妻家とホワイトデー



※愛妻家シリーズその5








「ん」
「……なに」
帰宅してすぐ、靴も脱がずに。出迎えた臨也が、俺が手渡した包みを受け取りながら怪訝な顔をした。
「やる」
「……」
俺の顔をちらりと伺い、手元へと視線を落とす臨也に満足しながらようやく靴を脱ぐ。俺に続いて、手渡した箱を抱えた臨也も入ってくる。
なんだよ、察しろよ、と軽く八つ当たりしてしまうのは、臨也に何か買ってやるだなんて結婚指輪を渡したとき以来でどこか気恥ずかしいからだ。
「開けてみろ」
サングラスを外して、蝶ネクタイを緩める。何かしていないと間がもたない。コイツ相手におかしな話だよな。
落ち着かない気持ちを必死に隠しながら、横目で臨也の様子を伺い見れば、テーブルの上に置いた箱をおとなしく開けようとしている。ガサガサと袋からでてきたのは白い箱。口の部分しか密封されていないから開けるのなんて簡単だ。
「…プリン」
「おう」
正直、何がいいか迷ったのだ。ホワイトデーだろ、とトムさんに言われ、すかさず食いついて相談してしまうほどに。ほら、バレンタインで奮発するって約束しちまったしな。
「なんのつもり?」
「今日はホワイトデーだろ」
知っているくせに、わざとらしい。そして、せっかくのプリンを前に顔色ひとつ変えない臨也がもどかしい。
「ふうん…。自分の好きなもの買ってくるとか、意味ないんじゃない?」
「ぐ…」
確かに一理あるために言葉に詰まってしまった。結局迷いに迷って、プリンならばハズレはないだろうと思ったことが裏目に出てしまったらしい。
「うるせえな、つべこべ言わずに食えよ」
「まあ、なにをもらっても一緒だけど…」
俺はいらないから勝手に食べなよ、と素気ない言葉と共に、臨也は箱に入ったままのプリンを見向きもしないままに奥の部屋へと引っ込もうとした。
臨也のために買ってきたのに、まるで興味がないなんて、そりゃあんまりじゃないのか。
「おい」
「なに」
まだ何か用があるの、と俺を見返す臨也にやる瀬ない気持ちになる。
視界の端には、箱から出しても貰えないプリンたち。一緒に、毎日食後に食べようと6つ買ってきたというのに。
「喜べとは言わねえがよ…」
「……っ、」
気がつけば、臨也の腕を掴んでいて。驚愕に目を見開く臨也を覗き込み、なにビビってんだ、と笑ってやった。
「せっかくだしよ、今から一緒に食べようぜ?」
「…っ、だから、いらないってば!」
「ふうん、」
まあいい。意地を張ろうがなんだろうが、俺は臨也と食べたいわけだしな。それでいいか。食べたくないなら食べさせるまでだ。
「俺に食べさせてほしい、ってわけだ?」
「そんなこと、言ってな…!」
最後まで言わせずに、俺はプリンを片手にわし掴むと、未だ曲解だと喚く臨也を床へと押し倒した。
やっぱ、かわいいよなあ、かわいい。押し倒した臨也は頑として首を振るまいと必死なようだが、その口に早々と突っ込んでやりたくなる。が、焦りは禁物だ。
せっかくの機会だからな、奮発してやった美味しいプリンを臨也と思う存分味わってやることに決めた。
俺は臨也にのしかかりながら、大好物を手に、努めて柔らかく微笑んでやった。
「…がっついたらもったいないしな?」
それによ、ヤりすきだらすぐに泣いちまうからな、コイツ。



