ンイロコンフィデンス




※ヤンキー静雄×リーマン臨也





「なにこれ」
臨也が出勤前にゴミを捨てようと向かったそこには、ゴミにしては些かデカイ物体が転がっていた。
朝日に金髪が力無く反射する。衣服も薄汚れ、頬や口元は裂傷を負って腫れている。そんな満身創痍の男が、気を失っているのか、山のようなゴミ袋をクッションにしてぐったりと横たわっていたのだ。
「…酔っ払いかな」
いや、違うか。
ゴミを傍らに置いて、しゃがみ込む。否定したのは、酒気を感じないのと、血の気を失った顔が随分と幼いからだ。
「…このクソ忙しいときに」
この様子からして、派手に喧嘩でもした後なのだろう。どうしてこんなところで、という至極真っ当な疑問が浮かぶが、今は瑣末なことでしかない。
臨也は、小さく舌打ちすると、男の肩を掴んで遠慮なく揺さぶった。
とにかく、こんなところで野垂れ死にされでもしたらいろいろと面倒だと思ったのだ。見て見ぬふりもできたはずなのに、後から考えても魔がさしたとしか言いようがない。
「起きな!こんなところで寝てたら風邪引くよー?」
「う……」
しばらく揺さぶり、仕方ないので腫れた頬をひっぱたいてやろうかと思ったところで、小さな唸り声をあげた男の瞼がピクピクと痙攣した。
「……ってぇ」
揺さぶった振動でどこか傷が痛むのか、煩わしそうに瞳を開けた男は、臨也の腕を掴む。ギシリ、と予想を超えた力に思わず驚いた臨也は、歯を食いしばった。
「…っ、痛いのはこっちだよ」
これは、明らかに勘違いされている。やっぱり起こすんじゃなかったと少しばかり後悔しても遅い。
離してよ、と牽制しながら渾身の力で振り払えば、案外と簡単に手は離れた。代わりに寄越されたのは、不審感たっぷりのうろんな瞳。
「…起きたなら、さっさと行きな」
掴まれた腕はじんと痛むけれど、微塵も顔には出さずに腕時計を確認。臨也は、即座に別の意味で眉を潜めた。
「やば、遅刻…!」
もう行かないと本当に遅刻してしまう。人助けなんて柄にもないことをしなければよかったとひとつ舌打ち。
「あ…っ」
しかし、臨也の視界に飛び込んできたのは、赤。肘のあたりにべったりと赤い汚れがついているのだ。それはちょうどこの男に掴まれた場所。
「あー!」
腕を持ち上げ、今度こそ声を上げた臨也は、怨みがましく眼前の男を睨んだ。当然だろう、こんな血まみれのスーツで出勤できるはずがない。
「あ、わりぃ」
スーツの惨状に気付き、一応謝ってきた男だが、たいして悪びれたふうもない。ふわあ、とあくびをしたのがいい証拠だ。
「クソッ、失血死すればいいのに」
「こんくらいで死なねえよ」
しかし、臨也がぼそりと零した厭味だけは目敏く拾われる。
「…俺のじゃねえし」
さらにてのひらをヒラヒラとさせながら、心外だとばかりに訂正される。つまり、これはどこの誰、とも言えない人間の血と言いたいわけか。尚更冗談じゃない。
「ふざけんな…!」
一喝した臨也は、踵を返す。男を一発殴りたい衝動を必死に押さえ込むがあまり、拳が震えている。スーツを汚され着替えを余儀なくされた今、遅刻と目の前の男、天秤にかけどちらを選ぶかなんて明白だ。
「通報しといてやる」
腹いせ混じりに呟き、胸元から携帯を取り出す。とにかく、やんごとなき事情で遅刻を免れないと波江に連絡しなければ、待っているのは厭味の嵐と仕事の山だ。
すると、突然スーツの背を引っ張られ、つんのめりそうになる。
「な、なに…!?」
「腹減った…」
同時に、ぐう、と派手なはらのむし。
この野郎。
どこまで面倒をかける気か、いやこれ以上巻き込まれるわけにはいかない、と突き放すべく口を開こうとすれば。
「もう、限界…」
昨日からなんも食ってねえんだよ、となぜか睨まれた。
「俺を起こした責任取れよ」
「知るか…!」
それこそ、ひどい言い掛かりだった。だから、臨也は反射的に逃げようと前に踏み出したが。
ビリ。
今、ビリっていった?
恐る恐る振り向いたスーツの裾は、案の定、無惨にも破られている。
「あ…」
スーツの切れ端をピラピラと揺すった男は、案外脆いんだな、なんて口走るものだから。
臨也はくちびるをわななかせながら、今度こそ容赦なく、その腫れた頬をひっぱたいてやったのだった。






to be continued…?





今のところ優しいヤンキー静雄です。
某RTにたぎってフォロワーさんとお話させていただいていたネタからでした。


2012.5.31 up

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -