る場所はあなたの腕の中


※シズちゃんハピバネタ
※二人は同棲しています
※1月オンリーにて無料配布したものに加筆修正をしています


【1】


「シズちゃん」
「…っ!?」
耳元に温かい吐息を吹きかけられ、驚いて飛び起きてみれば。腕の中に臨也がいてひどく驚いた。いつの間に帰ってきていたのか。
「な…!?」
「ちょっと失礼だなぁ、恋人の顔を見て驚くなんて」
静雄の驚いた表情を見ることができ満足そうに臨也が笑みを零す。その上、モゾモゾと居心地のよい場所を求めて痩身を動かすのだから堪ったものではない。
ベッドが生々しくギシギシと音を立てるのがなんとも厭らしい。
「待て、臨也…っ」
「なあに?」
なんとか引き剥がそうと押し返した臨也の身体は相変わらず細い。コートを脱ぐと一層身体の細さが強調される。
「擽ってぇから…っ」
臨也が負けじと身体を押しつけてくるので、サラサラの黒髪が胸元を擽る。絶対に確信犯だ。
「ふふ、感じちゃう?」
「ちが…っ」
インナーの袖口から伸びる悪戯な細い指先がついっと静雄の腹部を滑って。
「じゃあ…」
嬉しそうに口角を上げた臨也は、小首を傾げながら身体を起こすから、ようやく解放されるのだと安堵のため息を零したのだけれど。
「このまま死んで?」
「……っっ」
最高の笑みを敷いてまるで歌うかのように口にすると、繰り出されたのは臨也お得意のナイフ。隠し持っていたのだろうそれを、真上から突き刺すかのように静雄の心臓の辺りを正確に狙う。だけれど。
「ち…っ」
ガツンとナイフが跳ね返された音から少し遅れて臨也の舌打ち。静雄は心臓ではなくシーツの上へと突き刺さっているナイフと臨也の顔を見比べて。
「いーざーやーくーん…?」
「あは…っ、やっぱり無理かぁ…」
苦笑いを浮かべているが、最初から起きぬけを狙うつもりでいたのだろう。まったく性懲りもない。
「なんでこんな真夜中に叩き起こされた挙句に手前に殺されかけなきゃならねぇんだ?あぁ?」
ゆらりと身体を起こした静雄は、怒りに頬を引き攣らせていて。
「マジにうぜぇ!!」
「痛――っっ」
へらへらと笑う臨也の胸倉を掴むと、当然のごとく殴りつける。至近距離からの攻撃を避けることができなかった臨也は、頬にまともに拳を喰らい、シーツの上に沈み込んでしまった。
「マジ痛い、本気で殴ったぁ…!」
「…ったくよぉ!」
痛みに耐えるようにして頬を手で包み、全身を丸めて震える臨也を鋭く睨みつける。
こうやって臨也の顔を見るのは実は二週間ぶりだ。一緒に住んでいるにも関わらず久方ぶりの再会になったのは、ひとえに臨也の仕事のせいだ。情報屋なんて胡散臭い仕事を未だに続けている臨也は、これまた粟楠会というヤクザ連中とも繋がりと持っており、今回はその伝手で頼まれた仕事のため自宅を開けていたというわけだ。
それに、不意打ちでこうして殺しにかかってくることもやめようとはしない。臨也曰く、「どうせナイフで死なないくせに」なんて恋人の風上にも置けない言い訳をする。そんな関係は高校時代から変わることはないのだけれど、ひとつだけ、自分たちの関係には大きな変化があった。
そう、静雄と臨也は恋人同士で、現在同棲している仲でもあるのだ。
「帰ってきたらまずはただいま、だろうが。何日も家をあけやがってよぉ」
「先にそれなの?」
不貞腐れた表情を浮かべる臨也に、静雄は嘆息しながら告げるのだけれど。
「…まあいっか。ただいま、シズちゃん」
「おう」
サラリと黒髪を撫でてやれば、臨也は一転して気持ち良さそうに瞳を閉じた。切れた唇の端をわざと指の腹で擦ってやれば、臨也は苦笑を洩らす。
「痛いってばぁ…」
じゃれつくように静雄の腕へと自身の指先を絡めてくるのだから可愛くて仕方がない。先ほどナイフを突き刺されたことなんてどうでもよくなってくるのだから不思議だ。それを言ってしまえば、憎しみ合っていた自分たちがどうして恋仲になってしまったのかという問題まで逆戻りすることになってしまうのだけれど。
「せっかく恋人が帰ってきたっていうのに?抱きしめてくれないの?」
「手前が言うな」
自分のしでかしたことは棚に上げて甘えてくる臨也に目を細めながら、それでもその痩身を抱きあげてやる。おまけとばかりに切れた唇を舐めてやったのだけれど、臨也を喜ばせることにしかならなかったようだ。
「ねえ?俺がいなくて寂しかった?」
「うるせぇ」
臨也がベッドの上で正座を崩したような体勢で静雄を上目遣いで見上げてくるから、静雄はふいと顔を背けた。図星を指されることほど恥ずかしいことはないからだ。
「ムカつくから抱かせろ」
腹立たしさとともに湧きあがるのは臨也に貪りつきたいという衝動。我ながら直情的すぎるとは思うのだけれど、こうして無事を確かめてしまえばもうダメだ。
まるで甘い毒に侵されたような感覚を持て余し、睨みつけ吐き捨てるかのように口にすれば、臨也は一瞬目を丸くしたのだけれど。
「抱き合うのも久しぶりだもんね…?」
「誰のせいだよ?」
「ふふ、俺のせいかな。…んっ」
そうして。静雄は、もうそれ以上は減らず口を叩かせないとばかりに、その熟れた唇を噛みつくようにして塞いでやった。

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