掴み、零れたのは引きとめるかのような言葉。口にした静雄自身もまた無意識のそれに酷く驚いて。
「わっ」
そんな自分の動揺を悟らせないがために、臨也の手を引いてベッドの中へと引き込む。
特別な日に特別な人に祝って貰えるということ。
いつもの日常ではない、誕生日という特別な日。
それゆえの儚さと愛しさを知ってしまってはもうダメだ。
「コート、皺になっちゃうって。…あ、ダメだって、脱がさないでっ」
静雄にしてみれば、臨也の都合など知ったことではない。とにかくこのまま離したくはないのだ。
唇を塞ぎながら、邪魔なコートを脱がし、インナーの上から弄ってやるのだけれど。
「ん、ふぁ…っ、ちょっと待ってってば、シズちゃん…っ」
「なんだよ。どうせまたしばらくいないんだろ?」
抵抗を繰り返す臨也に、静雄は苛立たしさを露わにする。すると、臨也は若干涙目になりながら唇を尖らせる。
「明日っ」
「あ?」
「明日にはちゃんと仕事終わらせて帰ってくるから、それまで待って!」
「……待てねぇ。ていうか、それなら中途半端に帰ってきて煽んじゃねぇよ」
「何それ、せっかく帰ってきたってのに意味分かんないからっ!それに四木さんに怒られちゃうからっ!」
「おいおい、俺の前で他の男の名前を口にするなんていい度胸じゃねぇか」
嫌がる臨也を押さえつけ、本格的にインナーの裾から手を差し入れてやる。もうこの機会に情報屋なんてやめてしまえばいいのだ。
「シズちゃん…!」
「もう黙れ」
「うう、酷い!ケダモノ!」
「はいはい」
あんまりに嬉しくて臨也に再び貪りつけば、罵詈雑言は尽きなかったのだけれど。
「俺の誕生日なんだから、俺の言うこと聞けよ」
静雄はその一言で臨也を黙らせて、戦慄く臨也の唇に満足そうに口づけたのだった。


END




甘いですね。
同棲設定はいくつ書いてもいいです、萌えます。

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