ルトドロップ サンプル





※シズイザ小説、高校生静雄×パティシエ臨也パラレル。
※表紙イラスト:こみや様
 

「イチゴミルクと、今週のケーキ」
「……かしこまりました」
微笑みながら、彼の手元の閉じられたメニュー表を下げる。
彼はいつもイチゴミルクと毎週月曜日に出すことにしている週替わりの新作ケーキを注文する。
だけどさ、どんだけイチゴミルク好きなの。それとも、イチゴが好きなのかな。
ちなみに、今週の新作ケーキはとちおとめを使ったムースだ。
注文を受けて少しだけ逡巡したのは、そのため。
イチゴ、かぶってるけれど、本当にいいのかな。
まあ、季節ものだから今しか食べられないし選んだのだろうと結論づけると俺は背を向ける。
ケースからケーキを取り出し皿に盛り付け、イチゴミルクをグラスに注ぐ。
両方とも薄ピンク色で、とても彼の外見に似合わなくて、思わず笑ってしまいそうになるのを必死にこらえる。
そういえば、彼はいつもどんな顔をして食べているんだろう。
そう、それは俺の単なる好奇心に過ぎなかったのだけれど、一度気になり出すとどうにも我慢できない。
「お待たせしました」
チラリと俺を見上げた彼は、目礼したつもりなのだろうが、すぐに眼前に置かれたケーキへと視線を落とす。
普段ならはここですぐにカウンターの中に引っ込んでいた俺だが、今日はカウンターへと戻る振りをして、こっそりと彼のほうを振り向いてみた。
(あ……)
ケーキを見つめる彼の顔つきには、無表情の中にもどこかあどけなさが残ることに気づいて、息を殺すようにしてフォークを手にする右手を見つめる。
ケーキにフォークを入れると、ゆっくりとすくい上げ、口元へと運ぶ一連の動作を見守って。
すると。
(……っ!)
ケーキを味わうようにして目を細める彼の顔つきを、擬音で表すとすれば、「ほわーっ」が近いだろうか。
ゆっくりと咀嚼して、そして素早く次の一口を放り込む。
そして、また、ほわり、と顔を綻ばせている彼の顔つきは、むっすりとした外見をこっぴどく裏切るもので。
なんて顔してんの。
そのギャップに、俺は思わず吹き出してしまったのだ。
「……ふはっ」
「……!」
マズイ、と我に返ったところで後の祭り。
バッと勢い良くトレイで口元を隠したものの、彼が訝しげにこちらを見上げている。
「……今、」
俺のこと笑ったか、と不機嫌そうに睨みつけられる。この状況で、自分のことを笑われたと取られてしまうのは当然のことだろう。
「あー…と、すいません」
それでも、まだニヤけてしまうのが止まらないから、いつまでたってもトレイを外せない。
「……別にいいっすけど」
いやいや、よくないだろう。フイ、と顔を逸らしてしまった彼の顔がそう物語っている。
拗ねているのだろうか、案外子供っぽいのかもしれない。ますます眉間にシワが寄ってしまい、ケーキにフォークを突き刺すのが乱暴だ。
俺に非があるのは認めるけれど、せっかく丹精込めて作ったケーキをいつもの仏頂面で食べられるのは些か悲しい。
「……ちょっと待ってて」
俺は急いで厨房へと小走りで戻り、ショーケースの中に残っているケーキをいくつかトレイに手早く乗せた。イチゴのショートケーキ、モンブラン、ベイクドチーズケーキ。あとは、プリンとシュークリームも。
いつも新作ケーキを選ぶ彼だから、この店の定番ケーキを食べたことがない。
俺の言動に疑問符をたっぷりと浮かべた彼をよそに、目の前にケーキバットを置く。
「笑ってしまったお詫びに。よかったら、もうひとつケーキどう?」
「……は?」
「いや、お腹いっぱいなら、無理にとは言わないけど」
「……まだ、いけるっすけど」
「じゃあ、遠慮なくどうぞ?」
ズイ、とケーキバットごと彼のほうへ押してやる。そして、ケーキサーバーを手に待ち構えていれば。
「いいんすか…?」
「うん」
最後に申し訳なさそうに確認した彼は、少しだけ戸惑ったように視線を彷徨わせて。
「……プリン、貰っていいすか」
「もちろん」
彼が選んだそれはなんの変哲もないプリンに見えて、カラメルはプルプル、生クリームをたっぷり混ぜ込んだトロトロプリン。納得がいく仕上がりになるまで苦労したんだから、これは結構な自信作だ。
これを選んでくれるなんて、なかなかの目利きじゃないの。
俺は、さっき彼に働いた無礼のことなどすっかり忘れて上機嫌になってしまった。
「おまけにホイップクリーム添えてあげようか?」
「……え、いいんすか」
「いいよ」
再び厨房に戻って、ホイップクリームが入った絞り袋と、あとはおまけのチェリーを冷蔵庫から取り出してくる。
「よ、っと」
プリンの上にホイップクリーム、その上には真っ赤なチェリー。
