ガパンサスに花束を サンプル





※シズイザ大学生パラレル
※表紙イラスト:こみや様





シャワーを浴びれば、さっぱりとしたせいか気だるかった身体も少しは回復した感じがする。
濡れた髪をガシガシとタオルで拭きながら、寝室の扉を開けた。
ガンガンにエアコンがかけられて暖かい部屋、薄暗い中でもベッドの上がこんもりと盛り上がっているのが見て取れる。
足音を立てないようにそっとベッドに近づけば、黒髪の先端がシーツの上に散らばっており、寝息のリズムにあわせて掛け布団が上下に揺れ動く。
ベッドの壁側に身を寄せているのは、そちら側がコイツの指定席だからだ。
指定席だと決めたのはもちろん俺ではない。ただ、壁側に寄ってくれるのは俺にとっても都合がいいから文句はない。
俺のベッドを半分占拠しているコイツの名前は、折原臨也という。今も頭をすっぽりと覆っている犬耳フードがよく似合う、同い年とは思えない男だ。
最初の頃こそ、泊まってもいいかな、だとか、ベッド使ってもいいよね、とかの遠慮がちな一言もあったはずなのに、いつの間にか当然のごとく俺の部屋に居座り、当然のごとくベッドを使っている。
それこそ、一人暮らしになってめっきり言わなくなった「ただいま」をごく自然に口に出せるほどに、臨也は俺のテリトリーにすっかり溶け込んでいる。
つまり、簡単に言えば、今や臨也と同居している、という状況にあるわけで。
ちなみに、俺が一人暮らしを始めた頃にはシングルだったベッドも、今やダブルベッドに変わっている。「二人だと狭いよね」と、ある日俺の承諾もなく変えたのは臨也だ。帰って来たら一回り以上大きくなったベッドに唖然としたものだが、俺は臨也を責めたりなどしなかった。というか、できなかった。むしろ、心の中ではグッジョブなんて思ってしまったくらいだ。
ただの男友達で、同居するだけだったら、ダブルベッドに変える必要なんてないし、同じ金を払うんだったら、もうひとつベッドを買えばいい。
察しのいい奴なら誰だって気付くだろう。
そう、俺と臨也は、恋人同士ってやつだ。それに、同居、では語弊があるな、同棲が近いかもしれない。蛇足だけれど、な。
「……」
ギシリとベッドに腰掛けて、首にかけていたタオルをベッドの下へと無造作に放り投げる。
半分俺の寝る場所をあけてくれているのは良しとしよう。だけれど、掛け布団全部を取り込むだなんて、いい度胸だ。
グイ、と掛け布団を引っ張ってやれば、ゴロン、と臨也の身体がこちら側に転がってきた。
「うーん…」
「おい、つめろ」
掛け布団を無事取り返した俺は、非難するように唸る臨也をゲシゲシと蹴ってやった。
「つうか、どけ」
惰眠を十分に貪っていた分際で、疲れ果てた俺の睡眠を邪魔しようだなんて許しがたい。
「ん、…シズ、ちゃ…?」
まだ蹴られたことには気付いていないのか、モソモソと丸めた身体を反転させて奥へとつめてくれる。
「……ねえ、もしかして、俺のこと、蹴った?」
なんか背中痛い、とボソリと零されて、俺は押し黙った。わざわざ肯定する必要もない。
「俺も寝る」
「もう…っ」
拗ねた声を上げる臨也を無視して、俺もモゾモゾと布団に包まる。じんわりと暖かいベッドは心地よかった。まあ、その点は感謝してやってもいい。
「…シズちゃん」
「おう」
「おかえり?」
「……ああ」
ただいま、と言って、おかえりと迎えられる。すっかり慣れたつもりでいても、まだ駄目らしい。そんな些細なやり取りが擽ったくて、未だにまともに応えられないでいる。
なんだか居た堪れなくなって、枕の位置を調整しようとして伸ばした腕に、スルリと寄せられるぬくもり。寝ていただけあって、いつもは低体温の臨也の身体は暖かい。
「…今日、寒かったでしょ?」
「そうだな」
短く答えてやれば、左腕の上に強引に頭を乗っけられる。無駄にさらさらな臨也の黒髪が、俺の腕の皮膚を擽り、刺激を受けた筋肉がピクピクと痙攣する。
腕枕。
今から、寝ると宣言しているのに、全く必要ない、腕枕。
――この、確信犯め。
「臨也」
「ん?」
「…寝るんだろ?」
「うん、寝るよ?」
返答とは裏腹に額を擦りつけてくる臨也は、まるで猫のようだった。そう、猫のように身軽で、気ままで、いつだって臨也は自由だ。そんな臨也に振り回されている自覚は、悔しいけれど存分に、ある。
「でも、シズちゃんがヤりたいなら、いいよ?」
「何をだよ」
「わかってるくせに」
そうして、ゆっくりと身を起こした臨也は、俺の上へと覆いかぶさってきて。こんなときの臨也は、艶かしくて、俺の思考を、熱を、強引に奪おうとする。
更に、質の悪いことに、その先を自分では言わずに、俺に言わせようとする。卑怯だと言えたら、どんなに楽だろうか。