「おら、口開けろ」
「ん…、くっ」
両手を膝裏から回し、固定しながら、手にしていたプリンを掬って運ぶ。この期に及んでくちびるを噛みやがるから、下から突き上げてやった。
「あ…う、…ひっ」
ヒクリと顎をのけ反らして喘ぐ臨也のくちびるにプリンを運んでやれば、また強くくちびるを引き結ぶ。
モゾリと背中で自由がきかない両手を動かしているのがわかる。そう簡単に外れねえんだからいい加減諦めればいいのによ。
「…なあ、ひとりで食えねえんだからおとなしく口開けろって」
「縛ったの、シズちゃん…っ」
「ああ、そうだったな」
さっき、せっかくのプリンを払いのけやがってひとつだめにしやがったからな、仕方なかったんだよな。床には無残に零れたプリンがそのままになっている。ああもったいない。
「ほら、食えよ」
「う…、あ、」
強引にプリンを突き付ければ、俺が動いたせいで中をえぐる角度が変わったのだろう、かわいらしく啼いた臨也が観念したようにくちびるをゆるゆると開けた。
「ん…、ぐっ」
スプーンで突っ込めばようやくひとくち食べた。噛むのもままならないのか、しゃくりあげながら飲み込みやがる。まあ、喉に詰めはしねえだろ。
「お、コレうめえな」
臨也の頭上で俺もひとくち。プリンもやっぱり旨い。臨也も素直に味わえばいいのによ。
「ついてる」
「ん、く…っ、」
顔を横向けさせ、後ろからくちびる付近に残るプリンの残骸を舐めとれば、臨也がまたひとつ締め付けてきた。たったそれだけなのに随分と敏感になっているようだ。
「そんなに旨いかよ?」
「あ、…あーっ!」
プリンも、ココも。
プリンを床に置き、抱き込み突き上げてやる。奥をガツン、と穿った快感が背中を走り抜けた。完勃した臨也の性器が揃って抱えられた太腿の間で先っぽからダラリと精液を溢れさせる。
軽くイッたのだろう、ヒクッと痙攣し、か細い悲鳴を上げた臨也は、答える代わりにぐったりと俺にもたれかかってきた。
「はあ、も…う」
許して。
もどかしげに動かされたくちびるが、懇願を形作る。
ん、ん、とまるで喘ぐように咥内に残っていたプリンを飲み干した臨也は、それだけで、はあはあと両肩を大きく震わせている。
無理もないな。準備して突っ込んでやったまま、一度もイかしてやってないことだし。中途半端に嬲るだけ嬲ってやったからそろそろ限界なのだろう。
「…ったく、手前は相変わらず根をあげんのが早えな」
そこがまた虐めたくなるくらいにそそられんだけどよ、と耳たぶを甘噛みしながら囁いてやる。
「…ん、う」
もう反抗する気力もないのだろう、臨也が虚ろな視線をさ迷わせて俺の腕に縋り付く。反して、健気にも広げられたままの膝をなんとか閉じようとしている。こんなになっても羞恥心は残っているようだった。
「ねえ…、んあっ」
はあ、とまたひとついやらしく身体を捩った臨也だったが、逆にイイところに当たってしまったらしく、くちびるを戦慄かせて堪えている。
これじゃあなんだかんだ言って催促してんのかと思うじゃねえか、まったく、笑っちまうぜ。
「まだプリンが残ってるぜ、臨也くんよ?」
夫想いの手前が残すなんてないよな、最後まで食べるよな、と掬ったプリンを再び口元に運んでやる。
「……っ!」
ホロリととうとう眦に貯めていた涙を零した臨也は、諦めたように口を開いた。全部食べなければ望むものが与えられないことをようやく理解したらしい。
「あ、ひっ、…や、やめ…っ、ん、く…んんっ」
柔らかいプリンですら満足に飲み込めないのは、俺が適度に突き上げて揺さぶっているせいだが別に意地悪をしたいわけじゃない。俺に縋るしかないくらいに、とことんまで追い詰めてやりたいからだ。
「はっ、もうグチャグチャだなあ?」
涙なのかよだれなのか、プリン混じりの黄色っぽい液体を指先で掬ってやりながら、うっとりと呟く。
「旨いか?」
「…ん、う、あ…」
言葉にならねえほど旨いらしい。しかし、臨也はいつだって綺麗な奴だが、俺の腕の中でグチャグチャになって喘いで俺を求めてくれるときが一番綺麗だと思う。額にひっつく前髪を払ってやり、ぐい、と胸元へと引き寄せた。
「や、あ…も、俺…っ」
「あ…?」
何事かと見下ろせば、プリンを懸命に飲み込みながら、臨也が震える声音を絞り出し始める。
「こんな、プリンみたいに、…はあ、ぐちゃぐちゃになって、あ…、」
壊されるの。
まるで謎かけのような、臨也の言葉の真意はわからない。
ただ、俺の答えなんて決まりきっていた。
「そうだな…」
「…あっ」
覆いかぶさるようにして、包み込むように抱きしめてやる。爪先がピクピクと痙攣するのを愛おしく見つめながら、また力を込めた。
「壊れてわけわかんなくなって、そんで全部俺のモノになればいい」
安心してな、と臨也の不安を緩和してやりたくて、優しく優しく諭してやったのに。
「……っ」
臨也は本当に強情で、自分から言い出したくせに頷く気配はない。
長期戦か。それもいい。不利なのは自分のだとわかってやがんのかな。
「とりあえずイかせてやるから、声、聞かせろよ」

甘い甘い声を、壊れるくらいに上げてくれれば、同じだけ俺も気持ちよくなれるから、な?





パタンと閉じた冷蔵庫がブーンと独特の電子音をたてる。
「新しいの、補充しておかなくちゃな」
冷蔵庫の中にはまだプリンが残ってはいるけれど、明日の朝も食べさせるつもりだし。
なんだかますますプリンが好物になってしまった。

だけどよ。
プリンを見るたびに臨也が浮かぶのが幸せだ、なんて伝えたら、アイツまた怒るんだろうな。
そっと苦笑しながらも、臨也が眠る寝室を、俺は振り返らなかった。





END





2012.3.22 up

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