ちょん、とチェリーを添えてから、子供っぽいかな、と少しばかり後悔したのだけれど、反して彼は目を輝かせている。
「……なんか懐かしいな、これ」
ガキんときよく食べた、とボソリと零した彼だったけれど、お気に召したようで。子供の頃の思い出でも思い出しているのだろうか。
「どうぞ?」
「……いただきます」
まずはせっかく飾ってあげたチェリーを脇に置く。チェリーは最後に食べる派らしい。
スプーンでプリンを一口運んだ彼は、目を丸くして。
「……美味しいかな?」
少しばかり緊張しながら問えば、彼はまた一口プリンを口に入れてから。
「美味い。今まで食べたどのプリンよりも美味い」
「……そう」
頬杖をついて彼がプリンを味わってくれる様子を見守っていた俺の口元も緩む。こんなにストレートに褒められて、嬉しくないわけがない。
「よかった」
安堵とともに笑いかければ、彼は一瞬不思議そうな顔をして、そしてまた仏頂面に戻ってしまった。
耳朶が少し赤いから、もしかして照れているのかな。
「これで、お詫びってことでいいかな?」
「…んなもん、別に気にしてねえのに」
嘆息しながら、笑われるのなんて慣れてる、と彼は口早に言い放つから。
「慣れてる…?」
「甘いもん好きそうに見えない、って」
「へえ?」
そんなこと誰が言うの、と合いの手を入れてあげれば。
「新羅の野郎、あ、新羅ってのは幼馴染なんすけど、アイツにスイーツ男子とか散々からかわれるし」
「ふふっ」
確かにね、と頷きそうになってまたしても地雷を踏むところだったと寸前で押しとどまる。また怒らせてしまったら元も子もない。
確かに、この風貌じゃ甘いもの好きには見えないよね。
「そのギャップがいいんじゃないの?」
「ギャップ?」
どこが、と首を傾げる彼に、俺はくい、と少し伸びている前髪を引っ張ってやる。
「お仲間が増えるのは嬉しい」
俺も仲間内にパティシエとしてこの店をオープンさせることを話せば、「似合わない」と散々に言われたものだ。失礼しちゃうよね。
だから、仲間。
まあ、彼にとっては誤魔化されたようにしか聞こえないかもしれないけれど。
「じゃあさ、毎週俺の店に来てくれてるってことは、俺のケーキが君のお気に入りの中に入っていると考えてもいいのかな?」
俺への追求を諦めたのか、最後にとっておいたチェリーを銜えた彼に、思い切って聞いてみれば、彼はコクリと頷いてくれる。
「……この店、見つけたのは偶然なんだけどよ」
なんでこんな判りにくいところにあんの、と逆に問い返されて、俺は苦笑してしまった。
「まあ、道楽でやってるから、ね」
「道楽って…。何ジジくさいこと言ってんの」
「わあ、失礼しちゃうな。これでも俺はまだ二十代だよ?」
「え」
「二十五歳。まあ、四捨五入したら三十だし、君たちからしたらオッサンかな?」
そんなに驚くところかな。逆に年相応に見られたことのほうが少ないんだけれどね。
そこで彼は、じっと俺を見つめて、チェリーの茎を皿に置いた。
「すげえな、アンタ」
「何が」
「二十五で、もう自分の店持つとか…」
「え、いや、そんなことは…」
どうやら彼が驚いたのは、俺の年齢なんかじゃなったらしい。マジマジ、と純粋な眼差しを向けられればどこかこそばゆい。
というか、俺の場合、道楽というのは本当のことで、趣味が高じて店を出しただけなんですけれど。
「すげえよ」
そんなに立て続けに褒められても、と、がらにもなく狼狽えてしまえば、対面の彼はなぜか少しばかり項垂れてしまう。
「俺の場合何年かかんのかな…」
ああ、夢はパティシエなのかな。重苦しいため息を吐き出す彼がなんとも微笑ましい。
「ねえ、君、名前なんていうの?」
「え、平和島っすけど…」
「下の名前は?」
「静雄」
静雄、ね。俺は、ふむ、とひとつ頷いて。
「じゃあ、シズちゃん」
「シズちゃん…?」
「うん、お近づきの印にね」
高校生の男の子にちゃん付けもないかと思うが、案外としっくりときてしまっては変えられない。
「いいでしょ?」
「……いいけど、よ」
渋々と了承した彼、もといシズちゃんは、俺に対する態度からしても年上には基本的には従順で、根は素直な子らしい。
それと、ぎこちなさが残る敬語がところどころとれているのは無意識なのだろうか。
「アンタの名前は」
「ああ、」
そういえば、言ってなかったよね、と笑って。
「折原臨也。ああ、呼び捨てでいいよ?」
「折原…」
「シズちゃーん、臨也って呼んで?」
目を細めてからかってやれば、シズちゃんは小さく舌打ちしてそっぽを向く。
おやおや、また照れているのかな。可愛いよね。
「決まり」
まだ逡巡しているらしいシズちゃんに代わって俺が決定を下してあげれば、「わかった」とシズちゃんは小さく了承してくれた。