***



黒髪を梳けば、指の間をするりと通り抜けてこぼれ落ちていく。気持ちいいのか、されるがままの臨也はうっとりと俺に頭を預けてくれていた。
「お返し、ね?」
「……っ、う、あ……っ」
ヤバイ、これはマジでヤバイ。
今までにないくらいに喉の奥にまで誘い込まれ、驚いた俺は思わず腰を浮かしてしまう。
「んぐ…っ、んっ、ん」
偶然突いてしまったのか、モゴモゴと頬の裏あたりの肉に先端が当たる。しかし、そのまま口を窄められ、ゆるゆると動かれては堪らなかった。
「くあっ、いざ…っ」
「ん、ん、ふ……っ」
先端には柔らかい肉の感触。たまに歯が掠めるのは、故意になのか、それとも。どちらにせよ、このままいけば限界はほど近い。
付き合った女にフェラをされた経験なら何度もある。だが、臨也はその誰よりも上手くて、的確だった。ただ、その慣れた手つきに、誰かの足跡を思ったが、それを指摘するのはこの場においてのルール違反だとわかっているから胸の内にしまっておく。
「ふ、あ……っ、んぐ、ふっ」
根元近くまでをくわえ込みながら、臨也がゆっくりと頭を前後に振り乱し始める。ジュプジュプと聞くに絶えないほどのいやらしい水音が鼓膜から飛び込んできて聴覚すらも犯そうとしてくる。
「う…、くぅ…っ」
震える根元をキュッと握られるのは、俺が簡単に達するのを阻もうとしているのかと思えばそうではなく、逆に確実に俺を絶頂近くまで追いやるためだ。
すっかり屹立した性器を思う存分に愛撫されて、太腿の付け根がヒクヒクと痙攣しだし、気がつけば俺も腰を突き出すようにして臨也を責めていて。
「ん、ふっ、ふっ、ぐ…っ」
一層激しく貪られて、一気に絶頂へと押し上げられてしまえば終焉が訪れた。
「っ、あっ、――…っ」
「ん、ふ、ん、んんっ…、んーっ」
脳髄まで何かが走り抜けた感覚は一瞬、声にならない強烈な快楽に、俺は臨也の口内へと精液を吐き出していた。
最後の一滴まで舐め取られて、くちびるを離した臨也は、はあ、と肩を揺らし、そして艶かしくも睫毛を震わせて。
「……、おい」
言い訳をするのも謝るのもこの場合おかしな話で。それなのに、股間からたじろぐ俺を見上げた臨也は、浅い吐息を吐き出しながら、未だ俺の性器を掴んだままで。
そして、しばらく、こてん、と首を傾けながら、何も言わずにじっと見上げられる。口元には残液らしきものがこびりついているのを見つけてしまえば、俺の負けだ。
やめろよ、こっち見んな。
ついに居た堪れなくなって、ティッシュを取ってやろうと手を伸ばそうとしたときだった。
「シズちゃん、さあ、」
「お、おう」
手を止められた挙句、後ろめたさでいっぱいの俺の声は思わず上擦ってしまって。責められる謂れはないとは理解していても、結局は我慢できずに全てを放出してしまった手前、何か言いたげな臨也の態度に、続くであろう罵倒を覚悟したわけであるが。
「…おっきいから、顎が外れるかと思った」
予想を裏切り、「規格外すぎるよ」とどこかしどけなく笑う臨也は、ようやく俺の性器から手を離して顎の辺りを摩っている。
「……知らねえよっ」
誤魔化すようにして怒鳴ると、ティッシュを取ってやり臨也の口元へと強引に押し付けた。