***



「あ…、もっと、」
くちづけが終わりを告げた途端に、俺のくちびるから溢れたのは卑しい催促。
それでも、俺を見下ろすシズちゃんはますます獰猛さを纏っていくから。
「クソッ、可愛いんだよ…っ」
「う、わ……っ」
そうして、突然腰を掴まれて、シズちゃんのほうへと引き寄せられる。俺の痩せっぽっちの身体は簡単にシーツの上を滑り、シズちゃんにされるがまま、大きく両足を開かされた。
「あ…、ん、っ」
腰が浮けば、後孔が丸見えになる。
シズちゃんは、シーツの上に転がっていたオリーブオイルを再び手にすると、無遠慮に後孔へとそれを垂らしてきた。
「んっ、つめた…っ」
冷たいオイルが後孔へと入り込んでくる。隠しようもない激しい羞恥と期待に満ちた俺の身体の奥は疼いて堪らない。
「力、抜けよ」
恐る恐る、と指を這わせてきたシズちゃんは掠れた声音で俺を覗き込みながら。後孔の入口付近を撫で始め、指先でカリカリと引っ掻いてみたりする。
「あ、や…っ、んっ、」
太腿の付け根がピクピクと痙攣するのが判る。異物感に後孔が収縮を始め、それでも嫌がることなくシズちゃんの指先を喰もうとするから。
「入れるぞ」
「ん…」
俺の膝を掴み直したシズちゃんは、ゆっくりと指先を後孔へと挿入していく。オリーブオイルの滑りを借りたためか思いのほかすんなりと入り込んだそれを、入口まで引き戻してはまた奥へと進ませる、を繰り返す。
「ん、あっ、あ…、あぅ…」
指先が内壁を掠め、敏感なところを突かれては、我慢できずに嬌声を上げる。
しばらくすれば、グチュグチュ、という卑猥な水音が上がり、ゾクゾクとせり上がってくる快感に俺は瞳を閉じて耐えた。
「痛いか…?」
「ううん、ううんっ」
痛みを耐えていると勘違いしたのだろう、うっすらと目を開ければ、シズちゃんが心配そうに俺を覗き込んでいる。だから、慌てて首を振って否定した。
なんで、そんな顔してるの、と頬を緩めれば、シズちゃんが宥めるように俺にキスをくれた。
優しいね、シズちゃんは。
俺ばっかり好きで、汚れていて、なんだか狡い。
「もっと、乱暴にしても、いいよ…?」
「……っ、手前な…っ!」
絶句しながら真っ赤になるシズちゃんこそ可愛いのに、と思いながら、下半身のほうへと手を伸ばす。シズちゃんの腰元を撫で、さらに下へとてのひらを滑らせていけば、屹立した性器を見つけた。
「ほら、もう、入れて…?」
「く…っ、」
俺が性器をやわやわと握り締めてあげれば、シズちゃんは歯を食いしばって俺を睨みつけてくる。
すごく大きいコレで中を突かれたら、どんなふうになってしまうのだろうと想像するだけでも、荒々しく呼吸が乱れた。




to be continued……



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