「ほら、拭いてやるから」
「ん、ん…、ちょっと、」
乱暴、と顔を顰める臨也を無視して、グイグイと残液を拭い取ってやる。
丸めたティッシュを、ゴミ箱目掛けてシューティング。コツン、と外れてしまったティッシュの残骸はゴミ箱のすぐ傍に落ちてしまって、「ハズレー」という臨也の茶化した声が追いかける。
「さ、続きしよっか?」
起き上がっていた臨也は、微笑みながら、シャツのボタンを自ら外していく。最後の三つほどを残して、ボタンにかけていた指を離したのは、わざとなのだろう。
露わになった胸元には、女のような膨らみも柔らかさもないはずなのに、想像以上に白くて艶かしい。
「…なあに?」
「あ、いや…」
臨也は、俺の不躾な視線をも嬉しそうに笑って受け流す。そして両手を伸ばしてきて、俺の首元へと絡みつけると。
「えいっ」
「……うわっ」
グイ、と背中からベッドへと倒れ込んだ臨也に倣って、俺もまた臨也へと覆いかぶさる体制になる。
「シズちゃん、緊張してる?」
「……つうか、」
緊張、していないと言えば、嘘になる。いや、動揺、のほうが近いか。つまりは、こんなにも臨也に対して欲情できる自分が不思議であり、そして、今度こそ気づいてしまったのだ。
「早く、臨也を、抱きてえのかも…」
「……!」
見下ろした先、驚いているのだろう臨也が目を丸くしているのを見て、俺自身何を口走ったのか、瞬時には判らなかった。
「うわ、俺、何言って…っ」
柄にもなく頬が染まっていくのが判る。俺は少しおかしいのかもしれない。全ては酒のせいだ、そう、酒が悪い。
酒はすっかり抜けてきているなんてことからは目を背け、何か理由付けしなければ耐えられなかった。
「ほら、ヤるんだろ?」
いそいそと臨也をベッドの奥のほうへと引き摺りあげながら、なんとか言い訳を考えるのだけれど名案が浮かぶはずもない。すると、黙り込んでいた臨也が、何か言いたげにくちびるを動かす。
「シズちゃん…」
「……なんだよ」
「ごめん、俺、今すごい、興奮した…!」
ヤバイよ、どうしよう、と鼻息荒く、おまけに目を輝かせる臨也に、思わず力が抜ける。それはさすがに、予想外の返答だったからだ。
「手前なあ…」
自重を支える両肘に力が入らない。普通に考えても異常な状況だと判っているのだろうか。
「シズちゃん、可愛い」
それでも、いつの間にか笑みを引っ込めた臨也が、俺を引き寄せてキスを強請る。
「可愛いってなんだよ」
「そのままの意味だよ?」
可愛いのは手前のほうだろ、とは賢明にも口にはしなかった。というか、できなかった。
どこか恭しく触れてきた臨也のくちびるは、触れるだけで去っていき。勿体ぶるんじゃねえ、と今度は俺のほうからキスを仕掛ける。
「ん、…ぅ、あ…っ」
薄いくちびるをこじ開け、舌を侵入させる。受身でしかなかった俺が、初めて攻撃に転じたわけだ。その気にさせられたんだから、仕方ねえよな。今更やめろなんて言われても無理だ。





To be continued...




back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -